クラウド費用の最適化に取り組んでも、支出の約3割が無駄に消えている。現場の無自覚な浪費を放置すれば、IT予算は底をつく。この負の連鎖を断ち切る「FinOps」の実践アプローチを、5つの事例とともに紹介する。
ビジネススピードを加速させる目的で導入したはずのクラウドサービスが、IT予算を静かに、そして確実に蝕んでいる。クラウドツールの自動化は便利だが、その恩恵は「非効率なシステム」や「使われていないインフラ」をより迅速に拡張してしまう致命的なリスクと隣り合わせだ。
アプリケーション管理ツールベンダーFlexeraは2025年冬、世界中の753人のIT担当者および意思決定者を対象に調査を実施し、その結果を「2026 State of the Cloud Report」にまとめた。それによると、企業は効率化に取り組んでいるにもかかわらず、クラウド関連の支出のうち29%が無駄になっている。
クラウドサービスの支出と実際の利用実態を合致させ、無駄を削減する費用管理手法「FinOps」を取り入れることで、企業はクラウドの非効率な支出にまつわる課題を克服できる。FinOpsの主な目的は、全社的なワークフローを構築してクラウドの支出を利用状況に合致させ、無駄なコストを削減することだ。同時に、業務プロセスを合理化し、コスト削減やその他の有益な変化に向けた共通認識を形成するのにも役立つ。
コンサルティング企業Everest Groupでプラクティスディレクターを務めるタイタス・M氏は、常に20〜60%の費用削減を実現し、予測精度も向上させていると、その効果を強調する。費用対効果の意識を根付かせることで、意思決定も早めているという。正確なサービス価格の設定や投資利益率(ROI)の計算によって戦略的な優位性を確立し、迅速な予算や権限の割り当て、市場への素早い対応を実現する。
M氏によると、FinOpsの導入において費用の予測や文化の変革が定着し、一定の成熟度に達するまでには、12〜18カ月程度を要する。
企業がFinOpsの価値を見いだしている5つの事例を紹介しよう。
ブラジルのFinTech(金融とITの融合)企業Ouribankは、テクノロジーコンサルティング企業e-Core、クラウドベンダーAmazon Web Services(AWS)の協力を得て、FinOpsの戦略に注力した。取り組みを始めた当初、Ouribankの開発、運用、財務の各チームで費用の把握状況はばらばらだった。Ouribankは目先の費用削減を追うのではなく、業界団体FinOps Foundationの枠組みに沿って段階的な計画を立てた。この計画は専任の専門家が主導した。
手間をかけずにすぐに成果が出る施策を優先して、以下の多様な方法を実行した。
第2段階では、中期的なインフラの必要量を見極め、AWSの料金割引プランである「Savings Plans」と「Reserved Instances」を計画的に購入することに注力した。FinOpsプログラムを開始した2024年からの1年間(2025年3月時点での報告)で、以下の成果を挙げた。
「タグ付けのガバナンスは、部門ごとの費用負担(チャージバック)を適正化する土台となる。詳細なレベルで正確な費用の割り当てを実現できる」という。このように段階を踏んで進める手法では、現状を可視化してからチャージバックの運用が成熟するまでに、通常12〜18カ月を要する。
経営コンサルティング企業Kearneyのパートナーであるアイクット・ドゥマン氏は、米国の大手通信事業者と協力してFinOpsの導入を支援した。この取り組みでは、複数のクラウドサービスにまたがる費用の分析、割り当て、最適化に部門横断で注力した。この基礎づくりによって、同通信事業者は請求額、ワークロード、消費データの関連性を明確に把握できるようになった。
この取り組みでは、財務、IT、調達の各チームが協力して業務に当たった。クラウドサービスの支出を特定のワークロードや事業部門の責任者に割り当てる精度も高まった。クラウドベンダーの割引プランを利用してシステム規模を適正化するために、複数の担当者が連携して取り組むことが可能だ。ドゥマン氏によると、同社は費用の節約に加え、予算と実績の誤差を抑えることに成功した。
Kearneyのシニアパートナーであるフィリップ・ユング氏は、大手デジタルメディア企業と共同で開発者の行動変革に取り組んだ。手法はシンプルで、費用のデータを開発ワークフローに直接組み込み、活用を促す仕組みを作った。
ユング氏は「遅延や信頼性と同じように、費用をシステム開発における最重要の指標にすることを目指した」と語る。
この企業は、費用を可視化して対策を打てるようにしてから数カ月で、数百万ドルの節約を達成した。エンジニアリングチームが普段使うツールに費用のデータを表示させたことが、大きな転機になったという。開発者は作業用の画面を切り替えることなく、自社製品の効率化に優先して取り組めるようになった。
コンサルティング会社Protivitiのマネージングディレクターを務めるウィル・トーマス氏は、FinOpsツールを導入した顧客企業と共同で価値実証(PoV)を実施した。導入後すぐに、クラウドサービスの利用範囲にとどまらず、企業全体に潜む無駄を詳細に把握できるようになった。
「タグ付けの運用ルールを徹底すれば、不要なサービスを特定できる。全システムに共通の規則を定めれば、正確な費用報告が可能になる」とトーマス氏は話す。同氏の経験上、放置されたシステムの特定や、規模の適正化といった手順を改善するだけで、通常10〜30%の過剰な支出が明らかになる。これは、企業にとって迅速な費用削減のチャンスになる。
トーマス氏は、FinOpsが成熟するにつれて「効率的な業務フロー」という副次的な利点が見えてくると指摘する。財務、開発、事業の各部門が協力して初めて、FinOpsは真価を発揮する。IT部門や財務部門だけで完結させてしまうと、その効果は限定的だ。
「財務や開発が協力して取り組むことで、企業全体の運営が効率化し、経営陣も日々の経費を正確に把握できる」(トーマス氏)
成功の鍵は、明確な目標と責任を定めることにある。支出の削減目標や、ビジネスの最小単位ごとの費用対効果といったKPI(重要指標)を定義し、中間管理職に意思決定の権限を委ねる。これによって、クラウド関連の支出の費用対効果を経営陣に明確に提示できるようになる。
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