全システムのクラウド移行も進行中
目指すは“中古車販売のIKEA”、ガリバーがiPad miniとAWSで新店舗
ガリバーインターナショナルの「WOW!TOWN」は、プライスボードを掲げないユニークな中古車販売店舗だ。その接客スタイルを支えるのがiPad miniとAWSである。導入の経緯を担当者に聞く。
価格ありきではなく、顧客のライフスタイルに合った中古車を探してもらいたい――。ガリバーインターナショナルが2012年7月、こうしたコンセプトに基づいてオープンした中古車販売店が「WOW!TOWN」だ。WOW!TOWNの店舗運営や接客にはAppleのタブレット「iPad mini」を採用。併せてAmazon Web Servicesのクラウドサービス群「Amazon Web Services(AWS)」を利用し、システムの運用コスト削減やシステム開発の迅速化を図っている。
WOW!TOWNを支える端末やシステムについて、ガリバーインターナショナル ITチームの坂口直樹氏に話を聞いた。
iPad miniの活用シーン:中古車情報のQRコード読み取り端末として利用
2012年7月に千葉・幕張でオープンし、同年12月には埼玉・大宮と大阪・箕面(みのお)にも店舗を構えたWOW!TOWN。各店舗には70台ずつのiPad miniを導入済みであり、主に来場者への貸し出し用端末として利用している。
WOW!TOWNは、家族向けやドライブを楽しみたい人向けなど、5つのテーマごとにブースを分けて中古車を展示。中古車販売店でおなじみの、中古車のフロントガラスに掲示するプライスボードもなくすなど、その展示方法は従来の中古車販売店とは一線を画す。こうしたコンセプトを来場者に説明するためのシアタースペースも用意する。
来場者は、受付後にシアタースペースに移動して5分程度のコンセプト説明用動画を鑑賞する。その後、店舗スタッフから渡されたiPad miniにあるアンケートアプリケーションを利用し、10問のアンケートに回答。アプリケーションは、回答結果から5つのテーマのどれに関心がありそうかを分析してグラフを表示する(画面1)。来場者は、そこで興味がありそうだと診断されたブースを中心に、各ブースを自由に回る。
展示している中古車には、プライスボードの代わりにQRコードを掲示(写真1)。来場者がiPad miniの専用アプリを使ってQRコードを読み取ると、画面に価格や走行距離などの車両情報が表示される。ブースを一通り見終わった来場者は店内のカフェや商談スペースに移動。QRコードの取得履歴を基にスタッフが商談をする流れだ。
iPad mini導入の経緯:ユニークな接客スタイルの実現手段として採用
2011年春ごろから企画がスタートしたWOW!TOWN。ガリバーインターナショナルは、既に2010年には営業スタッフ1500人への「iPad」の導入を済ませている。ただしWOW!TOWNへのiPad miniの導入は、「当初から決まっていたことではない」と坂口氏は語る。同社がWOW!TOWNにiPad miniを導入したのは、「家具販売店の『IKEA』を参考に、ライフスタイルを提案できるような売り場にしたかった」という、従来の中古車販売店とは全く異なるコンセプトを実現するためだ。
価格ありきの中古車選びからの脱却図る
新しい売り場にするための象徴的な手段となったのが、プライスボードの撤廃だ。中古車販売店の“常識”ともいえるプライスボードの撤廃は、「重要な決断だった」と坂口氏は振り返る。それでも撤廃に踏み切ったのは、来場のハードルを下げるためだ。
従来の中古車販売店のスタイルを踏襲すると、来場者は「買わされるのではないか」と思って入りにくくなる可能性がある。「WOW!TOWNは、ふらっと気軽に来場してもらい、コンセプトを知ってもらって、新しいカーライフをイメージしてもらう場にしたいと考えた」と坂口氏は語る。
どの中古車を購入するかを「価格ありきで考えてほしくない」という思いも、プライスボードを掲載しないという判断を後押しした。「例えば、『高級ミニバンがすごく気に入った』と思っても、価格だけで最初から選択肢から外してしまう人もいるかもしれない。まずは、どういった車種が本当に自分に合うのかを探してもらいたい」
とはいえ、単にプライスボードを撤廃するだけでは、来場者が購入を検討するのに十分な情報を与えることはできない。WOW!TOWNの企画チームがプライスボードを出さずに中古車情報を提供するための手段を検討していた際、ITチームがQRコードの利用を提案。その読み取り手段として選定したのがiPadだった。ITチームには、今まで営業スタッフ用にiPadアプリケーションを開発してきた実績があったことが、その背景にある。その後、幕張店での導入を経て、現在はiPadよりも小型で軽量なiPad miniに切り替え済みだ。
セキュリティ確保の手段としては、既にiPadで利用していたアイキューブドシステムズのモバイルデバイス(MDM)製品「CLOMO MDM」を採用した。
iPad/iPad mini選定理由:セキュリティや操作性、実績を重視
実は、選定過程ではスマートフォンである「iPhone」を採用する考えもあったという。だが顧客が車両情報を見るために、相応の画面サイズが必要だと判断し、最終的にはタブレットを選定した。また、サイズが小さなスマートフォンだと、「顧客がポケットに入れたまま気付かずに持って帰ってしまう可能性がある」という懸念もあった。
タブレットと一口にいっても、iPadやiPad miniだけでなく、AndroidタブレットやWindows 8/8.1タブレットなどもある。だがAndroidは「セキュリティの観点からビジネス向きではない」と判断。Windows 8/8.1タブレットも「iPadと比べて業務利用の実績があまりない」という理由から選択肢から外した。
加えて、コンシューマーの場合、iPadやiPad miniと共通のOSである「iOS」を搭載するiPhoneユーザーが比較的多く、iOSの使い勝手に慣れている人が多いと判断したことも、iPad/iPad miniの採用を後押しした。
急激なiOSアップデートには懸念
とはいえ、「iOSのアップデートでは、Appleがいきなり大きな変更を加えてくることが少なくない」ことを課題だと捉えている。「Appleは基本的にコンシューマーベースなので、ビジネスユースを考えていない」。iOS 7へのアップデートは、「あまりにも見た目が変わってしまうし、店舗はあくまでも閲覧用であり、機能的にもアップデートする必要はない」と判断し、アップデートを保留している。
iPad mini向けアプリ開発:既存資産を生かし短期間で開発
QRコードにひも付けられた中古車情報は、ガリバーインターナショナルの中核システムである画像販売システム「ドルフィネット」から取得する。ドルフィネットは、同社が全国に保有する中古車在庫の情報を一括管理しており、WOW!TOWNに置く中古車もドルフィネットで管理する。WOW!TOWNには、各店舗の近隣販売店の駐車場にある在庫車両を入庫している。WOW!TOWNの場合のみ、入庫してきた中古車にQRコードを添付する作業が発生する。
WOW!TOWN向けに新規に開発したアプリケーションは、QRコード読み取り用アプリケーションと、アンケート/ライフスタイル診断用アプリケーションの2種類とそれほど多くはない。販売用アプリケーションは、既に既存の販売店で利用していたものを転用。「ほとんど既存のシステムやアプリケーション、データを使っている」という。
開発するアプリケーションを絞り込んだのは、開発時間の短さも背景にある。WOW!TOWNのプロジェクトが始まった2012年4月から幕張店オープンまで3、4カ月の間にアプリケーション開発を一通り済ませる必要があったからだ。開発ベンダーには、営業スタッフ向けiPad導入時にアプリケーション開発を担当した実績を評価し、アイキューブドシステムズに継続して依頼。基礎のアプリケーション資産を生かしつつ、アジャイル開発の手法を採用して幕張店オープンに間に合わせた。
開発したアプリケーションは、幕張店オープン当初は「顧客情報を登録してQRコードを読み取るという最小限のもの」だったが、現場の運用方法の変更などに伴って継続的に改修を実施している。
iPad mini用アプリケーションの開発ツールには、2010年のiPad導入時に導入したアイキューブドシステムズの「Yubizo Engine」を利用している。「JavaScriptとHTMLだけで開発できるので、仮にiPadやiPad mini以外の端末へ移行した際も再開発が容易」だと判断した。
AWSの採用:開発スピードアップに貢献
ガリバーインターナショナルは、WOW!TOWN用にとどまらず、iPad/iPad mini向けアプリケーションのバックエンドシステムの大半をAWSで稼働させている。ワークスタイル変革の手段としてクラウドサービスの導入を積極的に進めており、AWSの利用もその一環だ。WOW!TOWNオープン以前にも、新規アプリケーション用のバックエンドシステムを開発。「従来は物理サーバを購入してデータセンターに設置し、使えるようにするのに1カ月程度掛かっていたが、それが半日で済むようになる」などのメリットを実感してきたという。
2013年夏には、ドルフィネットに掲載する画像データの保管先もAWSのストレージサービス「Amazon S3」へ移行した。今までは社内の限られたインフラに画像を保存していたので、画像の解像度を640×480ピクセルに指定し、容量制限を設けていた。AWSへの移行に伴い容量制限をなくしたことで、「写真がきれいになり、車体に付いた傷もはっきり見えるようになるなどのメリットが出ている」。
ドルフィネットは現在、販売データを社内システムで保管し、画像データのみをAmazon S3に保管する形を取る。AWS関連の開発作業もアイキューブドシステムズの協力で進めた。
iPad mini/AWS導入効果:省力化と顧客価値向上を両立
既にWOW!TOWNは、来場のハードルを下げるといった当初の目的を達成できているという。「ツールを使うことで、営業スタッフが直接ヒアリングせずに来場者の好みが如実に分かる。商談の初期段階をツールで補完できている」。加えて、既存の他店舗と比べて購入単価が高くなるといった具体的な成果も出ているという。
WOW!TOWNでは、来場者にはiPad miniを使って自由にブースを回ってもらうことができるので、営業スタッフがずっと顧客に付いている必要がない。「人数が限られているので、対応できる頻度にも限界がある。来場者に楽しんでもらいつつ、代替できる部分は端末やアプリケーションを利用して省力化すれば、来場者にも当社にもメリットがある」。
現在、WOW!TOWNの各店舗にいるスタッフは7、8人程度。この人数で、1カ月当たり3000人前後という来場者の接客や、2週間で300台が入れ替わる中古車の展示作業などをこなす。顧客に価値を提供しつつ、省力化を進めて必要なスタッフを最小限にする――。ガリバーインターナショナルは、自社が定めたIT製品導入のこうした方向性を今後も継続するという。
今後の展開:“総クラウド化”で効率化を推進
ガリバーインターナショナルは、グループ全体で420~430店舗ある店舗数を、2018年2月までに800店舗にする計画だ。この計画に伴い、WOW!TOWNの新規出店も進める。既に2店舗の新規出店計画が動いており、2014年春にも新潟に新規出店するという。2018年2月までには、WOW!TOWNの総店舗数を10店舗にする計画である。
IT投資に目を向けると、ガリバーインターナショナルが目下取り組むのは、基幹システムを含む全ての社内システムのAWSへの移行だ。「データセンターの中にあるバックアップシステムや、OSが古くて移行できないなど特殊な要件がないシステムを除き、2013年末をめどに移行を完了する」計画だという。AWSへの移行により、インフラ運用負荷の軽減をさらに押し進める。
基幹システムなど一部のシステムは、AWSへの移行に伴い、現状のシステムが利用するOSやミドルウェアを、Windowsや「Microsoft SQL Server」からオープンソースソフトウェア(OSS)へ移行する計画もある。「Windowsには良いところはたくさんあるが、ライセンス料金の高さが懸念だ」
データ分析にも注力
WOW!TOWNで集約した顧客行動履歴や販売データなどを利用した分析システムへの投資も検討中だ。WOW!TOWNにどういった中古車を展示すべきかを決めるのは、現時点では担当者の勘や経験に頼っている部分が大きい。データ分析によって、この作業の精度を上げつつ負荷を減らす。
さらに、QRコードの撮影履歴と実際の販売実績を基に顧客の行動導線を分析し、WOW!TOWN内での中古車の最適な配置を導出することも検討する。「少人数で運用しているので、従業員の負荷を減らしつつ、来場者に最適な提案をできるようにしたい」。実際、幾つかのクラウドベースの分析システムを契約し、試行しているという。
こうしたIT投資の効果を生かしてWOW!TOWNの省力化と顧客価値向上を進め、“中古車の自動販売機”というコンセプトの早期実現を目指す。
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