小売り大手とBroadcomの訴訟を読み解く
VMware製品の“一方的な値上げ”は違法? Tesco訴訟でユーザー企業が抱えるリスクが浮き彫りに
小売り大手のTescoは、VMware製品やサービスの提供形態の一方的な変更が不当だとして、Broadcomを提訴した。法廷資料から浮かび上がるのは、自社の独占的地位を背景に、高額な再契約を迫る大手ベンダーの姿だ。
英国の小売大手のTescoは、ソフトウェアライセンス契約違反を巡り、Broadcom(VMware)を相手取り1億ポンド規模の訴訟を起こしている。最新の裁判資料は、VMware製品の再販業者やディストリビューター(一次代理店)との取引がいかに複雑であるかを浮き彫りにしている。
Tescoの訴訟は、単一のベンダーがユーザー企業に対して事業経営にとって重要な製品を2つ以上提供することのリスクを示している。TescoはVMwareのサーバ仮想化ソフトウェアとCA Technologiesのメインフレームソフトウェア、それらのサポートサービスを長年にわたり利用していた。Broadcomが2018年に企業向けソフトウェアベンダーのCA Technologiesを、2023年にVMwareを買収したことが、Tescoが直面した事態の一因となった。
VMware製品の長年の顧客だったTescoはなぜ訴訟を起こしたのか
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Tescoは2025年7月15日に提出した訴状で、Broadcomが仮想化やメインフレーム向けのソフトウェア群を、Tescoに対し「受け入れるか拒否するか」の2択で迫る長期のバンドル契約で提供しようとしていると主張している。
Broadcomは2023年のVMware買収後、ライセンス体系の大幅な変更を発表し、VMware製品群をバンドル構成へと再編した。また従来の永続ライセンス型の仮想化製品から、サブスクリプション型のサービス群「VMware Cloud Foundation」に顧客を移行させる方針を打ち出した。
VMwareの新たな料金体系によって、仮想化インフラの関連コストが大幅に増加した既存顧客も存在する。実際には利用していない製品を含むバンドルを購入せざるを得なかったり、他ベンダーの仮想化製品へ移行するという選択を迫られたりするケースもある。
Tescoは、Broadcomが同社の利用するソフトウェアやそのサポートサービスの利用料金を過度に引き上げようとしていると主張する。すぐに他の仮想化ベンダーやメインフレームベンダーへ移行するのは容易ではない。TescoはVMwareやCA TechnologiesなどのBroadcom製品から他ベンダーの製品への移行には、少なくとも3年を要すると試算している。
さらにTescoは、再販業者であるComputacenterが、同社がVMwareやCA Technologies 製のソフトウェアとそのサポートサービス小売事業を運営できないことを十分に認識していたと主張する。同社のVMwareのライセンスとサポートサービスは、VMwareから直接購入したものではない。Tescoは再販業者であるComputacenterを通じてBroadcomの製品やサポートサービスを調達しており、Computacenterはソフトウェア販売代理店のDell Technologiesと契約関係にある。
Tescoが経営する大半の店舗は、物流や在庫管理、補充、決済といった事業上不可欠な機能の運用にこれらのソフトウェア製品とサポートサービスを利用している。
Tescoの裁判は連鎖的な訴訟に発展
法廷資料によると、Tescoは2021年1月29日に、今回の訴訟でVMwareとBroadcomとともに被告になっているComputacenterから、VMwareのソフトウェアライセンスを購入していた。Tescoが今回の訴訟の対象にした製品には、サーバ仮想化ソフトウェア群「VMware vSphere Foundation」とプライベートクラウド構築用ソフトウェア群「VMware Cloud Foundation」の永続ライセンスに加え、2026年1月28日までの利用期間で契約したコンテナ管理製品群「VMware Tanzu Basic」と「Tanzu Mission Control」が含まれている。Tesco側は、Broadcomが契約済みのサポートサービスの提供を拒否していると主張している。
当該の契約は、2021年から5年間の支払い計画を含んでいた。しかしBroadcomはこの5年間の支払い計画に関して、合併前のVMware International社とTescoとの間に合意は存在しないと否定している。
この紛争に巻き込まれているDell Technologiesは、旧VMware Internationalのディストリビューターを務めていた。Broadcomの法廷資料によれば、Dell Technologiesは2013年からComputacenterに対して、VMware製品の拡販契約を結んでいた。しかしComputacenterは2026年1月8日、Tescoとの契約履行のために提供義務を負っていたVMwareソフトウェアを供給できなかったとして、Dell Technologiesに対する訴訟を起こした。
Broadcomは、VMwareとその子会社には、VMware製品の更新サービスの提供に関して、Dell Technologiesに対する義務はないと主張している。
これを受けDell Technologiesは、Computacenterの同社に対する訴えが認められた場合、Broadcomを相手取り1000万ポンド以上の賠償を求める訴訟を起こす意向を示している。
ソフトウェアの契約条件と責任の所在
ITコンサルティング会社bedigitalのプリンシパルコンサルタントであるバリー・ピリング氏は、「LinkedIn」への投稿で、本件のポイントは、エンタープライズライセンス契約(ELA)の満了時に、小売業者であるTescoに対し、4年間の追加サポートサービスを提供するという契約上の義務を、Broadcomが履行していないとTescoが主張している点にあると指摘する。
これに対しBroadcomは、関連するソフトウェアやサービスが提供終了となった場合、または製品がサポート終了(EOL)に達した場合、Tescoにはサポートサービスを更新する選択肢はなく、ComputacenterにもTanzuの更新ライセンスを調達する義務は生じないと反論している。
ピリング氏のLinkedIn投稿にコメントしたITコンサルティング会社Info-Tech Research Groupのコンサルタント、スコット・ビックリー氏は次のように述べている。「VMwareは、現行製品であっても自らの裁量でEOLにできる条項を巧妙に盛り込み、将来的なサポート義務から事実上免れることを可能にしている」
しかし、紛争はそれだけにとどまらない。ピリング氏はComputer Weeklyの取材に対し、TescoはBroadcomが仮想化市場での支配的な地位を乱用し、反競争的行為に及んだと主張していると話す。「世界中の仮想化インフラがVMware製品を利用して稼働している中で、正当な根拠を示さないまま価格を引き上げていると、Tescoは主張している」(同氏)
ピリング氏は、もし裁判所がBroadcomに競争法違反があると判断すれば、英国の競争・市場庁(CMA:消費者保護と公正な取引の監査を担当する公的機関)が調査に乗り出す必要があると指摘する。しかしCMAは既にBroadcomによるVMware買収を承認している。
ただしビリング氏は、その判断がVMwareの市場での支配的地位を十分に考慮していなかった可能性があると考えている。「当時のCMAの調査では、世界有数のハードウェアベンダーであるBroadcomが、VMwareソフトウェアの販売と併せて自社ハードウェアへの囲い込みを実施するのではないかという懸念が業界内で強かった。CMAはそこを調査した。しかしVMwareが世界最大の仮想化ソフトウェアベンダーである点については、十分に検討されなかった」という。
Tescoが起こした訴訟は、BroadcomがVMware製品群とサポートサービス提供に関する契約義務に違反したかどうか、そして反競争的行為に当たるかどうかについて、最終的には裁判所が判断することになる。
本件が進展する中で、TescoとBroadcom、VMware、Computacenter、Dell Technologies間の訴訟は、大手ソフトウェアベンダーがビジネスモデルを転換した際に、ユーザー企業が不安定な状況に直面する可能性を浮き彫りにしている。
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