企業がAI技術の導入を進める中、現場ではどのような成果が生まれているのか。導入現場が直面する課題や乗り越えた壁に注目し、AI技術活用のリアルを探る。
企業への人工知能(AI)技術の導入が進んでいる。英国の企業1000社を対象とした調査の結果をまとめたレポート「Unlocking the UK’s AI potential」によると、大企業とスタートアップ(新興企業)ではAI技術活用の進捗(しんちょく)に差はあるものの、日常的な作業の補助に活用しようとする企業は増えている。大手クラウドベンダーのAmazon Web Services(以下、AWS)のように技術者以外のスキルを向上させる取り組みを進める企業もある。
業種、業界を超えて導入が加速するAI技術。その事例と課題を紹介する。
AI技術の導入が加速している状況は、2025年4月にAWSがロンドンで開催したイベント「AWS Summit London」(以下、AWS Summit)の基調講演でも、中心的なテーマとして取り上げられた。AWSで英国およびアイルランドを担当するバイスプレジデント兼マネージングディレクターのアリソン・ケイ氏は、AI技術を積極的に活用するスタートアップ企業の取り組みを紹介した。
ケイ氏は、AWSの英国法人の顧客であり、AI技術をライフサイエンス分野に応用しているSonrai Analyticsの事例に触れた。Sonrai Analyticsは医療分野のスタートアップで、AI技術を用いることで、疾病研究の期間短縮、エラー率の低減、実験当たりのコスト削減 に成功しているという。Sonrai Analyticsのマルチモーダル(複数形式のデータを取り扱い可能)なサービスは、臨床・ゲノム・画像・患者データの管理、処理、分析に利用されており、バイオテクノロジー企業や製薬企業が新薬を発見したり、疾患を早期に特定したりするために役立っている。
Sonrai Analyticsのエンジニアリング責任者、ジェラルド・ローグラン氏は、「医療やバイオテクノロジー分野の企業は、新技術の導入が他業種より遅れる傾向がある」との見解を示す。同氏は「われわれの連携企業には、がんや疾病に関する深い知見を持つ生物学者や数学者が在籍しているが、クラウドサービスやデータセンター、エンジニアリング分野への投資は十分ではないのが現状だ」と指摘する。
Unlocking the UK’s AI potentialでは、大企業や政府機関はレガシー技術に依存しており、既存のITインフラも複雑なため、AI技術の導入スピードでスタートアップに劣る状況にある点が強調されている。一方でローグラン氏は、「状況はデータが示すほど単純ではない」と語る。
この状況は、Sonrai Analyticsのようなスタートアップにとって好機だと言える。大手ヘルスケア企業がAI時代で活躍するために足りないスキルを、補う存在になることができるからだ。「われわれの役割は、複雑なエンジニアリング作業をシンプルにし、ヘルスケア企業が本来の研究や科学的な仕事に集中できるようサポートすることだ」とローグラン氏は説明する。
ナットウエスト銀行(National Westminster Bank)のグループCIO(最高情報責任者)であるスコット・マーカー氏は、AI技術の導入に関して全ての大企業がスタートアップに後れを取っているわけではないと考える。同氏「銀行は長い間この技術を活用してきた業種の代表例だ」と語る。
「銀行によるAI技術活用は目新しいことではない。市場の仕組みやトレーディング(金融商品の売買)、リスクの価格付けの方法などを考えれば、銀行は長い間AI技術を取り入れてきた」とマーカー氏は述べる。
ナットウエスト銀行は、ほとんどの業務において何らかの形でAI技術を使っており、特に生成AIの活用は進んでいる。マーカー氏は、同行で既に数百件のAI技術活用事例があること、同行がAIベンダーOpenAIにまとまった額を投資していることを明かす。
「私は、AI技術が現在存在する全ての職種を根本的に変革すると確信していると同時に、全く新しい職種が大量に生まれ、新たな機会やイノベーションも生まれると考えている」とマーカー氏は述べる。
ナットウエスト銀行は従業員向けにAIアシスタント「Microsoft Copilot」を導入しており、7万人の従業員が安全に利用できるように独自にカスタマイズしたAIチャットbot「ChatGPT」を組織内に展開している。全従業員にAI技術の使い方を教えることで、AI技術活用を推進する取り組みも進行中だ。
「AI技術は人々が手軽に使える素晴らしいツールだ。これからはAI技術を使う人と使わない人で仕事の世界が分かれていき、AI技術を使わない人はすぐに時代に取り残されてしまう可能性がある」とマーカー氏は語る。
TechTarget.AI編集部は生成AIなどのサービスを利用し、米国Informa TechTargetの記事を翻訳して国内向けにお届けします。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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