Perplexity AIがWebブラウザ「Chrome」を買収する提案を示したことで、生成AIを搭載する検索エンジン市場に激震が走った。Perplexity AIの狙いはどこにあるのか。
AI(人工知能)を搭載する検索エンジン「AI検索」市場でさまざまな動きがある。Perplexity AIは2025年8月、GoogleのWebブラウザ「Google Chrome」を345億ドルで買収するという提案を示した。この背景には、米司法省がGoogleを反トラスト法(独占禁止法)違反で訴えており、救済策としてChromeの売却を求めている状況がある。
これに関して、Perplexityの提案を実現性の低い「象徴的なアピール」と見なす専門家もいる。提示額はChromeの実際の価値を正しく反映していない可能性があるからだ。多くの専門家はChromeの価値を200億〜500億ドルの幅で見積もっている。Perplexity AIの狙いはどこにあるのか。
調査会社Forrester Researchのアナリスト、ニキル・ライ氏は「Perplexityは、GoogleがChromeを手放す可能性を人々に意識させているだけだ」と指摘する。今回の提案は、以前から同社がGoogleに求めてきた「Chromeに生成AIを活用した対話機能をさらに組み込むべきだ」という主張の延長線上にあるとみられている。
Perplexity AIが米政府の規制下にある大手企業に買収を持ちかけるのは今回が初めてではない。2025年初めにはTikTokの買収も提案していた。
生成AIを活用した新しい検索サービスが広がりつつあるものの、Googleの圧倒的な支配力はいまだ揺らいでいない。調査会社Informa Tech(Omdiaの名称で事業展開)のアナリスト、マーク・ベキュー氏は「実際のところ、誰もGoogleから市場シェアを奪えていない」と指摘した。OpenAIやPerplexity AIといった新興のAIベンダーも、Googleの優位を崩せていないと述べている。
もしPerplexity AIがChromeを手に入れれば、世界中に広がる膨大な数のWebブラウザ利用者に加え、スマートフォンでの標準ブラウザとしての地位が得られる。さらにはそこから得られる膨大なユーザーデータも手にする可能性がある。
調査会社The Futurum Groupのアナリスト、ブラッドリー・シミン氏は「全てはデータと、その価値の問題だ」と強調する。特に重要なのはユーザーの閲覧履歴や行動パターンであり、「最終的には、消費者が情報やサービスへアクセスする経路を誰が支配し、所有できるかが核心だ」とも語る。
生成AIの進展によって検索広告の収益モデルが変わりつつある今、ChromeはPerplexity AIにとって新たな成長の足掛かりになり得る。シミン氏は「Perplexity AIは、AIで駆動するWeb体験の中心的なハブになろうとしている」と指摘する。
しかし同時に、Googleが検索で圧倒的な優位を保ってきた理由も明らかだ。検索サービスは広告配信の最適化やデータのプライバシー保護、オンラインの安全対策といった高度で大規模な技術基盤を必要とする領域であり、Googleですら維持に苦労してきたとシミン氏は説明する。
「Perplexity AIがChromeの規模に飛び込むのは極めて難しいだろう」とシミン氏はみている。ただし仮に買収が成立すれば、Perplexity AIはChromeそのものだけでなく、Chromeの開発を担うエンジニアリングチームも獲得できる可能性がある。
一方で、裁判所がChromeの売却を命じたとしても、Googleが上訴する可能性は高い。ベキュー氏は「ChromeはGoogleにとって極めて価値のある資産であり、強制的に売却させる実効的な手段はほとんどない」と述べている。
今回の提案は、AI検索市場における競争の激化を象徴する出来事であり、Perplexityの戦略的な意図とその実現性について、今後も業界の注目が集まるだろう。
翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)
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