働き方や利用するアプリケーションが多様になる中、企業はVDIとDaaSのどちらを採用すべきか。両者の特徴と導入シナリオを踏まえて、それぞれの課題やメリット・デメリットを解説する。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を機に急拡大したテレワーク需要は、2025年の現在も多様な形で定着している。オフィスへの出社と在宅勤務を組み合わせた「ハイブリッドワーク」は、単なる働き方の変化にとどまらず、企業のIT基盤の在り方を根底から見直す契機となっている。
そうした変化の中で、改めて見直されることになっているのが仮想デスクトップだ。その実装形態の一つに「VDI」(仮想デスクトップインフラ)と「DaaS」(Desktop as a Service)がある。いずれもエンドユーザーに仮想デスクトップを提供する仕組みであることは同じだが、自社に最適な仮想デスクトップ基盤を導入するためには、両者の各種の違いを押さえておくことが欠かせない。
VDIとDaaSの根本的な違いは、仮想デスクトップ環境の「所有」と「利用」のどちらを主体とするかにある。VDIは自社で物理インフラを所有、管理するモデルであり、DaaSはクラウドサービスとしてインフラを利用するモデルだ。この所有と利用の差が、コストや運用負荷、拡張性、セキュリティなどのさまざまな側面に影響する。それぞれ具体的な違いをまとめた。
VDIは、自社で管理するオンプレミスのデータセンターなどにサーバ群を構築し、そこから仮想デスクトップを配信する方式だ。このモデルの強みは、その高い制御性にある。企業はハードウェアからソフトウェア、ネットワーク、セキュリティポリシーまで、全てのレイヤー(層)を自社で管理できる。このため、特定のセキュリティ要件や複雑なコンプライアンス(法令順守)規制に対応する必要がある金融業、製造業、医療業界などでは、依然としてVDIが欠かせない選択肢となっている。
VDIはオンプレミスインフラに既に存在するIT資産やアプリケーションとの物理的な近さを生かし、低遅延かつ安定したアクセスを実現できる。そのため基幹系システムやレガシーアプリケーションとの親和性があることもVDIの特徴の一つだ。大規模なユーザー数を抱えるサービスを展開する企業にとっても、ユーザーごとの詳細なリソース割り当てを柔軟に制御できることや、一貫したパフォーマンスを提供しやすい点でもVDIが有利になることがある。
DaaSは、IaaS(Infrastructure as a Service)やSaaS(Software as a Service)と同じくクラウドサービスの一形態として登場した仮想デスクトップの提供モデルだ。代表的なサービスには、Microsoftの「Azure Virtual Desktop」(AVD)、AWSの「Amazon WorkSpaces」、Citrix Systemsの「Citrix DaaS」などがある。
DaaSの大きな特徴は、導入の容易さと運用の柔軟性にある。企業はハードウェアの調達や物理構築、初期設定に要する膨大な時間とコストを大幅に削減できる可能性がある。DaaSは「必要なときに必要な分だけ使う」従量課金モデルが基本となっており、小規模から導入できることも強みだ。部署単位やプロジェクト単位でのトライアル導入がしやすく、利用規模を柔軟に拡大・縮小できるため、季節的な業務変動や一時的な人員の増減にも対応しやすい。
企業にとって長期的な総コストを左右する要素の一つになるのが運用管理だ。VDIとDaaSではどのような違いあるのか。
VDIは自社運用であるため、自由度が高い反面、サーバ管理、OSやアプリケーションのパッチ適用、ユーザープロファイルの管理、そして障害対応などの責任が全て情報システム部門など運用管理部門にのしかかる。新しいアプリケーションを導入する際には、マスターイメージの更新、テスト、配布といった一連の作業が必要だ。エンドユーザーからの「動作が遅い」といった問い合わせがあった場合は、ハイパーバイザーやストレージ、ネットワークなど、複数のレイヤーを横断して原因を特定する必要があり、高度な専門知識が要求されることもある。
その半面、徹底した制御性がVDIの大きな強みでもある。金融機関や政府機関など、機密性の高いデータを扱う企業では、外部サービスに依存せず、データを自社管理下に置くことがコンプライアンス上必須となる場合が多い。特定のハードウェアやソフトウェア構成を厳密に維持する必要がある製造業などでも、カスタマイズの自由度が高いVDIが選ばれる傾向にある。これらの企業にとって、運用負荷の高さは許容範囲であり、それ以上にセキュリティと制御性を優先する判断がなされている。
DaaSは、ハードウェアの保守やパッチ適用、リソースの増強といったインフラ側の管理をクラウドベンダーに任せることができるため、ユーザー企業側の運用負荷が軽減される。情報システム部門は、物理的なインフラ管理から解放され、アプリケーションの管理やユーザーサポートといった、より本質的な業務に集中できる。特に、DaaSはエンドユーザー数の増減に迅速に対応できるため、新入社員のオンボーディングや契約社員の増加といった一時的なリソース要求にも対処しやすい。
一方で、DaaSにはサービス仕様に起因する制約も存在する。例えば、特定のOSバージョンやアプリケーション構成がサポートされていない場合や、細かなネットワーク設定、セキュリティポリシーのチューニングに限界がある場合がある。既存のオンプレミス環境にあるアプリケーションとの連携には、専用線の導入やVPN(仮想プライベート寝t4とワーク)接続など、別途ネットワーク設計が必要となることもある。これらの制約は、業務要件によっては導入の障壁となる可能性があるため、事前にベンダーのサービス内容を十分に確認することが不可欠だ。
導入の判断軸として、コストの違いは避けて通れない。
VDIの導入には、初期投資がかかる。サーバ、ストレージ、ネットワーク機器といったハードウェアの調達に加え、仮想化ソフトウェアのライセンス、管理ツールの購入費用、そしてそれらを構築・設定するためのSIer(システムインテグレーター)への委託費用など、多岐にわたるコストが発生する。
長期的な利用を前提とすれば、1ユーザー当たりのランニングコストを抑えられる可能性はあるが、5年程度で発生するハードウェアの更新費用や、運用・保守に関わる人件費を含めると、総所有コスト(TCO)が重くなる可能性もある。ユーザー数が変動する場合、余分となったリソースのコストが無駄になるリスクも考慮する必要がある。
DaaSは、利用した分だけ料金を支払う従量課金モデルが一般的だ。初期投資を抑えられる一方で、利用状況を適切に管理しなければ想定外のコスト増大を招くリスクことには注意が必要だ。例えば、仮想デスクトップの停止漏れや、業務実態に合わないハイスペックなインスタンスの割り当ては、月額料金を想定以上に押し上げる要因となる。特に、ユーザー数の変動が大きい場合や、複数の部門で利用する場合には、継続的な利用状況のモニタリングと、細やかなリソースの最適化が欠かせない。コスト最適化の実現は、積極的な管理努力の上に成り立つものであることを認識する必要がある。
実際に企業がVDIとDaaSのいずれかを選択する際には、現状のインフラや組織体制、業務要件を総合的に踏まえて検討することが不可欠だ。
既にVDIを導入し、安定運用している企業は、既存資産を最大限に生かすことが最優先だと言える。とはいえ単に現状維持をするのではなく、現代のIT環境に適合させるための見直しが求められる。具体的な検討ポイントとしては、ハードウェアの更新計画、セキュリティパッチの適用ルール、バックアップ体制の再整備が挙げられる。特に、テレワークユーザーが増加した現在では、外部からのアクセスセキュリティを強化し、ユーザー体験を向上させるためのネットワーク帯域の確保も重要だ。
既存のVDIとDaaSを組み合わせた「ハイブリッド構成」も有力な選択肢となる。例えば、高度なセキュリティが要求される基幹業務はVDIで継続し、汎用(はんよう)的な事務作業はDaaSに移行することで、両者のメリットを享受する活用方法がある。
新規に仮想デスクトップ環境を導入する場合、DaaSの低額な初期費用はユーザー企業にとって魅力的なポイントになる。だがVDIが依然として最適な選択肢となることも珍しくない。例えば、数千人規模のユーザーを一元的に管理する必要がある大企業や、特定の高性能アプリケーションを安定して動作させる必要がある設計・開発部門、あるいは厳格なコンプライアンス要件を満たす必要がある組織では、VDIの制御性の高さが決め手になることがある。
VDIの新規導入においては、長期的な視点での計画が不可欠だ。導入時に、5年後のシステム更新を見据えたハードウェア選定や、将来的なクラウド移行を視野に入れたシステム設計が求められる。運用負荷の高さから、専任のIT管理者チームを確保できる体制が前提となる。これらの計画が不十分な場合、導入後に運用が破綻するリスクがあるため注意が必要だ。
新規導入や、部門単位でのトライアル導入を検討する企業にとって、DaaSは最も現実的な選択肢になると言える。導入プロセスは比較的シンプルであり、まずは小規模なPoC(概念実証)を実施し、実際の利用感や性能、コストを検証することが推奨される。
DaaS導入における実務的なポイントは、自社の業務要件とサービス仕様の適合性を慎重に見極めることだ。例えば、特定のアプリケーションがDaaS上で動作するか、またはネットワーク遅延が業務に支障を来さないかなどをテストする必要がある。また、DaaSはベンダーロックインのリスクを伴う。将来的なベンダー変更やマルチクラウド戦略を考慮し、データ移行の容易性やAPI連携の有無なども検討することが重要だ。
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