忙しいけど成果ゼロ 情シスの「静かな崩壊」を防げ会議と議事録に忙殺される「調整地獄」

コラボレーションツールが普及した結果、組織は「調整」に時間を取られるようになった。しかし、調整が成果につながらないというジレンマがある。業務を停滞させる「調整労働」を排除し成果につなげる策を解説する。

2026年04月24日 05時00分 公開
[James Alan MillerTechTarget]

 次から次へと続く会議、その後の振り返り会議、文字起こし、録音、AI(人工知能)による自動要約。全てが記録される「何も見逃せない環境」が整備されつつある。

 膨大なコミュニケーションの調整には、人的・技術的なリソースが必要だ。多くの組織では、断片的な情報をつなぎ合わせる作業により、終わりのない調整のループが発生する。1日中忙しく働いても、業務自体は一向に進まない。話し合い、記録し、フォローアップし、次から次へと連絡を取り合っているのに、肝心の意思決定が下されることはない。

 こうした状況が続くと、従業員は疲弊する。実行スピードは落ち、責任の所在はあいまいになり、ビジネスチャンスを逃すようになる。こうなると、コラボレーションは業務を助けるものではなくなり、むしろ、組織を失速させる重荷になる。本稿では、情報システム部門(情シス)が主導すべきガバナンスと、業務を停滞させる「調整労働」を排除し実行力を高める具体策を紹介する。

「調整労働」増加の理由は?

 調整労働が増加するのは、「会議が多過ぎる」からだけではない。カレンダーが埋まっているのは、ただの症状だ。

 根深い問題は、責任の不透明さ、意思決定権の弱さ、通信手段が多過ぎることにある。誰が決断し、誰が実行し、誰が業務を前に進めるべきか。その設計が崩れているといえる。

 警告のランプは、会議に費やした時間が成果物の提供を加速させていないときに灯る。本来必要な「実行」が、形ばかりの「状況確認」に取って代わられたとき、組織は権限ではなく調整だけで回るようになる。

 過剰なコラボレーションが誤解されやすい理由もここにある。経営層から見れば、活発な活動は健全に見える。従業員が会議に出席し、即座に返信し、議事録を共有し、絶えず連絡を取り合っている。その様子を見て、組織がうまく連携していると思い込んでしまうのだ。

 しかし、現場の内情は全く異なる。上層部には「熱意」に見える行動も、現場では構造的な欠陥を補うための「埋め合わせ」に過ぎない場合がある。

 「忙しさ」を「業務がまわっている」と見誤る傾向は、昔から組織に存在した。現在異なるのは、コミュニケーションとコラボレーションの手段が激増したことだ。文字起こしや自動要約などの膨大なデータが、活動の周囲にあふれている。数年前よりも時間や場所を問わず連携でき、会議から多くの情報を引き出せるようになった。そのメリットは確かにある。

 しかし、優先順位があいまいでプロセスが弱く、ツールがバラバラであれば、いくら熱心に取り組んでも期待した結果は得られない。それどころか、過剰なコラボレーションは防衛的な行動を助長し、燃え尽き症候群を引き起こす。

権限の欠如がチームワークを「調整労働」に変える

 ここで重要になるのが「決定権限」だ。問題の本質は会議の多さではない。会議の内容や決定事項、アクションアイテム、そして何より「決断そのもの」に対する責任の所在が不明確なことにある。

 決定権限とは、特定の状況で誰が決断し、誰が業務を前進させる責任を負い、議論が終わった後の結果に誰が責任を持つかを定めるものだ。これが不明確だと、組織はより多くのコミュニケーション、より多くの調整、そしてより多くのソフトウェアやワークフローを導入して補おうとする。その意味で、コラボレーションツールのスプロール(無秩序な拡大)は技術的な問題ではない。組織設計と計画の失敗が招いた結果なのだ。

 最大の間違いは、この過剰な負荷を「文化」の問題として扱うことだ。責任の所在があいまいなまま、従業員に「境界線を引きなさい」あるいは「自制しなさい」と説いても、解決にはならない。運用モデルで権限が最初から明確にされていなければ、過剰なコラボレーションがその隙間を埋めるだけだ。

 コラボレーションプラットフォームが、進捗(しんちょく)報告や承認、意思決定のデフォルトの経路になると、それはもはや単なる生産性ツールではない。組織のコスト、ワークフロー、実行力を左右する「運用インフラ」となる。

では、解決するには?

 では、コラボレーションが重荷に感じられるとき、何をすればいいのか。

 問題の解決策として示されているのは、「会議を減らす」ことではなく、組織の構造や意思決定の仕組みを見直すことだ。特に重要なのは、「誰が決めるのか」「誰が責任を持つのか」を明確にすることである。意思決定権限や責任範囲があいまいなままだと、組織は不足を埋めるために、さらに多くのコミュニケーションや調整作業に依存するようになる。

 そのため、組織として「所有権」「意思決定権限」「データガバナンス」「アーキテクチャ標準」「部門横断の説明責任」を明確に定義することが求められる。こうした土台を整備することで、組織内の断片化やコスト増大、運用の不安定化を防ぎやすくなる。

 また、コラボレーションが業務を遅らせ始めた場合は、単純に会議数を数えるのではなく、「誰が何を担当しているのか」「誰が最終的に意思決定するのか」「どのようなルールが存在するのか」「部門横断で責任が果たされているか」を点検する。さらに、従業員が複数のツールを行き来していないか、同じ作業が繰り返されていないか、意思決定が適切に記録されているかを確認する。

 加えて、コラボレーション基盤を単なる生産性向上ツールではなく、「業務運営を支えるインフラ」として扱う。組織設計やワークフローの問題を放置したままでは、どれだけ高度なツールを導入しても根本的な解決にはならない。

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