従来の中央集権型データセンターは管理しやすい半面、通信遅延や単一障害点、厳格化するデータ規制に対して限界を迎えつつある。小規模データセンターにインフラを分散させる構造のメリットと課題を解説する。
各国の法規制に従ってデータを管理する「データ主権」への懸念、即応性が求められるAI(人工知能)アプリケーションの台頭――。こうした課題に対処するためのアプローチとして有効なのが、データセンターインフラの「分散化」だ。
分散型インフラを採用した「分散型データセンター」は、巨大な施設に機能を集中させる従来型データセンターとは異なり、小規模な拠点を各地に展開してデータを処理、保管する。各拠点が自律的に稼働することで、従来の弱点だった「単一障害点」を排除し、システム全体の処理能力と耐障害性を高めることができる。
ただしインフラの分散化は、企業にメリットをもたらすと同時に、運用の複雑化という新たな課題を突き付ける。本稿はデータセンターの分散化における戦略と課題を解説する。コンピューティング、ストレージ、ネットワークリソースの配備をどう最適化すべきか、ITリーダーが自社にとっての“現実解”を見極めるための判断材料を提示しよう。
ITリーダーは、分散型インフラを「長期的なアーキテクチャへの投資」として捉える必要がある。既存システムへの「後付け機能」ではなく、クラウドサービスの「進化形」と位置付けるべきだ。
企業が今後システムを構築する際は、「分散化によるメリット」と「情報処理の効率」のバランスを優先させたアーキテクチャを採用するとよい。具体的には、以下の点を重視する必要がある。
分散型データセンターの導入を加速させているのが、データの発生場所(エッジ)での処理能力向上だ。分散型データセンターを成功させるには、データガバナンス、AI技術を活用したオブザーバビリティ(可観測性)、セキュリティ対策の導入、運用自動化などの整備が不可欠だ。
明確な目的を持つ企業にとって、分散型データセンターは強力な武器になる。そのメリットを最大限に享受するには、綿密なアーキテクチャ設計と慎重な実装計画が求められる。
コンピューティングリソースとデータ処理を戦略的に分散させる分散型データセンターは、企業に以下のメリットをもたらす。
拠点が分散しているため、特定の地域ごとの法規制やビジネス要件に合わせたシステム構成が可能になる。システム全体を止めることなく、特定拠点だけのアップデートも容易だ。
一極集中型のデータセンターへの依存を減らすことで、ホスティングにかかる費用を削減できる。小規模データセンターには、各役割に合わせて必要な機能だけを実装すればよいため、投資の無駄を省ける。
複数の拠点を維持することで単一障害点が排除され、システムの可用性が向上する。
地域や国ごとのデータ主権関連規制が変化し続ける中、分散型データセンターは「データはその地域内で保管する」という要件を満たしやすい。
エッジでデータを処理することで、物理的な距離によるレイテンシが軽減され、エッジコンピューティングのメリットを最大化できる。
サーバ単位でのスケールアップ(拡張)に加え、拠点を増やすスケールアウト(分散)という選択肢が取れるため、ビジネスの成長に合わせてシステムを拡張しやすい。
巨大で汎用(はんよう)的なデータセンターに全てを集約させるのではなく、アプリケーションごとに特化した小規模データセンターを活用することで、中央集権的なデータセンターへの依存を減らせる。
データの移動距離を短くすることで、リアルタイム性が求められるアプリケーションの運用を実現する。
上記のメリットを享受するには、データ処理とストレージの分散に伴う課題を認識し、対策を講じることが重要だ。対処を怠れば、投資対効果の低下やセキュリティ体制の脆弱(ぜいじゃく)化を招く恐れがある。主な課題を以下に挙げる。
データが複数の拠点に散らばることで、管理が難しくなる。「どのデータがどこにあり、最新版はどれか」という整合性の確保や、拠点ごとに異なるコンプライアンス要件の管理が発生する。
分散型データセンターの運用には、広範で高度な知識が必要だ。広域ネットワーク、エッジコンピュータのオーケストレーション、DevSecOps(開発、運用、セキュリティの融合)、ハイブリッド/マルチクラウド管理といった専門知識が必要になる。こうした知識を持つ人材を確保することは容易ではない。
拠点が増えれば、それだけ電力管理の手間も増える。各地域の電力会社との契約や連携、電力効率の最適化において、工数が増大する。
ハイブリッドクラウドやマルチクラウドが混在するシステムは、データや通信トラフィックの流れを制御することが困難だ。
守るべき拠点(出入り口)が増えるということは、攻撃者にとって侵入経路が増えることを意味する。このような攻撃対象領域(アタックサーフェス)の拡大に対処するには、AI技術を活用したモニタリング、ブロックチェーン技術を活用したデータの完全性証明、全てのアクセスを信頼せずに常時検証する「ゼロトラストセキュリティ」の導入など、多層防御が必要だ。
全ての企業が分散型データセンターの恩恵を受けるわけではない。自社ビジネスに分散型データセンターが適合するかどうかを評価する上では、以下の活用事例が参考になる。
自動運転車は、車載カメラ、LiDAR(レーザーを使って距離を測定する技術)、レーダーが取得した膨大なデータを素早く処理し、判断する必要がある。そのためには、データ発生源である車の近くでのデータ処理が必須だ。
電力網(スマートグリッド)の需給バランス調整や、設備の異常検出においては、現場データのリアルタイム収集と分析が欠かせない。
金融取引の高速化に加えて、業界の厳格なプライバシー規制を守るため、データを特定の管轄区域内で安全に処理、保管する必要がある。
ウェアラブルデバイスのデータ分析、医療画像の処理をエッジで実行することで、患者のプライバシーを守りながら診断の強化と高速化を図れる。
工場内のセンサーデータを、AI技術によってその場で分析し、予知保全や品質管理、工程の自動化を実現する。リアルタイム性が生産効率に直結する分野だ。
店舗内での在庫管理、顧客への即時レコメンデーション、レジなし決済など、分散型データセンターは顧客体験の向上に直結する処理を支えることができる。
通信やモノのインターネット(IoT)ソースを通じて、交通管理、ユーティリティーの最適化、その他の都市全体のサービスを利用しており、ローカルな計算能力とストレージ能力が求められる。
ストリーミング配信やオンラインゲーム、5G(第5世代移動通信システム)通信など、大容量データの高速転送と低遅延がサービス品質に直結する分野であるため、リアルタイム処理が重要だ。
この他、生成AIを活用する企業、IoTの急拡大に直面している企業、「止まることが許されない」リアルタイム処理を扱う企業にとって、分散型データセンターは検討に値する選択肢だ。
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