APAC地域の企業は、コンテナアプリケーションの開発と運用において、クラウドサービスのコスト高騰や場当たり的な自社開発の問題に直面している。Kubernetesのメリットを最大化する適切な戦略を紹介する。
オープンソースソフトウェアの管理団体Cloud Native Computing Foundation(CNCF)と非営利団体Linux Foundationが2025年3月に公開した調査レポート「Cloud Native 2024」によると、日本を含むアジア太平洋(APAC)地域の組織の84%が、アプリケーションの開発とデプロイ(展開)においてクラウドネイティブ技術を使用していると回答した。本番環境もしくはテスト環境でKubernetesを利用していると回答したのは93%で、コンテナオーケストレーター「Kubernetes」を使用した、コンテナベースのアプリケーションの普及がうかがえる。
Kubernetesはアプリケーションの大規模な展開と管理に向いている。運用環境をコンテナにすることで、開発の俊敏性、アプリケーションの移植性、リソースの効率性が向上する。学習や実践に役立つ豊富なガイダンスを提供しているコミュニティーの支援もKubernetesの普及を後押ししている。一方で課題もある。
APAC地域の企業の90%が複数ベンダーのクラウドサービスを併用するマルチクラウドを採用しているとのデータがある。クラウドサービスの利用を制御できなくなり、無秩序にリソースが拡張したり、利用サービスが増加したりする現象「クラウドスプロール」が起きている可能性は否定できない。
さらに、75%の企業がKubernetesの専門知識の不足を課題として挙げている 。Kubernetesを使ったアプリケーションの開発とコンテナでの運用には専門知識が必要で、人材不足から環境が複雑になり、コンテナのメリットがかえって失われている可能性もある。
人工知能(AI)の普及も課題だ。生成AIや、AIエージェントといったAIアプリケーションの能力を最大限に引き出すためには、コンテナ環境の適切なオーケストレーションが求められるからだ。
APAC地域の多くの企業は、プロビジョニングの容易さや、自動スケーリング機能に魅力を感じて、「Amazon Elastic Kubernetes Service」(Amazon EKS)や、「Azure Kubernetes Service」(AKS)といった、クラウドサービス内のKubernetesサービスを利用している。こういったマネージドサービスは確かに費用対効果が高く、最初はコストを削減できるように思える。しかし、特定のクラウドサービスへの依存には落とし穴が存在する。
1つ目の課題はベンダーロックインだ。企業が特定のクラウドサービスを基盤にコンテナアプリケーションを構築すると、依存度が高まり、前述の俊敏性や移植性といったメリットが失われる。APAC地域には独特の規制や市場状況が存在する 。そんな中、クラウド依存は選択肢を制限し、企業競争力を低下させる。
2つ目の課題はコストだ。Kubernetesそのものはオープンソースだが、クラウドサービスでKubernetesクラスタ(コンテナクラスタ)、ストレージサービス、監視機能など、リソースを追加するにつれて、クラウドコストが高騰する。設定には専門知識が必要となることが多く、料金だけではなく、人材への投資も必要になる。リソースが一定の量を超えると、データ移行にかかる料金、時間、労力が跳ね上がる危険性もある。
このような課題を回避するため、多くの企業は別の極端な方法に走っている。全てを自前で管理する、いわゆる「DIY」だ。このアプローチにはクラウドサービスの料金がかからず、完全なコントロールが可能というメリットがあるが、それをはるかに上回るデメリットをもたらす可能性がある。
1つ目の課題は組織の断片化だ。標準化が難しく、開発、運用、インフラといった部門間の連携がうまくいかない場合がある。大企業では、コンテナ間で効果的に通信できないアプリケーションが乱立するケースもある。
このような断片化は運用効率を低下させ、需要の変化に合わせてリソースを動的に縮小、拡張し、コストを最適化するというKubernetesのメリットの実現を妨げる。一元的な監視と管理の仕組みがない場合、投資収益率(ROI)の把握に苦労するだろう。
2つ目の課題はDIYによる開発および管理人材の浪費だ。貴重な人材は、イノベーションの創出に集中させた方がいい。不適切な人材配置は競争力の低下につながる。
企業が進むべき方向性は、専門知識を持つ人材を1つにまとめ、専門のエンジニアリングチーム、もしくはCoE(Center of Excellence:特定の専門知識を基に業務推進をするチーム)を編成し、組織全体のKubernetesの利用方法を標準化することだ。このアプローチにより、プライベートクラウドとパブリッククラウドなど、異なる環境間で一貫して機能する標準化されたスタックを構築し、プロビジョニングを容易にし、管理作業を自動化する。APAC地域特有のマルチクラウドの課題にも対処できる。
IT人材が比較的不足しているAPAC地域では、標準化の実現により、チームが既存のアプリケーションをコンテナ化のためにリファクタリング(ソースコードの動作を変えずに内部構造を整理すること)することも可能になる。
Kubernetesの適切な利用は、単なる技術的なニーズではなく、ビジネス上不可欠と言える。一元管理により、迅速な開発、効率的なリソース活用、そして最新のAIアプリケーションのためのシームレスな拡張が可能になるからだ。Kubernetesの適切な運用、管理方法を習得すれば、アプリケーションの市場投入までの時間の短縮、運用コストの削減、複数のクラウドサービスや複数リージョンに迅速に対応できる俊敏性によって、競争優位性を獲得できる。
専門チームの編成と利用方法の標準化を行わない場合、環境が複雑化し、貴重な人材を無駄遣いし、クラウドコストが膨らみ、イノベーションが阻害される。デジタルトランスフォーメーション(DX)のスピードが重要なAPAC地域において、時間を無駄にしている暇はない。今すぐ取り掛かる必要がある。
翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)
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