事業推進の原動力として活用
「Surface Pro」「iPad」でVDIを構築した米病院の“モバイル推進”戦略
患者の診療記録やカルテの電子化が進む中、仮想化やモバイル化の目標はコスト削減にとどまらない。
新技術の導入に当たっては、多くの企業がコスト削減を目標とする。だが仮想化やモバイルアプリケーションへの移行については、それが必ずしも最大の要因になるとは限らない。
医療機関では「一貫性」「信頼性」「常時どこからでも重要なアプリケーションにアクセスできること」が、仮想デスクトップインフラストラクチャ(VDI)やモバイル化推進の最大級の原動力となる。このほど開かれた米VMwareの年次カンファレンス「VMworld 2015」では、「VMware Horizon」や「AirWatch」などのモバイル端末管理(MDM)ソフトウェアを使ってVDIと私物端末の業務利用(BYOD)制度を導入した病院の事例が紹介された。
病室などにキオスク端末を設置
米病院Beaufort Memorial Hospitalの最高情報責任者(CIO) 兼 情報サービス担当副社長、エド・リックス氏によると、職員があらゆる場所からあらゆる端末で職務をこなす妨げとなっていたハードウェアの障壁を取り除くため、同病院はまずVMwareのVDI環境へ移行した。
IT部門は、デスクを離れた職員が患者のケア用などのアプリケーションへのアクセスを必要とする病室などのエリアにキオスク端末を設置し、仮想デスクトップを導入した。
「重要なのは、(職員が)どこにいても全て同じルック&フィールを保つこと」だとリックス氏は指摘する。
一方、同病院はVDIに移行する際のコスト削減についてはそれほど気に留めなかった。事業推進の原動力として、人とそのプロセスの方に重点を置いたという。
「どうすれば看護や診療のプロセスを改善できるか、ユーザーがどこからでも必要な情報を確実に入手できるようになるかが重要だった」とリックス氏は話す。
VDIの一貫性
別の病院では、VDIによって一貫性を保ち、物理デスクトップ環境を一切排した管理システムの簡易化を実現した。
「かつて使っていたデスクトップ環境は混乱の元凶だった」。カリフォルニア州にある病院El Camino Hospitalの技術サービス担当ディレクター、ジェームズ・ブルメット氏は振り返る。「個々のマシンを全て管理しようとするのはまさに悪夢だった」
医師と看護師があらゆる端末で利用できる非常駐型の仮想デスクトップを導入することで、同病院はデスクトップ管理を一元化し、セキュリティを向上させた。1日が終わるとIT部門が毎日仮想デスクトップを全て消去して、翌日ユーザーが再びログインしたときにクリーンイメージを展開する。
従って、各デスクトップには新しいパッチが適用され、マルウェアは存在しない。「新しいデスクトップイメージを毎日配信すれば、ユーザーが不正なコンテンツをダウンロードしたり、アプリケーションを改ざんしたりすることも避けられるため、大きな助けになる」とブルメット氏は言う。
もう1つの利点として、El Camino病院のような非営利機関にとって、最新技術の導入はビジネスを呼び込み、他の同様の施設と競争する上での助けになる。これは病院へのVDIとモバイル導入におけるもう1つの大きな原動力でもある。病院内のどのデバイスでも素晴らしいユーザーエクスペリエンスが体感できることを顧問医師が知れば、El Caminoでの勤務を選んでもらえる公算も大きくなるとブルメット氏は指摘した。
「VDIはそうしたユーザーを引き付け、必要とする全てを与える手段をわれわれに提供してくれた」(同氏)
病院の内外でモバイル端末からアプリケーションにアクセスできるようにするため、両病院ともBYODと少数の病院支給端末にも対応している。
モバイアルアプリには成長の余地
医師などの病院職員にとって最大級のニーズは、電子カルテ(EMR)ソフトウェアへのアクセスにある。前出のBeaufort Memorial病院では、病院が支給するタブレット「Surface Pro」とユーザーが所有するAppleの「iPad」にEMRアプリを配信し、AirWatchでそうした端末を管理している。プロバイダーがHTML5に対応すれば、EMRシステムを更新する計画だ。
「これは真にモバイルを念頭に構築されている」とBeaufort Memorial病院のリックス氏。
しかし、「ヘルスケアソフトウェアのプロバイダーが必ずしもそうとは限らない」とEl Camino病院のブルメット氏は述べ、多くはアプリケーションのモバイル化に着手したばかりだと指摘した。
「この分野のソフトウェアのプロバイダーは、他の多くの業界に比べると大幅に遅れている。しかも大きな課題がある。米Medical Information Technology(MEDITECH)や米Epic SystemsなどのEMRプラットフォームをモバイル端末向けにダウンサイジングするのは難しい」(ブルメット氏)
こうしたシステムはPC向けに設計されていて、ボックスやドロップダウンメニューへの縮小化は簡単ではない。患者についての大量の情報を提供しなければならないこともあり、そうしたシステムをモバイル端末に対応させるのは困難だとブルメット氏は言う。
ネイティブの診療アプリも登場し始めているが、機能は限られている。特定の情報に関するニッチなニーズには対応できるかもしれないが、医師が必要とする患者の完全な記録にはまだ対応できないという。
ただ、デジタル画像処理ソフトウェアからレントゲンなどの画像を見るといった医師共通のニーズもある。El Camino病院はサードパーティーアプリを使ってモバイル端末でそれを実現している。病院にいない医師が看護師から患者の画像を受け取ったり、メモや音声メッセージで返信したりできるようにした。ブルメット氏によれば、それまでは看護師がコンピュータ画面に表示されたソフトウェアの写真を撮影し、その写真をメールで病院外の医師に送るという、原始的方法を取っていた。
両病院とも、仮想化とモバイル化により、デスクトップと各種端末上のアプリを横断する一貫したユーザーエクスペリエンスを提供している。
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