「取りあえずクラウド」のつけが回ってきた。膨れ上がる利用料とベンダーロックインのリスクが、企業のIT予算を圧迫している。AI関連の予算を確保し、企業がインフラの主導権を取り戻すための「脱クラウド戦略」を提示する。
かつてはITインフラの最適解としてもてはやされたクラウドサービスは、運用が長期化するにつれてデータ転送料金などの予測不可能な費用が膨らみ、隠れた費用が予算を圧迫するケースが相次いでいる。特に近年はAI(人工知能)技術の活用の大号令がかかっている状態だ。膨張し続ける既存インフラのクラウドサービス料金を放置したままでは、AIツールを導入するための予算を捻出することは難しい。
そこで今、あらためてITリーダーは「オンプレミス回帰」を含むITインフラ配置の再最適化に目を向けている。オンプレミス回帰は“過去への逆行”ではなく、肥大化した費用を削減し、自社システムのコントロールを取り戻すための戦略的な決断だ。本稿はオンプレミス回帰を正当化し、ハイブリッド戦略へとかじを切るための8つの論理的根拠を解説する。
クラウドサービスの利用料を削減したいと考えるITリーダーにとって、費用を抑えられる自社運用インフラは魅力的な選択肢だ。隠れて発生する料金を最小限に抑え、予測不可能なクラウドサービス関連の出費をなくそうとする中で、ITリーダーは非効率なワークロードを特定し、より費用対効果の高い選択肢を実現できるように戦略を調整している。
この取り組みでは、コンピューティングリソースの消費量とサービス品質のバランスを最適化するため、アプリケーションの配置場所を改めて検討する。オンプレミスインフラやプライベートクラウド、サービスとしての利用(as a Service)、コロケーションなどを活用したハイブリッドクラウドは、パブリッククラウドでは難しいきめ細かなシステム制御が可能だ。しかし、経営層やITリーダーがオンプレミス回帰を進めるためには、ハードウェアの初期費用や物理インフラの管理費用も考慮し、長期的な投資利益率(ROI)を確保しなければならない。
コンピューティングリソースの需要が安定しており、予測しやすいワークロードは、オンプレミスインフラで優れたパフォーマンスを発揮できる。一方で、データを大量に扱うワークロードをクラウドサービスで運用すると、膨大なデータ転送料金が発生する。クラウドサービスの利用料金には、本来、負荷変動に即座に適応できる拡張性のための料金が含まれている。そのため、コンピューティングリソースがほとんど増減しない安定したアプリケーションをクラウドサービスで運用し続けると、使わない機能に対して割高な料金を払うことになり、結果として無駄な投資を招いてしまう。
効果的なインフラ戦略では、以下の3つの指標に基づいてアプリケーションの配置を評価する。
コンピューティングリソースとストレージの需要が長期的に一定であれば、自社のオンプレミスインフラを利用することで、クラウドサービスの数分の一の費用で価値を引き出せる可能性がある。
強力なプライバシー保護と法規制の順守は、引き続き重要な基準だ。一部の業界の企業は、データ管理を強化し、パブリッククラウドのシステムでは到底及ばない水準のセキュリティを確保しようとしている。
金融、ヘルスケア、製造、電子商取引(EC:Eコマース)といった業界の企業は、自社が求める保護レベルをオンプレミスシステムでいかに実現できるかを重視している。例えばプライベートクラウドを活用すれば、システムを自社で主体的に管理できるだけではなく、自由なカスタマイズが可能になり、厳しいセキュリティ要件も確実に満たせるようになる。
AI(人工知能)技術への期待と、それに伴う巨額の投資は、経営層が「クラウドサービスにある全てのアプリケーションが本当に費用に見合っているのか」を再考するきっかけになった。結果として、企業はシステムの配置を再調整している。
AI技術に関する戦略において、企業は重要度の低いワークロードにはマネージドサービスを使用する一方、機密データの保持やAIモデルの学習には、自社専用のプライベートなコンピューティングリソースを割り当てる傾向にある。
特定のクラウドベンダーの独自技術に依存し過ぎるとベンダーロックインが発生し、企業の事業拡大を制限する要因になる。理想的なクラウドサービスの運用方針とは、企業が自社の管理下で、可能な限り多くのコンピューティングリソースとストレージの選択肢を持っている状態のことだ。
変化が激しい現代のIT分野において、クラウドサービスへの依存は財務上のリスクにもなり得る。ベンダーの都合でサービスが終了したり料金が改定されたりすれば、事業展開の途上でビジネスモデルの変更を余儀なくされ、競争力を失う危険性があるからだ。
企業はワークロードをオンプレミスインフラに戻すと同時に、自動化や標準化を取り入れ、パブリッククラウドのような俊敏性を自社システムで実現し始めている。この「オーケストレーション」(統合的な運用管理)の強化には、高度な運用チームと、IaaS(Infrastructure as a Service)やコンテナ技術の活用が欠かせない。これらをパブリッククラウドと連携させてハイブリッドクラウドを構築すれば、データやアプリケーションに対する管理権限を強化しながら、より低い費用でより良いパフォーマンスを引き出せる。
クラウドインフラを安全かつ効率的に管理するには、専門的な教育を受けた人材が不可欠だ。スキルが不足したままクラウドサービスを運用し続けると、設定ミスによる情報漏えいや、予期しない費用の増大を招き、事業継続を脅かす恐れがある。
このリスクを回避するため、管理者は「クラウドサービス運用のための人材育成や採用にかかる費用」と、「オンプレミスインフラを自社で維持、管理するための手間や人手」を精査し、現実的な判断を下している。場合によっては、社内で管理しやすいオンプレミスインフラの方が、トータルの人手や費用を抑えられるケースもあるからだ。
パブリッククラウドは世界中に分散している特性上、ネットワークの経路が複雑になり、わずかな遅延(レイテンシ)が発生することがある。リアルタイム性が極めて重要なシステムにおいて、このわずかな遅延は許容できない。
企業は、特に高い処理能力が求められる業務において、より応答性の高いサービス提供を取り戻すためにオンプレミス回帰を選択する。金融、医療、交通、製造など、一瞬のデータ処理の遅れが致命的となる分野において、このオンデマンドな応答性能の確保は死活問題だ。
データを大量に扱う企業にとって、全てのアプリケーションをクラウドサービスに依存することは、特に費用の面から現実的ではなくなりつつある。特にデータの転送手数料(エグレス料金)、オーバープロビジョニング(過剰なリソース割り当て)、ライセンス費用を考慮すると、ハイブリッドクラウドは非常に合理的な選択肢だと言える。
不正利用の監視やリアルタイム取引には、極めて高度な制御が必要だ。そのため、機密性の高い個人データは厳格な管理下にあるオンプレミスインフラで保持し、大量データの分析や異常検出にはパブリッククラウドの計算能力を活用するという使い分けが定着している。
病院などの医療機関も、金融業界と同様の運用モデルを採用している。画像解析やAI技術による病変検出にはパブリッククラウドのスケーラブルなコンピューティングリソースを活用しつつ、画像データは「HIPAA」(米国医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令)に準拠するためにオンプレミスインフラに保存する。
AI技術の導入が加速し、セキュリティとコンプライアンスに関する要求がますます厳しくなる中、ハイブリッドクラウドはITインフラを最適化するための有力なアプローチだ。当面の間、オンプレミス回帰の勢いが衰える気配はない。
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