企業がAI技術の導入に意欲を示す一方で、「スキル不足」が大きな障壁となっている。AWSは英国で10万人規模のAI技術活用スキルの教育プログラムを展開し、この課題の解消に取り組む。その狙いは何か。
企業のAI(人工知能)技術導入で課題になるのは、AI技術を使いこなす人材とスキルの不足だ。さまざまな方法で企業はAI技術導入の障壁となっているギャップの解消に取り組んでいる。そうした中、大手クラウドベンダーのAmazon Web Services(以下、AWS)は、英国において2030年までに10万人にAI技術活用スキルを提供する方針を明らかにした。
このスキル育成施策によって、何が変わるのか。その取り組みを紹介する。
このスキル育成施策は、AWSが2023年に米国、エジプト、スペインで開始した「AWS Skills to Jobs Tech Alliance」を地理的に拡大することで実現する。「Skills to Jobs Tech Alliance」は、クラウドサービスやAI技術などの先端技術分野で求められる人材育成とスキルギャップの解消を目的とした、グローバルな産官学連携の取り組みだ。AWSによると、この取り組みでは、既に38万人の学生がクラウドおよびAIに関する初級スキルを習得している。
AWSは2025年4月にロンドンで開催された同社のイベント「AWS Summit London」(以下、AWS Summit)において、英国にSkills to Jobs Tech Allianceを展開することを正式に発表した。AWSでグローバル公共部門(英国、ドイツ、国際機関担当)マネージングディレクターを務めるジョン・デービス氏は、「英国政府は、AI技術が国内経済にもたらす巨大な影響を認識している」と語った。その経済的影響の見積もりは、最大で450億ポンドのコスト削減が可能になるというものだ。「ただしそうした効果を実現するためには、スキルに関する課題の解決に取り組むことが欠かせない」とデービス氏は述べる。
AWSはAWS Summitの開催に合わせ、レポート「Unlocking the UK’s AI potential」を公開した。このレポートは、企業がAI技術を導入する際、必要なスキルの不足が大きな障壁になっている実態を明らかにしている。
レポートはコンサルティング企業Strand Partnersがまとめたもので、英国の企業1000社を対象とした調査結果に基づいている。それによると、2028年までに創出される求人のうち、約47%にAIリテラシーが求められる見通しだ。しかし現在、こうしたスキル需要に対して十分に備えていると考える企業はわずか27%にとどまっている。AI技術の活用が企業全体に浸透するためには、従業員のスキル向上が急務であることが浮き彫りになった。
レポートは、AI技術の活用において、企業はより大胆で戦略的な姿勢を持つべきだとの提言も示した。調査結果によると、「包括的なAI戦略」を策定している大企業は全体の15%だった。AI技術を継続的に利用していると回答した大企業は55%。これは2024年調査時の41%から増加しているものの、基本的な業務効率化にとどまるなど、AI技術の活用は依然として表層的なものになっているとレポートは指摘する。
一方、スタートアップ(新興企業)の中にはAI技術をビジネス戦略の中核に位置付けているところがある。スタートアップでは新たな製品の開発や業界変革に向けた活用が進んでおり、レポートによると59%のスタートアップがAI技術を導入済みで、そのうち36%がAI技術を用いた製品/サービスの開発に取り組んでいる。これは、大企業の25%と比較して高い水準だ。
レポートは、AI技術に関するスキルのギャップが解消されなければ、特に大企業を中心に多くの企業がAI技術の変革的な恩恵を十分に享受できなくなる恐れがあると警鐘を鳴らす。
2024年の英国の売上高全体に対して、従業員250人以上を有する企業の売り上げは48%を占める。こうした大企業でAI技術の導入が進まなければ、英国経済全体としても生産性や競争力の向上というメリットを取り逃がす可能性があるという。
デービス氏は、このギャップの要因として、スタートアップが「デジタルネイティブ」である点を挙げた。これはAI技術やクラウドサービスなどのデジタルツールを日常的に使いこなす素地があるということだ。これによってスタートアップは、新しいAI技術活用機能を自社の基幹業務アプリケーションに迅速に組み込むことが可能になっている。
これに対し、大企業や政府機関はレガシー技術に依存しており、既存のITインフラも複雑なため、AI技術の導入スピードでスタートアップに劣る状況にあるとデービス氏は指摘する。レポートによると、企業の52%が既にAI技術を導入済みだ。「これは2000年代初頭のモバイル通信技術の普及よりも速く、過去最速レベルの技術普及だ」と同氏は述べる。
この背景を踏まえ、AWSはAI技術活用スキルの育成対象を技術者に限定せず、幅広い職種に拡大する方針を示している。
デービス氏はAI技術について、「クラウドサービス関連のスキルが求められるのは主にIT専門家だったが、AI技術活用スキルは全ての人に不可欠だ」と強調する。同氏は、消費者向けの生成AI(画像やテキストなどを自動生成するAI技術)ツールを日常的な作業の補助に活用しようとする動きが活発化していることに注目しており、「人々がAI技術活用に前向きである証拠であり、好ましい傾向だ」と述べる。
「重要なのは、IT業界だけにとどまらず、医師や弁護士、ソーシャルワーカーといったあらゆる職種を対象にすることだ。これが、Skills to Jobs Tech Allianceの目指す方向性だ」(デイビス氏)
AWSはこの方針の下、英国の高等教育機関と連携を進めている。ITとは直接関係のない学部に対しても、Skills to Jobs Tech Allianceの教育プログラムを導入する取り組みを進めるという。その一例として挙げられたのがイーストロンドン大学(University of East London)だ。同大学は、在学生が主専攻の学位課程に加え、AI技術に関する選択式モジュール(学習単位や科目、テーマ)を受講できる仕組みを用意する計画だ。
「法学部の学生がAI技術を学べば、判例の検索といった分野において新たな可能性が広がる。こうした非IT分野こそ、AI技術が最も力を発揮できる領域だと考えている」とデービス氏は話す。
次回は、AI技術の活用とスキル育成の事例を取り上げる。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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