300人超のデータサイエンティストが活用 大手銀行がGoogle Cloudを選んだ理由開発速度と費用削減を両立

英国のLloyds Banking GroupはAI技術活用のためのシステムを「Google Cloud」に移行し、全社的な活用を加速させている。同行が考える、全社的なAI技術活用の「成功の鍵」とは。

2025年07月04日 05時00分 公開
[Karl FlindersTechTarget]

関連キーワード

人工知能 | Google | 金融 | クラウドサービス


 英国の大手金融機関Lloyds Banking Groupは、クラウドサービス群「Google Cloud」を利用して、AI(人工知能)技術を活用するためのシステム開発・運用基盤を構築するとともに、それを用いたAIツールのデプロイ(展開)と拡張を進めている。これによってAIツールの開発を加速させると同時に、二酸化炭素(CO2)排出量を削減した。同行が構築した新システムの詳細と、その効果を引き出すための戦略を紹介する。

300人が利用する新システムの詳細

 Lloyds Banking GroupはGoogle CloudのAIモデル開発ツール「Vertex AI」を活用して、機械学習(ML)モデルと生成AIツールの開発システムを構築した。このシステムは、300人を超えるデータサイエンティストが利用することになっている。生成AIは、画像やテキストを自動生成するAI技術を指す。

 Google Cloudへの移行に当たって、Lloyds Banking Groupはオンプレミスシステムから15件のモデリングシステムを移した。これには数百件のAIモデルが含まれており、それらのAIモデルを稼働させるために必要な電力量もかなりのものになる。従来のオンプレミスシステムで運用するよりも電力効率に優れるGoogle Cloudに移行によって、サーバの稼働に伴うCO2排出量を27トン削減できたとLloyds Banking Groupは説明する。

 Lloyds Banking Groupのデータおよび分析の担当役員であるラニル・ボテジュ氏は、Vertex AIの導入が大きな変革をもたらしたと考える。この導入によって同行は、AI技術を活用した新しいサービスを安定的に、かつ需要に応じて素早く大規模に拡張できるようになった。こうした変化は、同行の技術革新を加速させるための土台となっている。具体的には、データサイエンティストやAIモデル開発者は、一貫したセキュリティガイドラインの下で生成AIツールを利用できるようになった他、さまざまなLLM(大規模言語モデル)を使えるようにもなった。これはGoogleの「Gemini」だけではなく、サードパーティー製LLMやオープンソースのLLMも対象だ。

 Vertex AIの導入後、Lloyds Banking Groupは80件以上の新たなAI技術活用プロジェクトに着手し、事業全体で18件を超える生成AIツールを本番稼働させた。2025年4月時点では、同年6月までに新たに12件の生成AIツールを稼働開始させることも計画していた。

 今回構築したシステムを用いて、Lloyds Banking Groupは顧客と同行の対話方法に焦点を当てた「Agentic AI」システムの開発に取り組む。新しいシステムのプロトタイプは、2025年中に公開される見込みだ。

世界中で加速するAI活用

 企業のAI技術導入は急速に進んでいる。開発部門やIT部門だけではなく、事業部門もAI技術が業務改善にどう貢献するのかを理解する必要がある。

 英国の中央銀行Bank of Englandと、金融監督機関である金融行動監視機構(FCA:Financial Conduct Authority)は、英国内の金融サービス業者によるAI技術の利用動向を調査している。両組織は2024年、金融、保険分野に属する企業118社を対象に、AI技術の活用状況について調査を実施した。その結果によると、調査対象企業のうち75%がすでに何らかの形でAI技術を業務に導入していた。対象企業の41%が社内プロセスの最適化に、26%が顧客サポートの強化にAI技術を活用していることも分かった。

 Lloyds Banking GroupでデータとAIカルチャー部門の責任者を務めるジョシュ・カニンガム氏は、企業のAIリテラシー(AI技術を正しく理解して活用する能力)について、次のように語る。「AIリテラシーは、エンジニアだけではなく全従業員にとって不可欠だ。昨今の複雑なデジタル時代を乗り切る上で、AI技術を深く理解することは、イノベーションの推進や顧客体験の向上、競争優位性の維持に欠かせない」

 カニンガム氏は、AI技術が「データサイエンティストや技術愛好家向けの専門分野」だという誤解を指摘する。その上で、AI技術の影響は技術部門の枠を超え、顧客サービスからマーケティング、金融に至るまで、あらゆる領域ですでに革命を起こしていると主張する。AI技術は「業務効率を高め、意思決定を促進し、新たな機会を創出する万能ツール」だというのが同氏の見解だ。

 活用の具体例としてカニンガム氏はまず顧客サービスを挙げ、「AI技術が対話を分析し、サービス提供を改善するための知見をもたらすことができる」と説明する。マーケティング分野では、顧客の嗜好を理解して効果的なキャンペーンを設計するのに役立ち、金融分野では不正な取引の検出やリスク管理を支援する。

TechTarget.AIとは

TechTarget.AI編集部は生成AIなどのサービスを利用し、米国Informa TechTargetの記事を翻訳して国内向けにお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

髫エ�ス�ス�ー鬨セ�ケ�つ€驛「譎擾スク蜴・�。驛「�ァ�ス�、驛「譎冗樟�ス�ス驛「譎「�ス�シ驛「譏懶スサ�」�ス�ス

技術文書・技術解説 Snowflake合同会社

AIエージェント実践ガイド:基本概念からユースケース、克服すべき課題まで

意思決定や計画、行動を自律的にこなす「AIエージェント」に対する関心が高まる一方、実装に向けては、データの正確性やアクセスの制御など、多くの課題が立ちはだかる。その解決策や、代表的なユースケースなどについて、詳しく解説する。

製品資料 エス・アンド・アイ株式会社

コンタクトセンターで導入が急拡大する「生成AI」 実際に何ができるのか?

ビジネスにおける生成AI活用が広がる中、コンタクトセンターでも生成AIを使って業務改善につなげる動きが加速している。オペレーターと顧客とのやりとりに生成AIを活用することで、どのような成果が生まれるのか。本資料で解説する。

市場調査・トレンド Exabeam Japan株式会社

サイバーセキュリティ専門職1000人への調査で分かった、AI導入の現状と課題

サイバーセキュリティの領域でもAIの活用が進む中、経営層と現場には、大きなギャップが生まれているという。本資料では、サイバーセキュリティの専門職1000人を対象にした調査の結果から、AI導入の現状と課題を解説する。

製品資料 ServiceNow Japan合同会社

生成AIでカスタマーエクスペリエンスを変革するために取るべきステップとは

生成AIの登場以降、多くの企業が、生成AIの活用によって顧客と従業員の満足度を向上させる方法を模索している。本資料では、生成AIでカスタマーエクスペリエンスを変革するために取るべき重要なステップを解説する。

製品資料 DeepLジャパン合同会社

自動車業界に今、言語AIが必要な理由

自動車業界は、多数の国・地域にまたがるサプライチェーンで構成される。それだけに、正確なコミュニケーションは重要な課題の1つだ。その解決策として注目される、DeepLが提供する言語特化型AIはどのように自動車業界を支えるのか。

アイティメディアからのお知らせ

郢晏生ホヲ郢敖€郢晢スシ郢ァ�ウ郢晢スウ郢晢ソスホヲ郢晢ソスPR

From Informa TechTarget

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ
ネットワークの問題は「帯域幅を増やせば解決する」と考えてはいないだろうか。こうした誤解をしているIT担当者は珍しくない。ネットワークを快適に利用するために、持つべき視点とは。

300人超のデータサイエンティストが活用 大手銀行がGoogle Cloudを選んだ理由:開発速度と費用削減を両立 - TechTargetジャパン エンタープライズAI 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

TechTarget郢ァ�ク郢晢ス」郢昜サ」ホヲ 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...