なぜ「SaaSは終わった」と言われるのか? ”人が操作する画面”が迎えた限界企業が直面するAI移行のジレンマ

SaaSを導入しても抜本的な業務効率化が進まず、現場は依然として手作業に疲弊している。「SaaS is Dead」という言葉が聞かれる中、AIツールを活用した新たな仕組みへの移行がなかなか進まない背景には何があるのか。

2026年05月14日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

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人工知能 | SaaS


 企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)をけん引し、人手不足解消の切り札として普及してきたSaaS(Software as a Service)だが、近年では「SaaS is Dead」(SaaSは終わった)という言葉を耳にするようになった。導入したものの期待したような抜本的な効率化につながっておらず、現場の業務負担が解消されていないという痛みが背景にある。

 操作ナビゲーションシステムを提供するテックタッチは、2026年4月9日から10日にかけて、従業員1000人以上の大企業における情報システム/DX推進担当者および責任者109人を対象に、SaaSの運用実態に関する調査を実施した。その結果、SaaSを導入しているにもかかわらず、「AI(人工知能)ツールなら自動化/効率化できるはずの作業」を依然として手動で実行している状況に対し、半数以上が明確な課題を感じていることが明らかになった。SaaSが単なる「人が操作するための画面」にとどまっており、業務プロセスそのものの進化に結び付いていない状況がうかがえる。

 SaaSに対するエンドユーザーの期待が変わりつつある中、なぜAI機能を前提とした新たな仕組みへの移行は一気に進まないのか。そこには、既存のシステム資産と新たな技術の間で揺れ動く、日本企業ならではの障壁が存在していた。

現場を疲弊させる「SaaSの手作業」

 調査の具体的な回答を見ると、SaaSでの手作業が残っていることへの課題は「データの集計、加工」(56.4%)や「定型的なレポート/報告書の作成」(50.9%)に集中している。SaaSを導入したことでデータ自体はクラウドサービス内に集まったものの、それを実務で使える形に整えるためには、結局のところ担当者がデータを出力し、手作業で加工しなければならないという現状がある。

 さらに深刻なのは、SaaSに蓄積されたデータを「十分に活用できている」と回答した割合がわずか3.7%にとどまったことだ。「ある程度は活用できている」(37.6%)を含めても半数に満たず、過半数の企業がデータの海を持て余している状況だ。

 現場担当者がこれからのツールに求めているのは、使いやすい画面設計への改善ではない。今後のSaaSに蓄積されたデータの活用において求めるものとして、「AI機能が異常値やリスクを自動検出してアラートを出してくれること」(43.9%)や、「AI機能がデータに基づいて次に取るべきアクションを提案してくれること」(41.5%)が上位を占めた。これは、エンドユーザーがSaaSに対して単なるデータの可視化や集計を超え、AI機能による「判断と実行の支援」という明確な便益を期待していることを示している。

立ちはだかる「乗り換えコスト」の壁

 しかし、そうした期待とは裏腹に、AI機能を前提とした新しいSaaSへの移行に対しては慎重な姿勢が目立つ。今後のSaaSへの投資や選定の方向性については、「既存のSaaSを生かしながらAI機能を追加/統合する」方向を重視する層(28.5%)と、「AI活用を前提に設計された新しいSaaSを取り入れていく」方向を重視する層(24.8%)がほぼ拮抗(きっこう)している。「どちらともいえない」という未決定層も31.2%に上った。

 既存SaaSの活用を重視する理由は、「システムの乗り換えにかかるコストや移行負担が大きいから」(54.8%)や、「既存SaaSに蓄積されたデータや設定をそのまま生かしたいから」(51.6%)といった現実的な制約によるものだ。

 一方で、新しいSaaSの導入を支持する層も、その理由として「AI機能前提で設計されたSaaSの方が操作性やパフォーマンスが優れると思うから」(48.1%)や、「AI機能の導入を機に、業務プロセスをゼロベースで見直したいから」(40.7%)を挙げており、構造的な問題意識を強く持っている。

「再定義」に向けた段階的なアプローチ

 現場の担当者からは、切実かつ冷静な声も上がっている。自由回答では、「既存のSaaSか、新たなAIツールかという二項対立ではなく、両者を適切に組み合わせて活用することが重要」と答えた上で、「適用する業務そのものが非効率な手順のままではどちらも使いこなすことは困難」だという本質的な指摘が寄せられた。「AIエージェントが自律的に動かすことを前提にSaaSを設計することが当たり前になると思う」といった、今後のツールの進化を見据える意見もあった。

 これらの結果から導き出されるのは、SaaSは決して「終わった」のではなく、AI時代の業務実行ツールとして再定義される段階に入っているという事実だ。今後12カ月の動きとして、「利用率の低いSaaSの解約、統合」(22.0%)や「AIネイティブなSaaSへの乗り換え」(18.3%)が検討されており、企業は既存資産の整理と新領域への投資を同時並行で進めようとしている。

 日本企業が今直面しているのは、単純なツールの置き換えではなく、業務の進め方そのものをどう再設計するかという根本的な課題だ。現場の痛みを起点に業務プロセスを棚卸しし、AI技術の力を最大限に引き出せる形へと体制を整えることが、これからの情報システム部門に求められる真の役割になる。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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