脱VMwareの本命「Proxmox VE」とは 情シス部が決断すべき理由ライセンス費“0円”の衝撃

BroadcomのVMware買収でインフラコストが激変した。商用製品に縛られるリスクを捨て、ライセンス費「0円」のProxmox VEへ移行すべき経営的な理由と勝算を解説する。

2025年12月17日 11時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 BroadcomによるVMware買収劇から数年。企業のITインフラコストは激変した。「請求書を見て愕然とした」「次回の更新で予算が数倍になる」――。情シスの現場からは、悲鳴にも似た声が聞こえてくる。

 もはや、従来の商用ハイパーバイザーにしがみつくことは「安全な選択」ではない。「持たざるリスク」よりも「持ち続けるコスト」が経営を圧迫し始めているからだ。本稿では、コスト削減とベンダーロックイン回避の“最終回答”として、TechTargetジャパンやInforma TechTarget、Computer Weeklyの記事からOSS仮想化基盤「Proxmox Virtual Environment」(Proxmox VE)への移行を提案する。これは単なる技術的な乗り換えではない。経営判断としての「インフラの主権回復」である。

請求書が語る「恐怖」の現実

 「BroadcomのVMware買収によって、何が変わったのか」。その答えはシンプルだ。ライセンス体系の変更と、実質的な大幅値上げである。

 TechTargetジャパン記事によれば、BroadcomはVMware製品をサブスクリプション型に一本化し、中堅・中小企業が愛用していた永続ライセンス(Perpetual License)を廃止した(出典:VMwareの永続ライセンス廃止でユーザーが“とんでもない苦境”に陥った理由)。これにより、「サーバ仮想化ができれば十分」と考えていた多くの企業が、多機能で高額な「VMware Cloud Foundation (VCF)」への移行を迫られている。

 市場調査会社のアナリストは、この動きを「ベンダーロックインの究極形」と指摘する。一度そのエコシステムに深く組み込まれれば、ベンダー側の一方的な価格改定に対して、ユーザー企業は成す術がない。Informa TechTarget記事でも、Broadcomの戦略が利益率の高いトップ顧客への集中であり、中堅以下の顧客が事実上の切り捨て対象になっていると推測している(出典:VMware by Broadcom changes to continue in 2025)。

 情シス部長が直面しているのは、単なるソフトウェアの更新ではない。「年間数千万円規模のコスト増」という経営リスクだ。このまま言い値で払い続けるか、それとも脱出するか。残された時間は多くない。

なぜオープンソースソフトウェアなのか

 「脱VMware」を検討する際、多くの企業が最初に思い浮かべるのが「Nutanix Acropolis Hypervisor」や「Hyper-V」といった他の商用ハイパーバイザーだ。確かにこれらは有力な選択肢であり、機能も充実している。しかし、今回の危機の本質が「特定のベンダーにインフラの生殺与奪を握られること」にあるならば、商用製品への移行は課題の先送りに過ぎない恐れがある。

 そこで浮上するのが、OSS(オープンソースソフトウェア)という選択肢だ。かつてOSSの仮想化基盤といえば、コマンドライン操作が必須で、サポートもコミュニティー頼みという「玄人向け」のイメージが強かった。しかし、その認識は過去のものだ。

 Linuxの標準機能であるKVM(Kernel-based Virtual Machine)は、今や「Amazon Web Services」 (AWS) や「Google Cloud」といったメガクラウドの基盤技術として採用されている。このKVMを使いやすいGUIで管理できるようにした統合環境こそが、Proxmox VEである。

Proxmox VEの再評価:エンタープライズの「避難所」へ

 Proxmox VEは、オーストリアのProxmox Server Solutions GmbHが開発するOSSのサーバ仮想化プラットフォームだ。Debian Linuxをベースに、KVM(仮想マシン)とLXC(コンテナ)を統合管理できる。

 なぜ今、Proxmoxがエンタープライズの避難所として注目されているのか。最大の理由は、VMwareからの移行パスが劇的に整備されたことにある。

 Proxmox VE 8.x系以降では、「ESXi Import Wizard」と呼ばれるGUIベースの移行支援機能が導入された。Proxmoxの公式ドキュメントによると、このウィザードを使うことで、既存のVMware ESXiホスト(またはvCenter)をProxmoxに接続し、仮想マシンをGUI上で選択・操作しながらインポートできる(出典:Migrate to Proxmox VE)。

 これまで煩雑だった仮想ディスクの変換やマニュアルでの設定移行を、ある程度自動化できるようになった点が評価されており、「現場エンジニアの負担を大幅に軽減する機能」として注目されている。なお、実際の移行にはESXi側のストレージ設定や仮想マシンの停止が必要な場合もある。

 従来、異なるハイパーバイザー間の移行(V2V)は、ディスク形式の変換やドライバの入れ替えなど、煩雑で失敗しやすい作業の連続だった。しかし、Proxmoxのウィザードはこれらを自動化し、数回のクリックで移行を完了させる。この「移行の容易さ」が、現場リーダーを説得する強力な武器となる。「OSSは難しい」という心理的障壁を大きく下げることができる。

浮いた予算を「攻めのIT」へ

 OSSへの移行を決断する最大のメリットは、コスト構造の改善だ。

 Proxmox VEのソフトウェアライセンス費用は「0円」だ。もちろん、エンタープライズ向けのサポート契約(サブスクリプション)は存在するが、その価格体系はCPUソケット数単位で課金される商用製品とは比較にならないほど安価に設定されている(出典:Pricing for Subscriptions Plans - Proxmox Virtual Environment)。

 ここで浮いた予算の使い道こそが、情シス部長の手腕の見せ所となる。

 単にコストを削減して終わりではない。その資金を、枯渇しがちなハードウェアのリプレース費用や、例えば経営層が求める「生成AI活用」のためのGPUサーバ購入費に回すことができるからだ。

「OSSはサポートがない」は過去の神話

 OSS採用の最大の障壁として、しばしば「万が一の際のサポート欠如」が挙げられる。しかし、Proxmoxにおいてそれは誤解だ。

 Proxmox Server Solutionsは、有償サブスクリプションを提供している。この契約を結ぶことで、テスト済みの安定版リポジトリへのアクセス権と、開発元による技術サポートが得られる。

 重要なのは、「サポート契約を結んでもなお、商用製品のライセンス更新費より圧倒的に安い」という事実だ。さらに、世界中のエンジニアが参加するコミュニティーフォーラムには膨大なナレッジが蓄積されており、トラブルシューティングの速度は、時としてメーカーの一次回答を待つよりも速いことも多い。

 「商用だから安心」という思考停止は、Broadcomによる買収劇で裏切られたはずだ。真の安心とは、ブラックボックス化された契約書の中ではなく、技術の透明性と自社のコントロール下にある運用体制の中によって実現する。

仮想化は「差別化要因」ではなく「水道・電気」である

 10年前、ハイパーバイザーの性能差はビジネスの競争力に直結していたかもしれない。しかし現在、仮想化技術は完全にコモディティ化した。

 AWSやGoogle CloudがKVMを基盤にしていることからも分かる通り、ハイパーバイザーはもはや差別化要因ではなく、電気や水道と同じ「インフラ」であると言えるだろう。蛇口のブランドに高額な料金を支払う必要はない。重要なのは、その上でどのようなアプリケーションを動かし、どのようなデータを生み出すかだ。

 「VMwareか、それ以外か」という議論は終わった。これからの情シス部長に求められるのは、「搾取されるインフラ」か「自律するインフラ」かという、経営レベルの二者択一である。Proxmox VEへの移行は、その問いに対する最も現実的で、かつ戦略的な回答となるだろう。

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