Intelは“敵”、Appleは“友”? 明暗分かれるトランプ大統領と米IT企業の関係名指しでCEO辞任を要求

トランプ政権が米大手IT企業に二極的な態度を見せている。IntelのCEOには辞任を要求する一方、Appleからは大規模な国内投資の確約を取り付けた。この“アメとムチ”政策の裏には、どのような狙いがあるのか。

2025年08月22日 05時00分 公開
[Makenzie HollandTechTarget]

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 2025年8月7日(現地時間、以下同じ)、ドナルド・トランプ米大統領はIntelのCEOであるリップブー・タン氏に「著しく利益相反の状態にある」という理由から辞任を要求した。その一方でトランプ氏は、関税の脅威を背景に、Appleから大規模な国内投資の確約を取り付けたと発表した。同じ米国の大手IT企業に対して、相対する態度を取るトランプ氏の真意とは。

なぜIntelのCEOは“名指しで辞任要求”されたのか

 辞任要求の発端は2025年8月5日、トム・コットン上院議員がIntelに送った書簡だ。書簡は、タン氏の投資先や、中国との関係が疑われる半導体企業とのつながりに対する懸念を示していた。コットン氏は、タン氏が以前CEOを務めていたソフトウェアベンダーCadence Design Systemsが、米国の輸出管理技術を中国軍関連の組織に違法に販売した罪を認めた過去を指摘した。この書簡を受け、トランプ氏はSNS「Truth Social」に、タン氏の即時辞任を求める投稿をした。

 タン氏は2025年8月7日に声明を発表し、40年以上米国に在住していることを強調した。その上で「私は米国を愛している」と述べ、Cadence Design SystemsやベンチャーキャピタルWalden Internationalでの経歴に関する誤った情報が広まっていると主張した。提起された懸念に対処するため、Intelとして政権と協議を進めているとも説明した。

 タン氏は声明の中で次のように述べた。「私は、米国の国家安全保障と経済安全保障を推進するという大統領の強い意志を全面的に支持する。これらの優先事項を推し進める大統領のリーダーシップに感謝しており、その目標達成の中核を担う企業を率いることを誇りに思う」

 ただし、この対立は長くは続かなかった。タン氏は声明を発表してからわずか4日後の2025年8月11日、ホワイトハウスでトランプ大統領と直接会談した。会談後、トランプ氏はタン氏の経歴を「素晴らしい物語だ」と称賛するメッセージを投稿し、辞任要求を事実上撤回した。

 米国の非営利シンクタンクInformation Technology and Innovation Foundationのバイスプレジデントを務めるダニエル・カストロ氏は、トランプ大統領の懸念は、政権が中国との技術的および経済的な競争を深刻に捉えていることの表れだと指摘する。

 米国企業のトップ人事を決定するのは大統領の役割ではないものの、競争や国家安全保障に関する懸念を表明することは大統領の権限の範囲内だとカストロ氏は説明する。

 カストロ氏は企業に対して、市場の動向や政治情勢など、常に外部環境の変化に適応する必要性を強調する。「今回の動きは、企業の経営陣や取締役会に対する警告だ。現政権の支持を得たいのであれば、先端技術分野で中国とどう関わるのかを真剣に検討しなければならない」(同氏)

苦境が続くIntel

 米国政府は、ジョー・バイデン前米大統領の政権下で成立した2022年の「CHIPS and Science Act」(CHIPSおよび科学法)などの法令を通じて、国内の半導体製造に予算を投じてきた。同政権は同法に基づき、アリゾナ州とオハイオ州の新工場建設、ニューメキシコ州とオレゴン州の既存工場の近代化を目的として、2024年11月、Intelに最大78億6500万ドルの直接補助金を交付することを決定した。

 ところがその直後の2024年12月、当時IntelのCEOだったパット・ゲルシンガー氏が退任し、2025年3月にタン氏が後任として同社CEOに就任した。

 米国の調査機関Hudson Instituteのシニアフェローであるトーマス・デュースターバーグ氏は、米国政府がIntelの技術力向上と米国内の最新鋭工場建設を後押しするために、資金援助を含む大規模なリソースを投じてきたと指摘する。

 デュースターバーグ氏はIntelを「米国政府との良好な関係に依存している」と評価する。その上で、「今回大統領と直接対立してしまったのは、極めて悪い兆候だ」と述べる。

 「Intelの取締役会は今後の方向性について難しい判断を迫られる」とデュースターバーグ氏はみる。トランプ政権が中国との競争を重視する中で、Intelが米国内での工場建設を続けるのであれば、政府からの継続的な支援が不可欠になるからだ。

 トランプ氏が公にIntelのCEOの退任を求めた今回の件に対して、デュースターバーグ氏は、「中国が猛追しているという認識が米国政府内に広まっていることの表れだ」と語る。

 「大統領が中国との競争を重視する姿勢は、結果として、国家安全保障上の懸念を招きかねない米国企業の行動にさらなる注目を集めることになる」とカストロ氏は付け加える。

 「トランプ大統領はシリコンバレーに対しても、より『愛国的』であるよう求めている。これは、海外よりも米国の雇用と投資を優先し、『アメリカファースト』政策に沿うことを意味する」(カストロ氏)

米国内投資を1000億ドル増額したApple

 「トランプ氏は、製造分野を含めた半導体産業の再建にこだわっていることを公言してきた」とデュースターバーグ氏は語る。トランプ氏は、IntelのCEOと中国の関係を厳しく追及する前日の2025年8月6日、国内製造業の強化策の一環として、「米国内で重要部品を製造する」という追加の確約をAppleから取り付けた。さらにその場で、米国企業が重要部品の国内生産を確約しない限り、輸入半導体に100%の関税を課す方針も示唆した。

 デュースターバーグ氏によると、Appleはこれまで大規模な半導体製造拠点を有していなかった。同社が製造能力の増強計画を発表したことは、トランプ氏の方針を真剣に受け止めていることの表れだという。

 Appleが今回発表した1000億ドルの追加投資は、米国内への投資総額を今後4年間で6000億ドルに引き上げる計画の一環だ。その中には、同社製品の製造拠点を米国内に集約させることを目的としたイニシアチブ「American Manufacturing Program」の立ち上げが含まれている。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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