仮想化インフラ刷新のニーズが高まる中、好調ぶりを強調しているベンダーの一社がRed Hatだ。同社は自社開催のイベントで、OpenShiftへの移行状況を公開した他、今後のニーズを踏まえた新製品を発表した。
半導体ベンダーBroadcomによる買収以降、製品およびライセンス体系に施された変更をきっかけに、VMwareからの移行先を探す動きが急拡大した。仮想化インフラの見直しが企業の重要課題となる中、受け入れ先候補のベンダーの一社として浮上してきたのが、Red Hatだ。
Red Hatが2025年5月にボストンで開催したイベント「Red Hat Summit 2025」で、同社幹部たちは仮想化ソフトウェアへの引き合いが増加している現状を語った。印象付けたのは、仮想化インフラの見直しにおいてRed Hatが一定の存在感を放っているのと同時に、同社が今後のニーズ獲得に自信を示していることだった。
Red Hat Summit 2025では、コンテナ運用管理ツール 「Red Hat OpenShift」(以下、OpenShift)と、その仮想マシン(VM)の実行および管理機能「Red Hat OpenShift Virtualization」(以下、OpenShift Virtualization)の採用が拡大していることが説明された。加えてRed Hatは、OpenShiftを「VMware製品を代替する仮想化基盤」になるだけではなく、人工知能(AI)技術活用を推進するための統合基盤と位置付け、さまざまな新たな取り組みを発表した。
Red Hatで製品統括シニアバイスプレジデントを務めるアシェシュ・バダニ氏は、OpenShift Virtualizationへの企業の関心が高まっている主な要因として、VMwareの動向を挙げる。「Broadcomによる買収後、VMwareの仮想化製品の先行きが不透明になった。特に価格上昇の懸念が顕著になり、代替製品の検討を促す結果となった」
企業が新しい仮想化インフラへ移行する際、既存の環境で利用してきた機能や運用性を維持できるかどうかが重要な基準となる。バダニ氏は、Red Hatはこのニーズを深く理解し、OpenShiftの機能を継続的に強化していると語る。具体的な例として、最新バージョンでは、VMに適したユーザー定義ネットワークのサポート、ストレージの移行機能、ツリー型の管理ビューの追加を挙げた。
「企業は、ストレージ、バックアップ、災害復旧(DR)といった面で、豊富な選択肢を望んでいる。当社はこういった面における一流のパートナー企業と緊密に協力し、OpenShiftにより高度な機能を実装するよう注力してきた」(バダニ氏)
こうした取り組みの結果、自動車メーカーのFord Motorやアラブ首長国連邦の大手銀行Emirates NBDなど、複数のグローバル企業がOpenShiftへの移行を成功させたという。Red Hatの試算によれば、他の仮想化基盤からOpenShiftに移行した企業は、総所有コスト(TCO)を最大77%削減できたという。
Red Hatのシニアバイスプレジデント兼最高収益責任者(CRO)であるアンドリュー・ブラウン氏は、企業の戦略の変化を指摘する。「1年前、多くの企業はとにかく何でもいいからアプリケーションを移行したいと考えていた。しかし今では、仮想化インフラの移行と同時に、特定のアプリケーションをモダナイゼーション(最新化)できることを学んでいる。この先何年も信頼して使い続けられる製品かどうか、深く検討するようにもなっている」
この点でRed Hatのブランドが効いている。「Red Hatは長年に渡って顧客企業との信頼関係を築いてきた。OpenShiftは大規模な仮想化環境にも対応できる拡張性を備え、長期にわたり信頼して使える安定した製品群であるとの認識が広がっている」。ブラウン氏はそう語る。
Red Hatの戦略は、仮想化だけにとどまらない。Red HatのCEOマット・ヒックス氏は、OpenShiftとOpenShift Virtualizationは目覚ましい進歩を遂げているが、それだけではないと強調。「構成管理ツール『Red Hat Ansible Automation Platform』と組み合わせることで、企業がAI活用を推進していくための完璧な仮想化基盤が整う」と語る。
バダニ氏も次のように語る。「生成AI運用管理ツール『Red Hat OpenShift AI』は、OpenShiftと同じ基盤に構築されている。ユーザー企業がVMとコンテナの運用をOpenShift上で統合すれば、AI活用に向けた次の一歩を踏み出せる」。VMwareからOpenShiftへ移行した企業は、追加投資なしで同じ基盤上でAI開発・運用を始められるということだ。
Red HatはRed Hat Summit 2025において、AI活用を拡大する取り組みを発表した。その一つが「仮想大規模言語モデル」(vLLM)だ。これはオープンソースの大規模言語モデル(LLM)用サーバソフトウェアであり、GPU(グラフィックス処理装置)をより有効に活用でき、生成AIアプリケーションの出力を高速化する。ヒックス氏は「LLMを1台のサーバで実行し、応答を生成するコストを大幅に削減できる」と説明する。
もう一つが「llm-d」だ。これはvLLMを拡張するオープンソースプロジェクトであり、1台のサーバだけでは対応し切れない推論を、複数のサーバや環境に分散し、効率的に処理するものだという。「AIアクセラレーター(AI関連処理を高速化するために設計されたハードウェア)などのさまざまなコンピューティング環境で、独自のAIモデルを実行できる。AI分野において、LLMからllm-dへの移行が進むはずだ」(ヒックス氏)
雨輝ITラボ(株式会社リーフレイン)
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