ベンダーロックインは本当に悪か? 依存を競争力に変えるための発想と整理軸ベンダーロックインを価値に変える

ERPやクラウドサービス利用ではベンダーロックインは避けられない。価格改定など前提条件が崩れた際に説明責任を負う情シスとして、ロックインを管理対象と捉え、判断と説明を可能にする考え方を整理する。

2026年02月20日 05時00分 公開
[星 陽介雨輝ITラボ(リーフレイン)]

 「この仕組み、もう何年も使っているから変えにくい」「ベンダーロックインは避けたいが、では何を選ぶのが正解なのか分からない」「結局、乗り換えコストの方が高くつくのではないか」──。

 こうした会話は、多くの企業で繰り返されてきた。しかし最終的に、この問いに説明を求められる立場に置かれるのは、情報システム部門(以下、情シス)であることが多い。

 平常時、システムは動いている。業務も回っている。大きな障害が起きているわけでもない。それでも、価格改定や契約条件の変更、サポート方針の転換といった「前提」が崩れた瞬間、経営から問われるのは次の一点だ。

なぜ、これを選んだの?

 ベンダーロックインとは、単なる技術依存の問題ではない。情シスが説明責任を負う構造そのものを指す言葉でもある。

 本稿は、ベンダーロックインを「避けるべき悪」と捉える従来の発想から離れ、管理すべき前提条件として捉え直す。その上で、情シスが適切に判断し、経営層に説明できるようにするための考え方を整理する。

ベンダーロックインが問題視され続ける理由

 ベンダーロックインという言葉が出てくると、多くの場合はネガティブな文脈で語られる。情シス内でも「できるだけ依存しない方がよい」という空気感は根強い。

一般に語られるベンダーロックインのリスク

 まず挙げられるのは、価格改定への耐性が低い点である。特定ベンダーへの依存度が高いほど、条件変更の影響を受けやすい。

 加えて、ベンダー戦略の転換やサポート方針の変更が起きた場合、ユーザー側ではコントロールできないことだ。移行コストが高く、簡単に別製品へ切り替えられない状態が「ベンダーロックイン」と表現される。

情シスが感じやすい違和感

 一方で、情シスの実務感覚では違和感もある。技術的には大きな問題もなく動いている。障害が頻発しているわけでもない。それでも、契約条件や価格モデルといった技術以外の要素が、システム全体の将来を左右する場面が増えている。

ベンダーロックインの問題は「依存」ではなく「無自覚」にある

 ベンダーロックインの本質は、前提を整理しないまま使い続けている点にある。

多くのIT投資は最初からベンダーロックイン前提

 例えばERP(統合基幹業務システム)は、ベンダー固有の業務モデルを前提に導入される。個別の業務アプリケーションも同様だ。クラウド基盤でもサービスを提供するベンダーへの依存が避けられない。

問題になるのは「説明できない状態」

 問題は、なぜそのベンダーに依存しているのかを説明できないまま、使い続けている状態だ。

  • 代替案を検討したことがない
  • 撤退条件を整理していない
  • コストや制約を正確に把握していない

 結果として「何となく使い続けるしかない」という現状維持バイアスによる心理的な障壁が生まれる。

ベンダーロックイン=悪という単純化の問題

 ベンダーロックインを避けること自体が目的になると、本来得られる価値を取りに行けなくなる。IT投資の判断が「価値創出」ではなく「リスク回避」中心になると、選択肢は自然と狭まる。

ベンダーロックインが顕在化するのは「前提が崩れた瞬間」

 ベンダーロックインの怖さは、平常時には見えにくい点にある。この問題は、システムが動かなくなった瞬間ではなく、前提としていた条件が崩れたときに一気に表面化する。

 多くの場合、問題が表面化するのは障害発生時ではない。契約更新、価格改定、ライセンス変更、サポート方針転換といったビジネス条件の変化が引き金になる。「更新のタイミングでコストが跳ね上がる」「従来前提としていた利用形態が認められなくなる」といった場合だ。この瞬間、情シスは技術的な是非ではなく、「この条件を受け入れるのか、それとも別の選択肢を取るのか」という判断を迫られる。

仮想化基盤を巡る最近の動き

 仮想化基盤を巡る最近の動きは、ベンダーロックインがどのように顕在化するのかを分かりやすく示している。2023年にVMwareを買収したBroadcomの仮想化基盤を取り巻く混乱の背景には、技術的な欠陥や誤った利用方法ではなく、契約条件やライセンス体系といった前提の変化があるとされている。

ここから得られる教訓は

 多くの企業では、導入時点では性能や機能、コストを比較して意思決定を行う。そのまま年月が経ち、条件が変わった瞬間に初めて「想定していなかった依存」に直面する。

 この点について、IT分野に関する情報を扱うTech Mahindraが公開している記事では、仮想化基盤の課題は使い方の是非ではなく、依存の仕方や戦略の整理にあると指摘している。特定技術をどう使うかよりも、その技術に何を委ね、どこを自社でコントロールするのかを明確にすることが重要だという視点である。

発想転換:ベンダーロックインを「管理する」という考え方

 ロックインを、排除する対象ではなく、前提条件として扱う対象だと捉え直す。

ロックインには2つの状態がある

 1つ目は、前提や条件が整理されないまま運用が続いている状態である。「動いているから」という理由で使い続けているケースだ。

 2つ目は、依存している範囲や理由を把握した上で選択している状態である。なぜこのベンダーを使っているのか、どの条件までなら受け入れられるのかを言語化できており、条件変更が起きた場合の判断材料を持っている。この差が、条件変更時の対応力を分ける。

管理するとはどういうことか

 管理するとは、依存関係を意思決定に使える形で整理しておくことだ。

  • どのレイヤーで依存しているのか
  • インフラだけなのか、運用や監視まで委ねているのか
  • 条件変更時に、誰が何を判断するのか

 これらを事前に整理しておくことで、条件変更は「想定外のトラブル」ではなく、「判断すべき事象」になる。

クラウドの価値を最大化するロックインという選択

 クラウドサービスは強いベンダーロックイン構造を持っている。しかしそれにもかかわらず、多くの企業がクラウドを選び続けているのは、ロックインを受け入れる代わりに得られる価値が明確だからだ。

AWSの例

 Amazon Web Services(AWS)の運用基盤そのものがベンダー固有の設計に基づいて提供されている。インフラを使うだけでなく、監視、バックアップ、スケーリング、可用性確保といった領域まで、クラウド側の仕組みに委ねることになる。

それでも選ばれ続けている理由

 AWSは最大限活用する前提で利用されている。クラウド側の仕組みを前提にシステムを組むことで、情シスが個別に対応してきた運用作業や障害対応の負担が大きく減る。

 結果として、インフラ管理に割いていた時間を、改善や拡張に回せる。スケールや冗長化を「設計で悩む対象」ではなく「前提条件」として扱える点も、スピードと柔軟性を高めている。

 重要なのは、表層的に移すだけの利用と、価値を最大化する前提で設計する利用の違いだ。後者ではロックイン度合いは強くなるが、得られる価値も大きい。

情シスに求められるのは「説明できる構造」

 ベンダーロックインは、避けるか否かの問題ではない。情シスには、その状態を理解し、管理し、価値を最大化できているかが問われる。その構造を説明できるかどうかが、情シスの役割だ。

 そのための最初の一歩は、自社がどの前提に依存しているのかを言語化することにある。それができていれば、条件変更が起きても慌てる必要はない。それができていなければ、選択肢は最初から存在しない。ベンダーロックインとは、技術の問題ではない。判断と説明の問題である。

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