寝たきりの患者に多く発症する「褥瘡」。高齢社会を迎えた日本では、その発症数が増加している。その診療の効率化を目的として、現場の医師自らが考案したiOS用アプリがある。
高齢社会を迎えた日本では、寝たきりの高齢者が2025年には230万人に達し、そのうちの5〜10人に1人の割合で褥瘡が発症すると推定されている。現在、多くの病院で医師や看護師などの医療スタッフが連携する対策チームを設置し、褥瘡予防や治療に取り組んでいる。今回は、そうした褥瘡診療の効率化を支援するiPhone/iPod対応アプリ「褥瘡ナビ」を独立行政法人国立病院機構 高知病院の活用事例と合わせて紹介する。
褥瘡の適切な管理には、病変の状態を正しく評価する必要がある。日本褥瘡学会は2002年、褥瘡を客観的に評価するツールとして「DESIGN」を策定した。DESIGNでは、「深さ」「滲出液」「皮膚損傷範囲の大きさ」「肉芽組織」など7つの項目を評価する。
さらに日本褥瘡学会は2008年、褥瘡の重症度の予測妥当性を持つ「DESIGN-R」を公表。DESIGN-Rでは評価項目の点数が重み付けされ、「深さ」以外の全ての項目の点数を合計した評価点数(総点)を算出するようになった。そのため、褥瘡ナビを考案した高知病院 皮膚科医師 三好 研氏は「点数表なしで総点を算出することは不可能。DESIGN-Rによる評価は、必ずしも全ての施設で行われていなかったのが現状だ」と指摘する。褥瘡診療に長年携わってきた三好氏自身も「DESIGN-Rの有用性は認めているが、総点の算出が面倒だ」と考えていたという。
褥瘡回診では、まずデジタルカメラで病変部を撮影し、皮膚損傷範囲の長径と短径を測定する。その後、DESIGN-Rの評価用紙を見ながら各項目を評価。評価用紙に記入して各項目の点数を合計して総点を算出した後、ようやく処置を行う。この運用では「回診時にカルテとデジタルカメラを持ち歩くことになり荷物になる。また病変部の撮影から処置までの時間が長くなり、患者に負担をかけてしまう」(三好氏)。さらに、褥瘡患者が多い介護療養型医療施設ではDESIGN-Rの評価だけでもかなりの時間が割かれてしまうという。
この現状を踏まえて、三好氏は「DESIGN-Rによる褥瘡評価を効率化するアプリを開発することで、医療スタッフや患者の負荷軽減を図るとともに、DESIGN-R自体の普及も進むのではと考えた」と開発経緯を語る。Android用ではなくiPhone/iPod touchアプリとした理由については、「操作性が優れている」「情報漏えいの原因となる不正なアプリが存在しない」「通信費がかからないiPod touchでも同じアプリが利用できる」点などを考慮したという。
三好氏はトライテックと共に2011年8月からアプリ開発に着手し、2012年2月にApp Storeでのダウンロードを開始した。画面レイアウトなどのユーザーインタフェース(UI)と患者グループ分類のアルゴリズムを三好氏が設計し、プログラム開発をトライテックが担当した。三好氏は、抗生剤の略語から一般名と商品名の素早い検索を可能にするiPhoneアプリ「抗生剤略語検索」もApp Storeで公開している。
褥瘡ナビの機能は「患者管理」「褥瘡評価」の2つに大別される。褥瘡ナビを起動すると患者リスト画面が表示される。
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