単なる「AIアシスタント」ではない? 最新エージェント機能の仕組みを解剖AIエージェントの実力を検証

GoogleとDeepSeekが相次いでAIエージェント機能を強化した。予約支援から推論アーキテクチャまで、その技術的な位置付けと活用の可能性を探る。

2025年09月16日 07時00分 公開
[Esther ShittuTechTarget]

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 AIエージェントの実用化が加速している。GoogleとDeepSeekが2025年8月に相次いで発表した機能強化は、単なる会話機能の延長ではない。ユーザーの目標に合わせて、情報収集から比較、提案、実行までを自律的に行える、いわば手足を備えたAIエージェントを目指したものだ。

 Googleは検索向けの新しい体験「AI Mode」に予約支援機能を追加し、DeepSeekは基盤モデル「DeepSeek V3.1」にハイブリッド推論アーキテクチャを導入した。こうした取り組みは、AIエージェントが実務で活用できる段階に近づいていることを示しているのだろうか。

AIエージェントの実用性を探る

 GoogleがAI Modeに組み込んだエージェント機能は、複数の予約サイトや公式Webを横断して情報を収集し、レストラン候補を一覧、予約ページ遷移まで実施する。この体験は、Web操作を自動化するブラウザエージェント「Project Mariner」を手足とする。さらにGoogleが保有する知識データベース「ナレッジグラフ」や、地図アプリケーション「Google Maps」(Google マップ)の知識や地理情報を組み合わせることで実現している。

 同社は「OpenTable」「Ticketmaster」「StubHub」「Booksy」といった、予約やチケット販売などを提供するオンラインサービス企業と提携。最新の在庫情報や空き状況に容易にアクセス可能にした。試験運用中の機能を先行体験できる「Google Labs」のAI Modeを利用するユーザーには、まず食関連のテーマから、個々の嗜好や関心に合わせた結果が表示される。AI Modeの応答をリンクで共有できる機能も追加され、米国での提供が始まっている。今回のAI Modeのエージェント機能は、Googleが検索に「ビジネス情報を確認するためのGoogleからの自動通話」機能を導入してからわずか1カ月後に公開された。

専門家が注目するパートナーエコシステム

 調査会社The Futurum Groupのアナリスト、ブラッドリー・シミン氏は、Googleが数年前の年次カンファレンス「Google I/O」で自然言語によるレストラン予約を実演したことを挙げた。「これはGoogleが長年取り組んできた領域だ」と評価している。

 シミン氏によれば、AI Modeに追加されたエージェント機能と、最近発表された以下のような各種エージェントは、それぞれ用途は異なっても同じ方向を目指しているという。

  • BigQueryの「データ エンジニアリング エージェント」
  • 「NotebookLM Enterprise」
  • 「Gemini CLI GitHub Actions」
  • 「Looker Code Assistant」
  • 「Database Migration Service」

 「エージェントとは、AIのためのツールを作るのか、人がAIを使うためのツールを作るのかという違いはあっても、本質は同じだ。データとやり取りする場合でも、レストラン予約を行う場合でも、最終的には人の意図を実際の行動に変えるための基盤技術なのだ」とシミン氏は説明する。

 さらにGartnerのアナリスト、アルン・チャンドラセカラン氏は「パートナーエコシステムの統合で、Googleは自動化されたアクションを可能にするエージェント型のワークフローを構築でき、ユーザーごとに高度にパーソナライズされた体験を提供できる」と評価している。

セキュリティリスクへの懸念

 一方で、AI技術の普及に伴い、プライバシーやセキュリティ、さらには過度な情報共有への懸念が高まっている。チャンドラセカラン氏は「悪用の可能性がある以上、適切な対策は欠かせない」と強調する。

 シミン氏も「これらのツールはデータの専門家だけでなく、『スクリプトキディ』や国家レベルの攻撃者にとっても、企業や個人を狙った攻撃を自動化し、規模を拡大する手段になり得る」と警告する。スクリプトキディとは、他人が作成したツールを使って興味本位の攻撃を仕掛ける悪意ある技術レベルの低いハッカーを指す。例えば、攻撃者が悪意のあるプロンプト(生成AIへの指示)を入力してユーザーをだましたり、データを盗んだりする手法「プロンプトインジェクション」がある。ユーザーがAIにメールアーカイブや連絡先へのアクセスを許可している場合、攻撃者が送ったメールの中にプロンプトインジェクションが仕込まれていると、AIが実行してしまう恐れがある。その結果、個人情報や機密データが外部に漏れるなど、大きな被害につながる可能性がある。同氏は「業界はこの分野にやや急ぎすぎているが、懸念を和らげる方法は存在する。私たちはその手段を持っており、早急に取り組む必要がある」とも述べている。

 調査会社Forresterのアナリスト、ニキル・ライ氏は、プライバシーの課題は残るものの、消費者が相対的にGoogleを信頼している点が同社の強みになっていると指摘する。ただし、新しいエージェント機能が、Googleのパートナー企業のトラフィックに与える影響は無視できないとも述べる。

 ライ氏は、利用者がOpenTableに直接アクセスせずにAI Mode経由で予約したり、Googleがコンサートチケットの販売機能を拡張すれば、各サイトの訪問者数に影響が出ると説明する。「Googleは出版社やパートナーからのトラフィックを阻害せず、情報提供に不可欠な彼らとの関係を損なわない形で提携する方法を見つけなければならない」と同氏は語っている。

DeepSeek V3.1のハイブリッド推論アーキテクチャ

 GoogleがAI Modeを拡充する一方で、DeepSeekは自社のAIチャットbotを支える基盤モデルをアップグレードした。新モデルDeepSeek V3.1はハイブリッド推論方式を採用し、複雑な課題を深く考える「Thinking」モードと、単純な処理を効率的に行う「Non-thinking」モードを切り替えて使える設計になっている。さらに、一度に扱えるテキスト量を示すコンテキストウィンドウも拡大した。同社のWeChat公式アカウントでは、今後公開予定の自社製チップ上で効率的に動作するよう最適化していると説明している。

 チャンドラセカラン氏は、今回のリリースによって、DeepSeekも他社の先進モデルと同等の高度な推論機能を備えるようになったと評価する。一方で「ハイブリッド推論アーキテクチャは処理の高速化やエージェント機能の強化という点で大きな意味を持つが、DeepSeek固有の安全性や規制上の課題を解決するものではない」とも指摘している。

企業向けモデルの成熟が進む

 シミン氏は今回の発表について、画期的なブレークスルーというよりも、モデル提供者が既存モデルをより効果的かつ効率的にするための投資を重ねていることの表れだと位置づけている。

 「こうした地道な投資こそが、企業向けにモデルを仕上げるうえで重要だ」と述べ、モデルの効率を少しずつ引き上げる改善が、複数のモデルを比較して自社に最適なものを選ぶ企業にとって不可欠だと指摘した。

 さらに「企業の実務担当者が求める方向に合わせて、AI分野は着実に成熟してきている。機能の精度や使いやすさの向上に加え、企業が懸念する点への対応も進化している」と語った。

翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)

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