「Adode Acrobat」と「Microsoft Excel」に生成AI機能が新たに搭載されることが。作業効率が飛躍的に高まることが期待されるが、ベンダーの狙いは何か。課題はあるのか。
画像やテキストを自動生成する人工知能(AI)技術「生成AI」を、ビジネスツールに組み込む動きが加速している。2025年8月、AdobeとMicrosoftがそれぞれの主力製品に組み込んだ。
2025年8月19日(現地時間)、Adobeは、PDFファイル編集ツール「Adobe Acrobat」とデザインツール「Adobe Express」にAIエージェントを組み込んだ「Adobe Acrobat Studio」を発表した。
Adobeによると、Adobe Acrobat StudioはPDFファイルを対話型の“ナレッジハブ”に変えるプラットフォーム(実行環境)だ。AIアシスタントと対話してドキュメントから情報を抽出および共有でき、さまざまなAdobeツールにアクセス可能で、コンテンツ作成を支援するという。これは、営業、法務、マーケティング、財務といった専門職だけでなく、一般消費者から学生まで、あらゆる人の作業の仕方を根本から変革するとAdobeは述べている。
一方、Microsoftも同じ日に、表計算ツール「Microsoft Excel」のデスクトップ版に関数「COPILOT」を導入すると発表した。
Adobeはこれまでも製品にAI機能を追加してきた。2024年にはAIアシスタント「Adobe Acrobat AI Assistant」の一般提供を開始したが、これにより文書の要約や分析が可能になった。
調査会社Constellation Researchのアナリスト、リズ・ミラー氏は、今回発表されたAdobe Acrobat Studioはさらに大きな一歩だと評価する。「ユーザーがまさに必要な場面で生成AIを使える、新しいワークスペースだ。Adobeは、ユーザーがどのようにPDFドキュメントを使って仕事をしているかを本当に理解したようだ」と語る。
ミラー氏は続けて、「従来のAdobe AcrobatはPDFファイルだけでなく、Microsoft Excelや文書作成ツール『Microsoft Word』、プレゼンテーションツール『Microsoft PowerPoint』のファイルを取り込んだり、PDFをそれぞれのファイルに変換したりできた」と語る。Adobe Acrobat Studioによって、1つのPDFファイルにさまざまなファイル形式のドキュメントから情報を取り込めるようになる可能性がある。ドキュメント、資料、記録、さらには画像や動画や音声を1つのPDFに集約し、AIアシスタントを使って複数人で共同編集し、保存できるとすれば、非常に強力なツールになる、と同氏は期待を寄せる。
Adobe Acrobat Studioは、AIの回答内から引用元を簡単に追跡できる機能だ。「大したことがないと思うかもしれないが、事実に基づかない回答を生成する可能性が常にある以上、非常に重要な機能だ。法律事務所やコンプライアンス(法令順守)を重視する企業、引用を多用する教育分野など、この機能が大きなセールスポイントになる」。調査会社Deep Analysisの創業者アラン・ペルツシャープ氏はそう語る。
一方のCOPILOT関数は、自然言語でプロンプト(指示)を入力し、セルの値を参照するだけで、AIを活用した結果を瞬時に生成できるという。Microsoft Excelの計算エンジンに組み込まれており、データが変更されるたびに、結果も自動的に更新される。わざわざ再実行する必要はない。
既存のExcel関数との連携も可能だ。「IF」「SWITCH」「LAMBDA」「WRAPROWS」などの関数を使用した数式内で使用したり、他の数式の結果をプロンプトの一部として使用したりすることも可能だ。
ミラー氏は、Adobeの今後の課題について、Adobe Acrobat Studioがユーザーのビジネスにどう役立つかを明確化する必要があると語る。「単に画像を生成できることと、分析を提供することとでは全く価値が異なる。これまでAdobeツールはPDFで作業を行うツールだったが、今後はPDF以外からも情報や洞察を引き出せるようになるかが重要だ」と語る。
ミラー氏は、Microsoftについても、生成AI機能が扱える範囲を拡大することが必要だと語る。「Microsoftのエコシステム内の全てのツールとAI機能が、互いに連携し、データを共有し、一連の流れとして扱える機能をネイティブに実装する必要がある」と同氏は語る。
ペルツシャープ氏は、Microsoft ExcelのCOPILOT関数について、懸念を表明する。「これまで大規模言語モデル(LLM)や生成AIは、数値計算を苦手としてきた。COPILOT関数がどれだけうまく機能するか、真価が問われるだろう」と語る。
さらに別の課題として、Microsoft Excel独特のリスクについて言及する。「PDFやWord文書内でのAI活用のリスクはさほど高くない。しかし、Microsoft Excelは現実世界の、非常に繊細なビジネス上の意思決定の分野に深く入り込んでいる。仮に誤った計算結果を出力すれば、深刻な問題につながりかねない」と同氏は指摘する。
翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)
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