生成AIを“全社展開”できない85%の企業が陥った「わな」「PoC貧乏」から脱出するには?

調査によると、品質エンジニアリングでの生成AI活用に9割近くの企業が着手しながらも、その大半が実験段階にとどまっている。全社展開を目指す企業を足止めする「壁」の実態とは。

2025年12月11日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 「現場でテスト導入(PoC)したときは好評だったのに、いざ本番環境に展開しようとすると頓挫する」──。生成AI(AI:人工知能)の導入プロジェクトにおいて、企業はこの“見えない壁”に直面している。

 アプリケーション品質とテスト動向に関する調査レポート「World Quality Report 2025-26」によると、品質エンジニアリングの現場における生成AIの試験導入率は89%に達した。しかし「エンタープライズ規模」、つまり全社的規模で定着、運用できている企業はわずか15%に過ぎない。8割以上の企業がPoCの段階で足踏みし、投資対効果を出せない「PoC貧乏」の状態に陥っているのが実態だ。

 なぜ多くの企業が実験段階から抜け出せないのか。調査結果を分析すると、単なる「スキル不足」や「予算不足」ではない、より深刻で構造的な「3つの阻害要因」が浮かび上がってきた。

全社展開を阻む「3つの壁」

 World Quality Report 2025-26は、情報管理ツールベンダーOpen Text、ITコンサルティング企業Capgemini、Capgeminiの傘下にある技術サポート企業Sogetiが2025年6月から7月にかけて実施した調査結果に基づく。対象となったのは世界22カ国、10業種の企業におけるIT幹部約2000人だ。

 調査結果から見えてきたのは、技術的な「導入」と、業務プロセスへの「定着」の間にある深い溝だ。回答者は、生成AIの全社展開を阻む壁として、以下の「構造的な阻害要因」を挙げた。

  • データプライバシーのリスク(67%)
    • AIモデルの学習やプロンプト(指示)に機密データが含まれることへの懸念。
  • 統合の複雑さ(64%)
    • 既存のワークフローやテスト管理システムに、生成AIを組み込む技術的な難しさへの懸念。
  • ハルシネーション(60%)
    • AIモデルがもっともらしいうそをつくことと、それに対する信頼性の確保に対する懸念。

 この結果は、生成AI導入のフェーズが変化したことを物語っている。2024年の調査で上位だった「検証戦略の欠如」や「スキル不足」といった準備段階の課題から、より実運用に即した具体的なリスクに関心が移っているからだ。

 具体的な適用領域にも変化が見られる。生成AI導入の初期フェーズでは、不具合分析などの「出力結果の分析」が主流だった。一方2025年調査では、「テストケースの設計」「要件の精緻化」といった、入力データの最適化や上流工程への適用が台頭している。

 しかし導入の壁は厚い。導入効果については、平均で19%の生産性向上が報告されながらも、回答者の33%は「わずかな効果しか得られていない」と答えた。単に生成AIを導入するだけでは成果に結び付かない現実が浮き彫りになった形だ。

 この行き詰まり感を打破する鍵として、Open Textの製品およびエンジニアリング部門バイスプレジデントであるタル・レビジョセフ氏は、「協調的インテリジェンス」の重要性を説く。これは、人間が持つ「高度な業務知識」や「倫理的な判断力」と、AIモデルの「機械的な正確さ」や「処理速度」を融合させるアプローチだ。AIモデルの判断に全てを委ねるのではなく、人間が要所で監督、検証することで、品質と責任を確保しながらイノベーションを加速させる狙いがある。

 「AIは能力を増幅させるが代替するものではない」とレビジョセフ氏は述べる。人間の専門知識とAIモデルの処理能力を組み合わせ、品質エンジニアリング体制を強化する戦略が、今後の成否を分ける鍵になりそうだ。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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