キオクシアは245.76TBのSSD製品を公開した。大容量を達成できた秘訣(ひけつ)はどこにあるのか。その特徴、競合製品との違いを紹介する。
キオクシアは2025年7月、転送プロトコル「NVMe」(Non-Volatile Memory Express)接続のSSD製品「KIOXIA LC9シリーズ」(以下、LC9)に、最大容量245.76TBの新しいモデルを追加した。同社によると、この容量は発表時点で入手可能な汎用(はんよう)SSDの中で最大だという。
この新モデルは、大規模言語モデル(LLM)の学習用データ保存や、拡張検索生成(RAG:Retrieval-Augmented Generation)を支えるベクトルデータベース、大量の未加工データを蓄積するデータレイク、およびデータセンターにおけるHDDからの置き換え用途などを想定している。
2025年7月時点で、入手可能なHDD製品の最大容量は40TBだ。245.76TBという数字は、これを大幅に上回る。汎用SSDとしても特筆すべき容量で、ストレージベンダーPure Storageも容量300TBのモデルを2025年中に出荷予定と発表済みだが、これはあくまでも同社のオールフラッシュストレージ製品「FlashArray」専用のストレージモジュールだ。
LC9の245.76TBモデルのフォームファクター(大きさや形状などの仕様)は2.5型SSDの「U.2」および「EDSFF E3.L」(EDSFF:Enterprise and Data Center SSD Form Factor)で提供される。「EDSFF E3.S」は最大容量122.88TBだ。汎用インタフェース規格「PCI Express」(PCIe)の第5世代「PCIe 5.0」に対応予定で、構成はシングルポートの「x4」(データ伝送路「レーン」が4個)と、デュアルポートの「x2」(レーンが2個)に対応する。
内部構造としては、キオクシアの3次元(3D)NAND型フラッシュメモリ技術「BiCS FLASH」の第8世代を使用した、QLC(クアッドレベルセル)チップを32枚積層している。これまでは16枚だった。同社の発表によれば、「高精度なウエハー加工技術、材料設計、ワイヤーボンディング(半導体チップと外部電極との接続)技術を駆使した」という。
キオクシアのライバルはPhison ElectronicsやSolidigm(SK hynixの子会社でIntelのメモリ事業を継承)だが、設計の違いにより、各社の製品の特徴は異なる。
Phison Electronicsの「Pascari D205V」は、シーケンシャルリード(連続したデータの読み取り)が最大14.6GB/s(ギガバイト毎秒)、シーケンシャルライト(連続したデータの書き込み)は最大3.2GB/sとなっている。Solidigmのデータセンター向けSSD「D5-P5336」は、シーケンシャルリード7.11GB/s、シーケンシャルライト2.5GB/sとなっている。
キオクシアの一部の製品はPhison Electronics製のSSDコントローラーを使用しているが、LC9の245.76TBモデルは、シーケンシャルリードが最大12GB/s、シーケンシャルライトが最大3GB/sと、Pascari D205Vと比較するとやや劣る。キオクシアは理由を説明していないが、245TB以上の容量を達成するために、マザーボード上のRAM(Random Access Memory)において何らかのトレードオフがあった可能性がある。
LC9シリーズのランダムライト(不連続なデータの書き込み)はIOPS(1秒当たりの入出力数)最大8万回となっており、Pascari D205Vの最大3万5000回、D5-P5336の1万9000回を上回る。これはチップが多いことに起因すると考えられる。
ランダムリードについてはPascari D205VがIOPS最大300万回とトップで、次にLC9シリーズの最大130万回、最後にD5-P5336の90万回と続く。しかし、これらの数字は絶対的なものではない。SSDのファームウェア(機器制御用ソフトウェア)が高速アクセスのためにホットデータ(頻繁に使用するデータ)を予測するロジックがそもそも異なるからだ。
以上の違いは、書き込みが読み取りより遅いというSSDの性質に起因する可能性が高い。特にQLCでは1つのセルに4bitのデータを保存するので、書き込み時の処理に時間がかかる。これには、既存のデータをRAMにコピーし、セルに保存されていたデータを電気的に消去し、新しいデータをファームウェアが同じ論理アドレスを割り当てた別のセルに書き込む処理が含まれる。
キオクシアが245TB以上の容量を達成できた鍵は、フォームファクターにある。キオクシアは「EDSFF E3」を2枚重ね合わせたような「2T」という新しいフォームファクターを考案した。
EDSFF E3は幅7.6センチで、2Uサイズのラックのストレージアレイに対応している。長さはEDSFF E3.Sが11.275センチ、EDSFF E3.Lは14.22センチと異なる。EDSFF E3.SとEDSFF E3.Lは厚さ0.75センチだ。これに対し、「EDSFF E3.S 2T」と「EDSFF E3.L 2T」の厚さは1.68センチだ。
つまり、通常2UのストレージアレイにEDSFF E3.SもしくはEDSFF E3.LのSSDなら24台設置できるが、 EDSFF E3.S 2TもしくはEDSFF E3.L 2TのSSDの場合、10台程度と減少する。EDSFF E3.S 2Tサイズの122.88TBモデルで2Uのストレージアレイを満たすと、総容量は約2.9PB(ペタバイト)になり、EDSFF E3.L 2Tサイズの245.76TBモデルで満たした場合は総容量約2.46PBとなる。
キオクシアのターゲットはHDDの置き換え需要だ。同社によれば、245.76TBモデルを採用するメリットは、「性能がボトルネックとなり、高価なGPUが十分に活用されないことが多いHDDとは異なり、コンパクトな設置面積で消費電力当たりの容量が大きい高密度ストレージを実現」できることにある。最大245.76TBの容量を実現することで、大量に電力を消費するHDDをより少ない台数で置き換え、結果として優れた性能、全体的な消費電力の低減、ホストシステムのドライブスロット数の削減、冷却コスト削減を実現できることもメリットだ。その結果として、電力効率、密度、熱管理を通して、総保有コスト(TCO)を改善できる。
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