キャッシュレス社会に突き進む北欧諸国の光と影キャッシュレス先進国の現実

キャッシュレス先進国として知られるスウェーデンやノルウェーなどの北欧諸国。彼らはさらなるキャッシュレス化を目指しているが、国内には反対する人々もいる。

2018年02月12日 08時00分 公開
[Computer Weekly]

 北欧諸国は、キャッシュレス社会を目指すという共通の野望の最前線に立っている。

 サンフランシスコ連邦準備銀行が42の経済圏で最近行った調査によると、現金使用の増加は全ての国で国内総生産(GDP)の伸び率と一致するかこれを上回るという。ただし、スウェーデンとノルウェーは例外だ。

 金融システム変革ではデジタル化の急速な進化が続いており、それに伴い消費者の支出動向も変化している。これは世界的な傾向だが、北欧地域ではこの動きが特に迅速だ。

 「MobilePay」「Vipps」「Lunar Way」「Swish」「iZettle」などのモバイル決済アプリの使用増加は、北欧諸国の経済に新たな局面を開く勢いを増している。

 北欧諸国には、商品やサービスを決済する際の標準形態として現金の使用を段階的に廃止するという共通の長期目標がある。政府、税務当局、銀行、主要業界は、現金を時代遅れと見なすようになっている。

 スウェーデンでは、本稿執筆時点での現金取引は20%に満たない。これはノルウェーでも同じだ。1660年に欧州で初めて銀行券を発行したのがスウェーデンのストックホルム銀行(訳注)であることを考えると、これは皮肉な話だ。

訳注:現スウェーデン国立銀行(スウェーデンの中央銀行)。

 スウェーデン王カール10世グスタフ(在位:1654年〜1660年)は、1657年にスウェーデン最初の銀行を設立するライセンスをオランダの投資家ヨハン・パルムストルック氏に与えた。これが、スウェーデンの重くて扱いにくい銅貨に代わるKreditivsedlar(信用紙幣)の発行へとつながった。

 当時画期的だったKreditivsedlarの発行と、Swish、Vipps、MobilePay、iZettleといったモバイル決済テクノロジーの人気の高まりとの間には印象が重なる部分がある。どちらの動きも、社会のニーズの変化と、商品やサービスの洗練された決済方法の進化を反映している。

 ただし、キャッシュレス決済への急速な移行や完全な移行を全ての国民が望んでいるわけではないことは、政府機関も認識している。その上で、現金から追跡可能なキャッシュカードやモバイル決済へと切り替えていくことをサポートしている。

 現金は、あらゆる国の「灰色」経済に力を与える。政府機関はこうした灰色経済への課税や統制に苦慮している。主要経済とは異なり、灰色経済の活動は国民総生産(GNP)やGDPには含まれない。北欧諸国のGDPの8〜12%に相当する灰色経済はキャッシュレス社会での生き残りに奮闘することになるだろう。

 だが、現金は社会の機能や消費経済において減少方向にあるものの、その役割を果たし続けている。そのため、近いうちに消滅するとは考えられない。

 現金を完全に排除する根本的な複雑さを考えると、銀行券の消滅には時間がかかるだろう。だが、ノルウェー保守系のエルナ・ソルベルグ首相は、このプロセスを早急に進めるよう提案している。

 ノルウェー中央銀行は、キャッシュレスという目標は中期的には野心的過ぎると見ている。事実、同行が2017年11月に100クローネ紙幣と200クローネ紙幣を新たに発行したことは、ノルウェーの「cash is king」(現金は王様)を掲げる人々を喜ばせた。この動きは、モバイル決済方式とオンライン決済方式のみを国民に強いる完全なキャッシュレス社会という考え方に反対する国家的組織に歓迎された。

 スウェーデンでは、スウェーデン王立工科大学による調査が行われ、同国内の販売業者の66%が2030年までに正当な決済方法として現金の受け取りを中止する予定であることが分かった。同大学で調査アナリストを務めるニクラス・アルビドション氏は次のように話している。「現金の受け取りを拒否する動きが急速に進んでいる。銀行にとって、現金の扱いにはコストがかかる。人々や店舗が要求しなければ現金は存在しなくなるだろう」

 北欧の金融サービスがキャッシュレス社会に向かう動きは、大手国内銀行がメインストリートの支店を次々と閉鎖した2010年以降に勢いを増した。キャッシュレス支店の出現が「新たな標準」になる。メインストリートの支店では窓口や窓口係の行員が減り、セルフサービスのATMが設置された。

 キャッシュレス支店への電光石火の転換は、多くの支店の閉鎖と相まって、北欧の多くの小さな町で、コミュニティー内に銀行が1つもない状況を生み出した。

 多くのコミュニティーがこの状況に適応しようと奮闘しているが、銀行は集団的な取り組みを推し進め、費用効率の高いセルフサービスのモバイルオンラインプラットフォームに顧客を移行している。銀行は、特に地方の支店ネットワークを縮小したことで、世間の印象を大きく損なった。

 その一例が、フィンランドのラップランドにあるキルピスヤルビ小学校だ。同校の管理者は、現金取引をロヴァニエミの支店に一元化するというノルディア銀行の決定によって郊外学習の資金が失われたと同銀行を非難した。




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