AIに欠かせないSSD【後編】
AI推論の遅延解消を目指す「SSDの魔改造」「GPUのNAND化」とは?
GPUへのデータ供給の遅れが、AI推論のボトルネックになっている。この課題に対し、SSD自体を推論処理に特化させるアプローチや、GPUのメモリ構造を変えるアプローチが登場している。その詳細を解説する。
AI(人工知能)技術の進化に伴い、大容量SSDも進化を遂げている。SSDは学習データを保管する以外にも有望なAI技術関連の用途がある。それは、AIモデルが判断を下す「推論」処理の高速化だ。NAND型フラッシュメモリベンダーのSamsung ElectronicsとSK hynixは、オンプレミスデータセンターにおけるAIモデルの推論処理が、大容量SSDのもう一つの大きな需要要因だと指摘している。
リアルタイム推論を「大容量SSD」で実現する2つのアプローチ
併せて読みたいお薦め記事
連載:AIに欠かせないSSD
AIシステムのためのストレージ
一部のオンプレミスデータセンターは、クラウドサービスに預けることができない機密データを扱っている。これらのデータセンターでは、AIモデルの学習データや推論データも他のデータと同様のセキュリティレベルで保護しなければならない。さまざまな国の政府が、AI関連のデータ主権(自国のデータは自国内の法律の下で管理するという考え方)を守るために、国内にAIデータセンターを建設している。このことを考えれば、個々の企業や組織が同様の対策を講じるのは自然な流れだ。
AIモデルの推論は、学習済みのAIモデルを使い、新しいデータに基づいて予測や判断をする処理だ。リアルタイム性が求められる推論が必要な場合、クラウドサービスのAIモデルを用いると、データの転送と応答に時間がかかり、タイムロスが発生してしまう。これを回避するためには、データをクラウドサービスに送らず、オンプレミスデータセンターで処理することが重要になる。
オンプレミスデータセンターで推論を素早く実行するには、AIモデルを瞬時に読み出さなければならない。こうした読み込みはHDDでは追い付かず、より高速に読み書きが可能なSSDが必要になる。数十TBのAIモデルのように、大きなサイズのAIモデルで推論を実行する場合、その巨大なデータを格納するための大容量SSDも必要になるという考え方だ。
SSDとGPUの最適化
AIモデルが実行する処理では、GPU(グラフィックス処理装置)の計算能力にストレージからのデータ供給が追い付かず、GPUがデータを待つための「待機時間」が発生する。この無駄な待機時間をいかに減らすかが、AIシステム全体の性能を向上させる上で重要だ。こうした課題を解決するため、ベンダーはSSDの性能、特に応答速度(レイテンシ)やランダムアクセス性能を、GPUがデータを要求するパターンに最適化させる方法を模索している。
その一つが、NAND型フラッシュメモリ技術ベンダーPhison Electronicが提供する「aiDAPTIV+」だ。これはソフトウェアとハードウェアを組み合わせた製品で、AI関連処理に特化したSSDを使用することで、必要なGPUの数を削減する。aiDAPTIV+は、AI関連処理を実行する上での固有の要件を満たす2つの要素で構成されている。1つ目は高い耐久性を備える専用SSD、2つ目は適切なタイミングでSSDとGPUでデータを入れ替える専用ミドルウェアだ。
一方、Sandisk(2025年2月にWestern Digitalからフラッシュストレージ事業が分社化)は異なるアプローチを取っている。SSDではなく、GPUが通常搭載するHBM(広帯域メモリ)の一部または全てを置き換える、特別に設計したNAND型フラッシュメモリチップ「HBF」(高帯域幅フラッシュ)の開発を進めている。通常のNAND型フラッシュメモリチップは、容量当たりの価格が最も安くなるように設計される。HBFはそうしたチップを土台にして、複数の独立したチップが並列でデータを読み書きできるようにする技術だ。これによって、読み出しの応答速度や、書き込み前に一度データを消去する必要があるというNAND型フラッシュメモリ固有の制約は残るものの、チップ全体の帯域幅(通信路容量)を飛躍的に向上させることができる。
HBFの業界標準化に向けて、SandiskとSK hynixが協業しているという事実は、この技術がAI分野における特定の問題を解決する上で、業界全体からの期待が集まっていることを示している。推論処理は学習処理に比べてメモリへの書き込みが大幅に少ないため、特に推論システムにおいて、HBFが有効な選択肢になる可能性がある。
上述した「GPU内のメモリをNAND型フラッシュメモリチップで置き換える」アプローチは、必ずしも大容量SSDとセットで導入されるものではない。ただし、HBFを採用したシステムに大容量SSDを追加すれば、お互いの長所を補完し、より高性能なシステムを構築できるようになるといったメリットは見込める。SSDを改良するか、GPU内のメモリを改良するか、どちらのアプローチが主流になるにせよ、大規模AIシステムにおけるNAND型フラッシュメモリベースのストレージの容量は、今後さらに速いペースで増加していくことは明らかだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
TechTarget グローバルインサイト
米国Informa TechTargetが発信する記事を翻訳し、国内向けに分かりやすく紹介します。最新の海外動向や先進事例を取り上げ、グローバルなITトレンドを把握できる連載です。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品レビュー
[ヴィーム・ソフトウェア株式会社] SCS評価制度を導入するだけで十分? 組織の防御力を高める活用方法とは -
技術文書・技術解説
[フォーティネットジャパン合同会社] AIランサムウェアに勝つ 自律型エンドポイント管理導入で確認すべき条件4つ -
技術文書・技術解説
[フォーティネットジャパン合同会社] LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント -
製品レビュー
[ネットアップ合同会社] 研究分野でAI活用が進まない? 真の成果につなげるデータ管理の在り方とは -
製品レビュー
[ヴィーム・ソフトウェア株式会社] SCS評価制度を導入するだけで十分? 組織の防御力を高める活用方法とは
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
2
VMware離れの決め手は“機能”以外だった 情シス109人が選んだ新基準と死角は
-
3
IBM iのブラックボックス化を打破 資産継承と進化を実現する「IBM Bob」の実力
-
4
二極化する生成AI活用 「一部の社員しか使いこなせない」をどう解消すべきか
-
5
デンソークリエイト、Excelからの移行も簡単に行えるプロジェクト管理ツールを発表
-
6
Claude Opus 5.5、GPT-6 Sol/Luna登場 情シスが迫られるモデル使い分け
-
7
「クラウドDR」4大基礎用語 クラウドバックアップやDRaaSとの違いは?
-
8
「Apple Watch」、読者の95%は「仕事で使える」、5%は何に不満?
-
9
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
10
攻撃で“大慌て”になる企業に欠けていた「サイバーレジリエンス」の視点
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
「Google Workspace」活用事例34選、先進の生成AIによる組織変革の全貌
-
2
Linuxのスキルを証明する“激推し”の認定資格はこれだ
-
3
バックアップは“取っているから大丈夫”なのか? ランサムウェア時代の備え方
-
4
ネットワーク遅延の原因、「パケットロス」の基礎知識と効果的な解決策
-
5
月1000枚の紙を削減 9年動けなかった組織が、業務改革のその先に得たもの
-
6
「改正物流効率化法対策」徹底解説 総物流費を抑制するサプライチェーン戦略
-
7
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
8
ソフトウェア開発の属人化と手戻りをどう防ぐ? 速さと品質を両立させる方法
-
9
AI活用を停滞させる「2:6:2の壁」を乗り越えるためのポイントとは?
-
10
ドラマで分かる、標的型攻撃メールの被害を受ける企業と回避できる企業の分岐点
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー