検索は「行動する」時代へ Perplexityが描く“次世代AIエージェント”の実像AIエージェントの実態を探る【第3回】

「AIエージェント」に注目が集まる中、検索AIツールを展開するPerplexity AIはこの潮流をどう捉えるのか。AIエージェント時代における製品戦略を、日本支社CEOに聞いた。

2025年07月30日 06時00分 公開
[梅本貴音TechTargetジャパン]

 自律的にタスクを実行するAI技術「AIエージェント」は、次世代のAI活用像として多くの企業から注目を集めている。ただし、その定義や機能、製品戦略はベンダーによって大きく異なるのが実情だ。検索AIツール「Perplexity」を提供するPerplexity AIは、この潮流をどう捉え、サービスをどう進化させようとしているのか。日本支社CEOの森田 潤氏に話を聞いた。

AIエージェント時代に「検索」はどう進化する?

 Perplexity AIは「AI」と「検索」の2軸で事業を展開する企業だ。近年、AIベンダーが大規模言語モデル(LLM)の開発に注力する中、Perplexity AIは「検索」そのものを同様に重視し、ユーザーの検索体験向上に重点を置いている。

 Perplexity AIの主力製品であるPerplexityは、ユーザーの質問をAIモデルが解釈した上で検索を実行し、適切な情報源を優先順位付けしながら出典を明示しつつ、回答を生成する。ビジネスから研究、日常の調べ物に至るまで幅広い用途に対応しており、例えば金融企業では、社内向けにはマーケティングリサーチからレポート分析、社外向けには顧客の資産管理や株式購入の意思決定支援などに活用されているという。

 Perplexityの検索機能を支えるのが、Perplexity AI独自のLLM「Sonar」だ。クエリの構造やユーザーの意図、微細なニュアンスをくみ取れる点に強みを持つ。Perplexity AIと提携する一部メディア企業では、Web検索バー、記事要約機能、自動レコメンデーション機能にSonarが組み込むなどの実績もあるという。

AIエージェント時代に向けたPerplexity AIの製品戦略

 このようにAIと検索に強みを持つPerplexity AIは、AIエージェント時代に向けてサービスをどう進化させていく計画なのか。

 「当社ではAIエージェントについて明確な定義を設けておらず、用語自体も意識的には使用していません」と森田氏は話す。その代わりにPerplexity AIが掲げるのが「AI行動エンジン」という独自の構想だ。これは、従来のリンク列挙型の「検索エンジン」から、AIモデルが直接的な答えを提示する「AI回答エンジン」へ、さらにその先にある「ユーザーの意図や状況を踏まえて行動を支援するAI」の実現を目指すものだ。

 呼称こそ異なるものの、AIエージェントとAI行動エンジンは本質的に近い概念だ。Perplexity AIは従来の検索中心の体験から一歩進み、「ユーザーのタスクに寄り添い、継続的に支援するAIツール」の実現を目指している。それでは、AI行動エンジンを実現するに当たり、具体的にどのような要素が求められるのか。森田氏は、3つのポイントを挙げる。

能動的なデータの取得

 AI行動エンジンを実現するに当たり、「AIモデルによる能動的な文脈理解」は重要なテーマだ。昨今さまざまなAIツールが登場しているものの、ユーザーは情報を手動で整理、入力しなければならず、ツール側がユーザーの文脈を能動的にくみ取るには至っていない。この課題を克服することこそが「AI行動エンジン」の実現に向けた核心だと森田氏は指摘する。

 こうした思想の下、Perplexity AIが2025年1月に提供を開始したのが、OS「Android」向けアシスタント「Perplexity Assistant」だ。従来のPerplexityをより個人的な体験に特化させたサービスで、ユーザー体験に寄り添う設計になっている。スマートフォン上のアプリケーション操作や通知内容、再生中の音楽、キーボード入力といった外部情報などを読み取り、メール作成やレストランの予約といったアクションを支援したり、レコメンドを提示したりする。

 2025年5月時点ではAndroidデバイスでのみ利用可能だが、今後はPCでの利用、およびビジネス向けの提供体制も見据えて開発を進めているという。

社内データの円滑な活用

 社内に蓄積された多様なデータを、いかにAIモデルと連携させ、有益なアクションに結び付けるか。これは、AI活用に取り組む多くの企業が直面している共通の課題だ。

 Perplexity AIは社内におけるデータ活用のハードルを下げる仕組みを提供し、ユーザーから評価されている。例えば、Perplexityには「Microsoft Excel」や「Microsoft Word」の他、PDFやCSV、ソースコード、画像などのファイル(各ファイル最大25MB)をアップロードしてLLMに読み込ませることができる。無料版ではファイルのアップロード件数に上限があるが、有料版の「Perplexity Pro」および企業向け「Enterprise Pro」では無制限のアップロードが可能だ。Enterprise ProユーザーがアップロードしたファイルはAIモデルの学習対象から除外される。

 Perplexity ProおよびEnterprise Proでは、内部ナレッジ検索機能「Internal Knowledge Search」およびコミュニケーションハブ機能「Perplexity Spaces」を提供し、Perplexity Spacesに保存された社内ファイルとWeb情報を統合的に検索できる仕組みを提供する。ユーザーは質問のたびに手動でファイルを添付する手間をなくすことができる。

使いやすいユーザーインタフェース(UI)

 AI技術を活用したサービスの多機能化が進んでいるため、ユーザーから「何ができるか分からない」「どう使えばいいか分からない」といった声が上がることは少なくない。その結果、導入しても実際には使われないまま終わる、もしくは一部の部署への導入にとどまるケースも往々にしてある。

 一方で森田氏は、「Perplexityのユーザーに話を聞くと、導入したのに使われないという声は比較的少ないです」と話す。一度使って仕事や生活にどう役立つのかを実感すれば、具体的な活用法が自然と見えてくるため、業務だけでなくプライベートで継続的に使われることも多いという。

 Perplexity AIはツールの設計に当たり「使いやすさ」を重視している。例えばPerplexity Proでは、標準モデルとなるSonarに加えて、OpenAIの「GPT-4o」やAnthropicの「Claude 3」など複数のLLMに切り替え可能だが、各モデルの違いを理解するのは一般ユーザーにとって難しい。

 そのためPerplexityでは、「検索用」「学習用」「リサーチ用」といった用途別の選択肢を画面上で選択できるようにするなど、直感的に使えるUI設計を追求している。「AI技術はものすごい速さで高度化していますが、技術を理解していない人でもこうした高度な機能を気軽に使えるようにすることが、AIの普及と定着には不可欠です」と森田氏は説明する。

 「最初は“遊ぶ”感覚で自由に試してもらうことが大切です。そこで得た気付きや要望を当社にフィードバックしてもらうことで、さらに新しい価値をユーザーと共に生み出していきたいと考えています」(森田氏)

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