かつてVMwareと歩んだDellが乗り出す、「選べるプライベートクラウド」の真意ハイブリッドクラウド市場で何を目指すのか

Dell Technologiesは、企業のデータセンターにハイブリッドクラウドインフラを導入するための新たな選択肢を発表した。同社が掲げるハイブリッドクラウド戦略は、どのような選択肢を提供するのか。

2025年06月27日 07時00分 公開
[Tim McCarthyTechTarget]

 Dell Technologies(以下、Dell)は2025年5月に開催したイベント「Dell Technologies World 2025」にて、同社ハードウェアで動かすアプリケーションの将来像を示すとともに、プライベートクラウド構築製品群「Dell Private Cloud」を発表した。Dell Private Cloudに特徴的なのは、ソフトウェアの選択肢に焦点を当てていることだ。特に、VMwareやNutanix、Red Hatなどのクラウドインフラ構築用ソフトウェア向けに構築された点が強調されている。

Dellが乗り出す、新たなプライベートクラウドの形

 米Informa TechTargetの調査部門Enterprise Strategy Group(ESG)のアナリストであるサイモン・ロビンソン氏は、多くの企業がオンプレミスとパブリッククラウドの両方でアプリケーションを管理する必要性に気付き始めていると述べる。

 企業の多くは、オンプレミスとパブリッククラウドの2つの異なる運用モデルを接続し、それぞれの構成要素を手動で管理せずに済むようにしたいと望んでいる。単一のソフトウェアベンダーに依存することなく、ハードウェアレベルでクラウドのような自動化を実現できる点は、Dellの提供サービスを競合他社から差別化できる可能性がある。

 「これまでプライベートクラウドかパブリッククラウドかという議論があったが、今やほとんどの企業はハイブリッドクラウドを受け入れ始めている」とロビンソン氏は語る。「企業はクラウド運用モデルを好んでいるが、まだ自社のデータセンターをクラウド化できていないのが実情だ」

Dell Private Cloudの詳細

 Dell Private Cloudは、分離型インフラ展開ソフトウェア「Dell Automation Platform」を活用し、構成設定済みのカタログを基に、ハイブリッドクラウドの自動展開と管理を可能にする。

 これらの機能は、Hewlett Packard Enterprise(HPE)のオンプレミスインフラ向けサービス群「HPE GreenLake」に類似していると、調査会社NAND Researchの創設者兼チーフアナリストのスティーブ・マクダウェル氏は述べる。

 GreenLakeは数年前に開始されたため機能はより充実しているが、両ベンダーとも、オンプレミスでのAIワークロード(AI関連のタスク)用にプライベートクラウドを使用し、大規模言語モデル(LLM)に接続している企業をターゲットにしているという。

 「この動きは、HPEがGreenLakeで先行していたトレンドだ」とマクダウェル氏は述べる。「今回のDellの製品はHPE GreenLakeの軽量版のように見える。AI時代において、IT部門にとってはこうしたソフトウェア定義型のアプローチが適している」

 HPEは新たにハイブリッドクラウドプラットフォーム「HPE Morpheus Enterprise」を発表し、VMwareやNutanixに挑戦する姿勢を示していると、ロビンソン氏は述べる。

 一方、かつてVMwareを傘下に抱えていたDellは、現在は自社ハードウェア上で多様なソフトウェアに対応することで、ハイブリッドクラウドプラットフォームにおいて中立的な立場を取ろうとしている。

 「HPEとDellは、異なるアプローチで同じ目標に向かっている」とロビンソン氏は指摘する。「HPEは仮想化レイヤーから下のスタック全体を構築する戦略を取っている。対してDellは、ユーザー企業の現状に合わせた対応を重視しており、仮想化レイヤーで何を選択しても、それに対応し、自動化プラットフォームを通じて最適化する方針だ」

エッジとセキュリティの機能も強化

 Dellはストレージ製品の刷新に続いて、以下のようなエッジおよびセキュリティソフトウェア製品の機能拡張にも取り組んでいる。

  • エッジ運用ソフトウェア「Dell NativeEdge」は、異機種環境においても設定展開の自動化を実現できるよう、Dell製ハードウェア以外にも対応可能となる。
  • ストレージ製品「Dell PowerStore」および「Dell PowerScale」は、サイバーセキュリティ機能が追加され、「Dell PowerScale Security Suite」の更新および「Dell PowerStore Advanced Ransomware Detection」といったAI技術を用いたランサムウェア(身代金要求型マルウェア)検知機能を搭載。
  • データ保護ソフトウェア「Dell PowerProtect」シリーズに、新たに「Dell PowerProtect Data Domain All-Flash」というオールフラッシュのバックアップアプライアンスを追加。

 加えて、2024年に初めて披露された「Dell Project Lightning」(PowerScale上で動作する並列ファイルシステム)も引き続き紹介されていることから、Dellがハードウェア中心からソフトウェアへとシフトしており、ストレージ専業からソフトウェア企業へ変貌したNetAppに似た様相を呈していると、マクダウェル氏は指摘する。

 「Dellが示しているのはNetAppと同様のビジョンであり、確固たる立場を表明している」とマクダウェル氏は述べる。「歴史的にハードウェア企業だったDellが、今やソフトウェアとサービス分野に本格的に進出しようとしている」(マクダウェル氏)

<翻訳・編集協力:雨輝(リーフレイン)>

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