【事例】iPhoneで在宅医療を効率化する「桜新町アーバンクリニック」在宅専用の業務支援システムも活用

東京都世田谷区で在宅医療を展開する「桜新町アーバンクリニック」。iPhoneやクラウドサービスを積極的に取り入れ、在宅医療サービスの質の向上に不可欠なスタッフ間の情報共有を進めている。

2012年12月25日 08時00分 公開
[翁長 潤,TechTargetジャパン]

“ファミリードクター”をコンセプトに地域医療を支える

photo 桜新町アーバンクリニック

 2000年設立の「医療法人社団 プラタナス」(東京都世田谷区)は、地域の子どもから高齢者まで家族全員のかかりつけ医となる“ファミリードクター”をコンセプトに、世田谷区に「用賀アーバンクリニック」「桜新町アーバンクリニック」「松原アーバンクリニック」の3つの拠点を構える。通院が困難になり往診を希望する患者の声を受け、2003年から在宅医療に取り組んでいる。また、「鎌倉アーバンクリニック」(神奈川県鎌倉市)などと診療所間ネットワーク「プラタナス・ネットワーク」を運営し、東京都や神奈川県で在宅医療を展開。現在、グループ全体で施設患者2000人、一般の住宅患者300人を対象にした医師や看護師、医療/介護スタッフが連携するグループ診療を実施している。

 2005年に開院した桜新町アーバンクリニックは、内科や皮膚科、小児科、消化器内科などの一般外来、禁煙、物忘れなどの専門外来、在宅訪問診療を展開している。遠矢 純一郎氏が院長になった2009年に在宅医療部を設立し、在宅訪問診療を開始。現在、約130人の在宅患者をサポートする。

photo 桜新町アーバンクリニック院長 遠矢氏

 呼吸器科/神経内科医として病院勤務の経験がある遠矢氏は、「人は高齢になるほどさまざまな病気を抱える。病院の診療では、病気ごとに各診療科に見てもらう必要がある。高齢化が急速に進む中、病院よりも自宅の近くにいる医師が包括的にケアできることが求められる」と、在宅医療の重要性を語る。

 在宅医療では医師や看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなど多くのスタッフが患者をサポートする。患者への診療行為や介護スタッフのケア記録などを共有するため、多職種、多事業所の円滑な連携が欠かせない。しかし、患者情報を共有する際の難しさも指摘されている。桜新町アーバンクリニックでは、ITを活用してその課題解決に取り組んでいる。

在宅医療の情報共有にiPhoneを活用

 10年以上在宅医療に従事してきた遠矢氏は「従来の往診では電子カルテを搭載したノートPCを持ち歩き、現場でデータ通信カードをPCに挿してインターネットにアクセスしていた。しかし、持ち運びに不便で紛失や盗難のリスクがあった。また、携帯性に優れるPDAを試してみたが、診療現場でうまく活用できなかった」と語る。

 桜新町アーバンクリニックで在宅医療を開始する際、遠矢氏は発売されたばかりの「iPhone 3GS」に着目。「何ができるのか分からなかった」が、iPhoneを2台購入し、同クリニックの看護師 片山智栄氏とともにiPhoneアプリを活用してメールやファイルの送受信を開始した。遠矢氏は「“こんなことができれば”と考えていた機能を実現するアプリが既にあった。少しずつインストールして使い始めた」と当時を振り返る。

 遠矢氏が業務利用するiPhoneには、500種類以上のアプリがインストールされている。桜新町アーバンクリニックの在宅医療部では、医療関連アプリだけではなく、汎用的なアプリを組み合わせている。例えば、電子カルテの情報を閲覧する専用ビュワーを利用したり、「Googleカレンダー」でスタッフのスケジュールを共有したりしている。

photo 実際の診療現場で使っているiPhone

 また、移動中にボイスレコーダーに診療記録を録音してそのデータをメールで転送し、事務スタッフがその音声を起こして電子カルテに反映している。さらに、床ずれなどの画像を撮影してクラウドストレージ「Dropbox」に保存したり、医学文献の情報検索や薬品の在庫・発注管理などに利用(関連記事:クラウドストレージへの不安を払拭した医療機関の活用例)。その他、iPadを用いて患者やその家族に病状や治療方法などを動画で説明している。「院外にいてもデータの同期がスムーズにでき、多くのスタッフ間でリアルタイムな情報共有が可能になった」(遠矢氏)

 App StoreにはiPad/iPhone用の医療関連アプリケーションが4000種類以上登録されている。遠矢氏は「最近は自分が必要なアプリを探すのに手間が掛かるほど。また、多くのアプリを組み合わせて使うため、手順が複雑になっている。今後はアプリの独自開発にも挑戦したい」と語る。

多職種連携の課題を解消する地域連携支援システム

 遠矢氏は「在宅医療では、患者の日常ケアを行う訪問看護師、ヘルパーなどのスタッフとの情報連携が重要。ただ、医療/介護連携、いわゆる地域医療連携の情報共有には幾つか課題がある」と説明する。患者宅の連絡ノートで診断や処置の内容を共有したり、他の施設への連絡には電話/FAXを使うことが多い。しかし、この方法では患者宅でしか情報を確認できなかったり、重複記録の手間や情報の統一性に欠けることがある。その課題解決策として、桜新町アーバンクリニックではクラウド型地域情報連携基盤「EIR」を導入している。

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