ITサービス管理(ITSM)におけるAI技術活用は、さまざまな業務の自動化に貢献する。ただし導入、運用にかかる費用を見極め、リスクを理解しておかなければ、失敗に終わる可能性もある。理解しておくべき課題とは。
AI(人工知能)技術は、ITサービス管理(ITSM)の定型業務を自動化し、IT部門を単純作業から解放する切り札として期待がかかっている。複雑なタスクを自律的に実行する「AIエージェント」による問い合わせ対応、インシデントの自動解決など、その能力は多岐にわたる。ただし、ただ導入すれば満足な効果が得られるわけではない。費用やリスクなど、見過ごせない課題も山積している。
本稿は、ITSMにおけるAI技術の導入を「高いだけ」で終わらせないために乗り越えるべき6つの課題と、その真の価値を見極めるための視点を解説する。
AI技術はさまざまなITSMに関する業務の効率化と速度向上に貢献する一方、その導入に際して、企業は幾つかの課題に対処する必要がある。
効果的にAIツールを活用するには、大量かつ高品質なデータが必要だ。訓練データが不足していたり、データ品質が低かったりする企業は、AIツールの導入に苦労する可能性がある。質が低い訓練データセットからは、信頼性のある結果は生まれない。
AIツールの実装と運用には、たいていの場合まとまった費用が必要になる。自社で開発するのではなく、ITSMベンダーを通じて導入する場合でも、ベンダーの開発費や運用費がツールの価格に反映されるため、結果として費用がかかりやすい。
ほとんどのレガシーシステムは、AI技術を活用した現代的なITSMの仕組みと互換性がない。AIエージェントの構築に用いるフレームワークの中には、旧来のOSでは利用できないものがあり、レガシーシステムを運用する企業にとっては技術的な障壁になる。
さまざまな理由から、従業員がAIツールに抵抗感を示すことがある。「AIツールとのやりとりは人間味に欠け、機械的だ」「人間のサポート担当者のような、細やかな配慮や理解は期待できない」といった懸念が代表例だ。こうした技術的な能力とは無関係の懐疑的な見方が、導入の妨げになる可能性がある。
AI技術は誤った判断を下すことがある。これは主に大規模言語モデル(LLM)の特性に起因するものだ。LLMはその仕組み上、もっともらしいうその情報を生成する現象(ハルシネーション)を引き起こし、不正確な行動や推奨につながる可能性がある。
AIツールは、これまでになかったセキュリティとデータプライバシーのリスクをもたらす。複数の企業が、同じベンダーの同じAIモデルを利用している場合、適切な安全策がなければ、同じAIモデルを利用している別の企業にデータが流出する可能性がある。
ほとんどの企業にとって、AI技術を活用したITSMツールは、これらの欠点を上回る価値を提供する。それでも、十分な情報に基づいて導入を判断するには、こうした課題を正しく理解しておくことが不可欠だ。AI技術はITSMを強力に支援するが、あらゆる状況で万能な解決策になるわけではない。
ITSMにおけるAI技術の役割を方向付けるトレンドとしては以下がある。
ITSMにおいて、AIエージェントはこれまで実現が難しかった処理の自動化を後押しする存在だ。PCにログインできないという従業員の問い合わせに応えるAIエージェントを想像してほしい。AIエージェントは自律的にPCをスキャンして原因を特定し、問題を解決する。その間にもAIエージェントは従業員との対話を続け、進展を報告しながらチケットを起票、更新し、問題が解決すると完了報告とともにチケットをクローズする。将来的には、こうした一連の作業を自動実行できるITSMツールが登場する可能性がある。
ITSMがIT関連の業務と資産管理に特化しているに対し、エンタープライズサービス管理(ESM)は、新人のオンボーディング(受け入れから戦力化までのプロセス)、人事関連の問い合わせ管理、施設管理といった、あらゆる社内業務を対象にする。歴史的に、ITSMとESMは異なるツールと業務フローを必要としたため、それぞれ独立したものとして扱われてきた。
AI技術は、IT業務だけでなく全社的な業務の自動化にも貢献する。そのため、今後はAI技術を搭載した全社的な問い合わせ受け付けシステムを導入して、ITSMとESMを集約しようとする企業が現れることが見込まれる。この動きは、ITSMベンダーがAI機能を武器にしてESM分野に参入したり、逆にESMベンダーがITSM分野に参入したりといった新たな競争を生む可能性がある。
今後、ITSMツールへのAI技術の導入はさらに進む見込みだ。同時にユーザー企業も、AI技術の真の価値を、世の中の過熱気味な評価と照らし合わせて冷静に検討するようになると考えられる。
AIツールを使ってIT業務を効率化することにはメリットがあるが、その効果がごくわずかな場合もある。AIツールによる高度な検索機能を使ってナレッジベースから情報を探し出すことは、従業員の時間を節約し、従業員体験を向上させる。だが従業員がナレッジベースを検索する頻度がそれほど高くない場合、総合的なメリットはさほど大きくない。AIツールが社内ナレッジベースを参照できるようにすることで、機密データが漏えいするリスクもある。
企業がAIツールの導入を検討する際は、それによる時間節約効果が、ツールの導入、維持費用に見合う価値があるかどうかを見極めることが重要だ。これは「ITSMにおいてAIツールへの投資が無意味だ」と言っているわけではない。重要なのは、「技術的に可能であること」が、必ずしも「ビジネスにとって最善であること」を意味しないという視点だ。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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