「AI PC」未導入はもはや少数派? 8割が計画を進める“自律型AI”への布石クラウドAIへの依存はもう限界

クラウド型AIサービスの遅延や情報漏えいリスク、費用増大が浮き彫りになっている。この課題を克服し、エージェント型AIに備えるために企業はAI PCの導入を進めている。なぜこれほど早く導入が進んでいるのか。

2026年05月09日 08時00分 公開
[TechTargetジャパン]

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 AI(人工知能)技術の業務活用が広がりを見せる中、企業は新たな課題に直面している。具体的には、クラウド型AIサービスに依存することによるデータ処理の遅延、機密情報漏えいのリスク、費用の増大といった問題が、企業を悩ませている。

 こうした課題を解消する有効な手段として、専用のプロセッサを搭載し、デバイス内でAI処理を実行できる「AI PC」がある。

 IDCが2026年4月に発表した調査レポート「The AI PC: Ready for Today's On-Device Workloads and Tomorrow's Agent-Centered Requirements」から、企業のAI PC導入が当初の想定を上回るスピードで進展していることが明らかになった。本調査は2026年2月にAMDのスポンサーシップのもとで実施され、PCの購買決定に関与する米国、日本、英国、フランス、ドイツのITおよびビジネスの意思決定者519人を対象としている。

 調査対象となった企業の8割はAI PCの導入に積極的な姿勢を示しており、先行して導入した企業はすでに定量的な効果を報告している。なぜ企業はこれほど急ピッチでエンドポイントの刷新を進めるのか。そこには、自律的に動作する「エージェント型AI」の本格的な到来に向けた周到な準備があった。

8割の企業が動く、AI PC導入の現実

 調査結果によると、回答者の81%がすでにAI PCを展開しているか、試験運用中、あるいは近い将来の導入を計画していると回答した。導入を後押しする最大の動機として挙げられたのは「生産性向上」(59%)であり、次いで「イノベーションと競争力強化」(39%)、「セキュリティ上の利点」(35%)が続く。

 特筆すべき点は、AI PCが企業の期待通りの効果を生み出している点だ。先行してAI PCを実務で活用している企業の70%が「パフォーマンス向上とレイテンシの低減」を実感しており、66%が「従業員の生産性向上」、58%が「データセキュリティの向上」の効果を得ていた。クラウドサービスにデータを送信することなく手元のデバイスで処理が完結する「オンデバイスAI」は、迅速かつ安全なデータ活用の仕組みとして評価されている。

現場の業務プロセスはどう変わるか

 AI PCは、限られた専門家のためだけではなく、幅広い部門の実務プロセスに変化をもたらしている。最も一般的に行われているオンデバイスAIのタスクは、「文書やプレゼンテーションの作成」(71%)、「AIモデルを使用したローカルデータやスプレッドシートの分析」(68%)、「会議の文字起こしや要約」(62%)といった、ナレッジワークの中核を成す日常的な作業だ。

 AI PC導入の波は全社に及んでいる。ガバナンスとセキュリティを管轄するIT部門(73%)での導入が先行しているのはもちろん、業務の効率化を求める運用およびサプライチェーン部門(42%)、マーケティング部門(38%)、人事部門(31%)での導入も本格化している。各部門の担当者が日々の煩雑なルーティン業務をAI PCに委ねることで、人間はより戦略的で創造的なタスクに集中できる環境が整いつつある。

エージェント型AI時代への布石

 本調査からは、企業が次なる技術的変革を鋭く見据え、戦略的に投資している事実が浮き彫りになった。それが「エージェント型AI」への適合だ。エージェント型AIとは、エンドユーザーがプロンプト(指示)を入力して応答を待つ受動的なシステムではなく、ユーザーが定めた目標に向けて自律的に意思決定し、タスクを計画・実行できるAIシステムを指す。

 調査対象の70%が、今後2年以内にエージェント型AIが従業員のワークロードに具体的な影響を与えると予測している。エージェント型AIがより自律的に動作し、業務の代行役となるシステム構成において、エンドポイントであるPCの役割は従来の「作業ツール」から大きく変貌を遂げる。クラウドサービスで動くAIエージェントを制御するための安全なインタフェースになると同時に、企業の機密データや従業員の個人情報を外部に出すことなく処理するための、ローカルなAI処理実行環境として機能することが求められるのだ。

NPUの真価と、企業インフラの最適解

 こうした高度な役割を担う上で不可欠な要件が、デバイスの処理能力の飛躍的な向上だ。回答者の59%が、次世代のAI体験を実現するために「高性能なNPU(ニューラル処理装置)」を最も重要な機能として挙げた。従来のGPU(グラフィックス処理装置)やCPUなどと比較してAI処理に特化し、少ない消費電力で動作するNPUは、デバイスの負荷を抑えながら、エンドユーザーの行動を常に学習し、状況に応じたAI処理をバックグラウンドで実行し続けるためのインフラとなる。

 一方で、企業がAI PCを全社規模で展開する上では、新たなハードウェアがもたらす管理の複雑化や、既存のIT管理ツールとの統合、データガバナンスの維持に課題を感じる声も存在している。こうした企業の懸念に対し、プロセッサ市場でもエンタープライズ要件を満たす製品の展開が進んでいる。「AMD Ryzen AI PRO」などに代表されるビジネス向けプロセッサは、NPUによるローカルAI処理能力の向上に加え、企業システムに必須となる強固なセキュリティ機能や、既存の管理ツールとの親和性を重視して設計されている。IT部門がこれまで築き上げてきた運用プロセスを大きく変えることなく、次世代のデバイスを展開できる環境が整いつつあるのだ。

エンドポイント戦略を再定義する

 ビジネスにおけるAI技術の普及は、企業にシステム構造の大きな変革を迫っている。2026年時点ではクラウドインフラに集中しているAIワークロードも、データ保護やリアルタイム性の要求が高まるにつれて、徐々にエンドポイントへと移行していくだろう。

 AI PCを導入することは、単に古いデバイスを新しいものに置き換える作業ではない。自律的なエージェント型AIが業務の中核を担う未来に向けて、従業員に最適なデバイスを提供し、企業全体の競争力を高めるための戦略的なインフラ投資だ。技術の進化を様子見し、変化をためらう企業は、AI技術がもたらす恩恵を十分に享受できず、加速度的に進化する市場において後れを取る可能性がある。今こそ、エンドポイントの価値を再定義し、次なる「AIの波」に備える時だ。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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