住友商事が挑んだ「125拠点のデータ集約」の裏側 “既存ソフト”はなぜNG?独自要件をどうシステム化するか

拠点ごとに散在するデータは粒度がばらばらで、それらを扱うシステムにも特殊な要件が求められる――。住友商事は、この「情報の分断」「独自要件」を乗り越え、属人化の排除と業務標準化を実現した。その方法とは。

2026年04月01日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

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 総合商社の住友商事は、従業員の安全確保を経営課題に掲げている。同社は多角的なビジネスを展開しており、63の国と地域にある125拠点から報告される労働災害の内容は千差万別だ。しかし情報の粒度にばらつきがあり、過去のデータから教訓を引き出して共有することに多大な労力を要していた。適切な対処には専門知識が必要で、人材が限られていることも課題だった。

 こうした背景から住友商事は、日立ソリューションズが提供する情報共有システム「活文」を採用し、労災情報を一元管理するシステム「GENSAI」を構築した。2025年5月に運用を開始し、グローバルで統一された正確な記録を実現している。各担当者が定型化された項目から情報を入力する仕組みを実現することによって、過去事例の検索性が向上した。蓄積したノウハウの共有が進み、類似事故の再発防止につながる手応えを得ているという。

 労働安全という特殊な要件に対し、住友商事が既存のパッケージソフトウェアを選ばず、独自のシステム構築に踏み切った決め手は何だったのか。

基準がない労災管理の“限界”をどう乗り越えた?

 住友商事が新システムを構築した背景には、労働安全という特定の業務要件を満たす既存のソフトウェアやサービスが存在しなかった事情がある。システム選定において同社が重視したのは、「小さく生んで、大きく育てる」という開発方針だ。必要最小限の構成で早期に立ち上げ、現場ユーザーからのフィードバックを得ながら段階的に機能を拡張できる点が活文の採用理由だった。労働安全システムの構築という新たな挑戦に対し、開発陣が「ONE TEAM」として同じ情熱を持って取り組んだ姿勢も、採用を後押しした。

 GENSAIは、2025年5月に労災情報の入力や共有といった標準機能で稼働を開始した後、同年9月に独自のカスタマイズ機能を実装した。その中核となるのが「労災レベル自動判定機能」だ。

 労働災害の重度を示す指標は、国際的なマネジメント規格や各国の法律において明確な定義が存在せず、システム構築に当たって独自の基準を設ける必要があった。そこで住友商事はグループ独自の基準を設け、それをシステムの判定ロジックとして組み込んだ。これによって、高度な専門知識を持たない担当者や海外拠点のスタッフであっても、システムが入力情報を基に自動で重度を判定できるようにした。担当者の経験差による判断のぶれを抑えつつ、業務負荷を大幅に軽減する体制を実現した。

 グローバルでの情報共有を促進するため、システムの画面は日本語と英語で表示可能だ。従来、セキュリティの観点から労災データは国内イントラネット内の特定のフォルダに保存され、限られた担当者しかアクセスできない状態だった。新システムでは、情報漏えいを防ぎつつ、国内外から安全にアクセスできる情報共有の仕組みを確立した。直感的に操作できる設計を採用したことで、安全管理の未経験者でも確実に業務を実行できる。労災発生時のメール通知先を細かく設定できる機能も備えており、関係者への連絡や調整にかかる手間も省いている。

 住友商事の横田雅彦氏(災害・安全対策推進部 労働安全チーム長)によると、労働安全工学の分野では、労働災害が発生した場合、企業が負担する間接的な対処費用は、医療費などの直接費用の約4倍に上るとの見方がある。一元化されたデータベースを活用して類似事故を未然に防ぐことは、従業員の安全を守るだけではなく、こうした間接費用の削減にも結び付く。専門家に依存していた業務を標準化したことで、事故対応の工数削減と組織全体の生産性向上を同時に達成した。

 住友商事は今後、GENSAIに蓄積された過去の労災データを活用し、さらなる機能の高度化を計画している。具体的には、AI(人工知能)技術を用いて事故の根本的な原因を分析する機能などの開発に取り組み、グループ全体の労働安全衛生水準を継続的に引き上げる方針だ。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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