オンプレに“クラウド的”な運用をもたらす「Windows Server 2025」の目玉機能7選「Windows Server 2025」の押さえるべき新機能と移行計画【第1回】

「Windows Server 2025」には、運用効率化機能や従量課金制など、クラウドサービスのようなメリットをオンプレミスインフラにもたらす、さまざまな機能や特徴がある。IT管理者が押さえるべき点を厳選して紹介する。

2025年09月10日 05時00分 公開
[鐘ケ江 直志雨輝ITラボ(リーフレイン)]

 企業のITインフラ投資先は、決してクラウドサービス一辺倒ではない。システムに応じて最適なインフラを選ぶのが、企業にとって基本的な投資スタンスだ。必然的にインフラは多様化することになることから、インフラの違いによる運用管理の差異をいかに減らすか、もしくはなくすかが重要になる。企業がオンプレミスインフラを選ぶとしても、クラウドサービスと同等の効率性や機動性を求めるようになるのは自然なことだ。

 MicrosoftのサーバOS「Windows Server 2025」には、セキュリティ更新のダウンタイム(システム停止時間)を短縮するための機能、従量課金制を選択可能なライセンス体系など、クラウドサービスのようなメリットをオンプレミスインフラにもたらす特徴的な機能や要素がある。本稿は、Windows Server 2025の目玉となる7つの機能・要素を紹介する。

目玉機能・要素1.無停止でセキュリティ更新が可能な「ホットパッチ」

 セキュリティ更新プログラムの適用は「Windows Server」を運用する上で重要だ。ただしシステムの再起動を必要とするため、企業は一時的にサービスを停止したり、フェイルオーバー(予備システムへの切り替え)を実施したりせざるを得なかった。日中のシステム停止は難しいことから、担当者が夜間の作業を強いられることは珍しくなかった。

 Windows Server 2025の「ホットパッチ」は、オンプレミスシステムやクラウドサービスを一元管理するためのツール群「Azure Arc」への接続が前提ではあるものの、無停止でのセキュリティ更新プログラムの適用を可能にする。「ベースライン」という3カ月ごとの累積更新プログラムの適用には、従来通り再起動が必要になるものの、オンプレミスインフラでもセキュリティ更新プログラムの適用負荷を軽減できる点で意味がある。

目玉機能・要素2.使った分だけの「従量課金制」

 MicrosoftはWindows Server 2025の新たなライセンス体系として、クラウドサービスでおなじみの従量課金制を選択可能にした。従量課金制を適用する対象のサーバは、Windows Server 2025の「Standard Edition」または「Datacenter Edition」を実行し、Azure Arcと接続するといった要件を満たすことが必要になる。

 従量課金制を無効にしない限り、対象のサーバをシャットダウンしても課金が続く。そのため短期的なPoC(概念実証)や災害時の待避環境構築といった用途に、特に適するといえる。

目玉機能・要素3.スケーラビリティを高めた「Active Directory」

 企業がオンプレミスシステムとクラウドサービスの併用を進めるなどにより、利用するシステムの多様化、複雑化が進むと、Windows ServerのID・アクセス管理機能「Active Directory」(AD)の管理対象は増大しやすくなる。Windows Server 2025では、ADのスケーラビリティが向上。ADの管理対象リソースを示す「オブジェクト」の1つの複数値属性(複数の値を格納する属性)に、オプションで従来(約1200〜1300個)の約2.6倍となる約3200個の値を保持できるようにするなど、管理規模を拡大させやすくした。「Windows 2000」から据え置いてきたADデータベースのページ(データ管理の最小単位)サイズを拡張できるようにすることで、これを実現したという。

目玉機能・要素4.VM間のGPU共有を可能にする「GPU-P」

 オンプレミスインフラかクラウドサービスかを問わず、仮想環境でシステムを稼働させることは、既に当たり前の選択肢となった。Windows Serverには、仮想環境を実現する機能としてハイパーバイザー「Hyper-V」が備わる。

 Windows Server 2025では、単一の物理GPU(グラフィックス処理装置)を論理的にスライスして、複数の仮想マシン(VM)に割り当てる「GPUパーティション分割」(GPU-P)が、全てのエディションで利用できるようになった。これまでHyper-VでGPUを使うには、VMがGPUを専有できるようにする「個別デバイス割り当て」(DDA)を利用するか、「NVIDIA Virtual GPU(vGPU)」など外部ライセンスの仮想GPUソフトウェアに頼るしかなかった。前者は複数のVMでGPUを共有できないこと、後者は追加費用と専用ハードウェア要件が生じることがハードルだった。

目玉機能・要素5.ストレージ利用を効率化する「シンプロビジョニングボリューム」

 複数サーバのローカルストレージをプール化する「記憶域スペースダイレクト」(Storage Spaces Direct)において、Windows Server 2025では物理的なストレージ領域を効率的に使用できるようにする「シンプロビジョニングボリューム」が利用可能になった。シンプロビジョニングボリュームを利用することで、未使用のストレージ領域をプールに加えることができる。

 オンプレミスインフラかクラウドサービスかを問わず、仮想環境ではVMの無秩序な増加に伴うストレージ容量の過剰消費が、運用現場の課題となる。ストレージの有効活用につながるシンプロビジョニングボリュームの適用対象拡大は、運用担当者にとって助けになり得る。

目玉機能・要素6.ネットワーク設定を容易にする「Network ATC」

 Windows Server 2025のネットワーク関連機能では「Network ATC」を採用したことが最大のトピックだ。ハイパーコンバージドインフラ(HCI)向けに拡張されたWindows Server「Azure Local」(旧:Azure Stack HCI)が搭載する同名の機能を、通常のWindows Serverで利用できるようになった。管理者が「ネットワークアダプターの管理」「コンピューティング」「ストレージ」などのインテント(意図や用途)を指定すると、Network ATCは適切なVLAN(仮想LAN)や仮想スイッチなどを自動的に構成する。

 VLANの設定パラメータを1行ずつ手入力したり、各ノードの仮想スイッチ名を手作業でそろえたりすることは、管理者にとって手間になるだけではなく、ミスを招きやすい。Network ATCはこうした作業を自動化し、オンプレミスインフラでも管理の効率化を図れるのが強みだ。

目玉機能・要素7.Azureではなくても利用可能な「SMB over QUIC」

 Windows Server 2025は、標準で「SMB over QUIC」を利用できるようにした。SMB over QUICは、ファイル共有プロトコル「SMB」の通信において、従来の「TCP」ではなく「QUIC」をトランスポートプロトコルとして利用できるようにする技術だ。もともとWindows Serverでは、クラウドサービス「Microsoft Azure」での利用を想定した「Windows Server 2022 Datacenter: Azure Edition」でしか利用できなかったが、Windows Server 2025では全てのエディションで利用できるようになった。

 QUICは「UDP」ベースのトランスポートプロトコルであり、通信の距離によらず、また利用回線が固定回線かモバイル回線にかかわらず、スループット(実効的なデータ転送速度)が低下しにくい。QUICではTLSの利用が必須なため、SMB over QUICを使えばSMBトラフィックに暗号化を強制できる。


 ここまでに紹介した内容は、Windows Server 2025の豊富な機能や要素の一部にすぎない。それでも、クラウドサービスのような運用が可能なオンプレミスインフラの実現に一歩近づく手段として、Windows Server 2025が着実に進化したことを知る材料になるはずだ。「止めない運用」や「使った分だけの支払い」など、クラウドサービスのメリットをオンプレミスインフラでも享受する上で、Windows Server 2025は有力な選択肢となる。

 次回は、特にADを運用する企業がWindows Server 2025への移行を進める場合の、具体的な移行計画の例を紹介する。

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