ERP NOW!【第2回】
2011年は「クラウドERP」元年になる
2011年は「クラウドERP」の元年になるでしょう。各社が製品を相次ぎ発表し、ユーザー企業の注目を集めています。今回は企業のERP導入に大きな影響を与えつつあるクラウドERPのトレンドを紹介します。
クラウドERPとはその名の通り、クラウドコンピューティング上で稼働するERPパッケージを指します。これまでWebメールやグループウェア、CRMなど特定のアプリケーションに限られてきたクラウド上のサービスが、徐々にその範囲を拡大し、企業における基幹システムであるERPも対象となってきました。企業内におけるERPへのIT投資の比率は高く、また業務プロセスの依存度も高いだけに、クラウドERPの動向は企業のIT戦略に大きな影響を与えます。
クラウドコンピューティングのメリットはさまざまなところで語られています。ハードウェアを用意せずにアプリケーションをサービスとして利用でき初期投資を削減できる、ソフトウェアライセンスを資産として所有せず月額料金でアプリケーションを利用できる、クラウド上の1つのアプリケーションをネットワークにつながったどこからでも利用できるなどが代表的なメリットです。
通常、ERPパッケージを導入するにはハードウェアなどの初期投資はもちろん、業務分析やフィット&ギャップ、カスタマイズ、テストなどを行う必要があり、最短でも数カ月の導入期間とコストが掛かります。しかし、クラウドERPでは極端に言えば、ログインのIDとパスワードさえあれば使い始めることができます。また既にテストされた業務プロセスやワークフロー、機能がそろっているので、バグなどを心配することなく使うことができます。
クラウドERP、3つの提供形態
クラウドERPの提供形態は大きく分けて3つあります。1つが用意されたアプリケーションやIT環境を複数のユーザー企業で共有して利用するパブリッククラウド。SaaSともいわれる形態で、短い導入期間、低価格で利用できるサービスが大半です。一方で、ユーザー企業ごとのカスタマイズは制限されます。業種別のテンプレートなどが用意されるケースもありますが、それでも必要になるカスタマイズをどう考えるかは課題です。
もう1つはプライベートクラウドです。ユーザー企業が占有するデータセンターにERPパッケージを導入して利用する形態で、仮想化技術を使ってサーバリソースの柔軟な割り当てやサービス開発の迅速さ、グループ企業が持つERPの統合などを実現します。ただ、プライベートクラウドはハードウェアやライセンスなどをユーザー企業が保有する場合、従来の社内設置型のERPと比較して、大きなコスト削減効果は期待できません。プライベートクラウドを選ぶ場合、ユーザー企業はどのようなメリットを得られるかをしっかりと確認する必要があるでしょう。
3つ目はパブリックとプライベートのハイブリッド型です。基幹システムはプライベートクラウドで運用し、一時的に必要になる処理や外部変化の影響を受ける業務、海外子会社からのアクセスについては、パブリッククラウドのERPを利用するなど、両者のメリットを組み合わせた運用が考えられます。
SAP、オラクルが本腰
2011年に予想されるクラウドERPの動きで注目されるのは、SAPの本格参入です。SAPは大企業向けERPで高いシェアを持ち、中堅・中小企業向けでも拡販を続けています。SAPは2010年にクラウドERP「SAP Business ByDesign」の最新版2.5を発表。日本でも2011年以降に本格投入されるとみられています。
ByDesignは中堅・中小企業向けのクラウドERPで、SAPは現状で3つのスターターパックを用意しています。そのうちの1つ、「ERP Starter Package」は会計機能を提供するパッケージで、導入費用は3万7500ドル。1ユーザー当たりの月額料金は149ドルなどとなっています。パブリッククラウドの中で個別のユーザーごとに仮想的にリソースを割り当てるシングルテナント、複数のユーザーでリソースを共有するマルチテナントのどちらでも運用が可能。国内での提供形態は不明ですが、パートナー企業のデータセンターにホストして運用する形態や、プライベートクラウド型の提供も考えられます。
また、大企業向けERPでSAPと競合するオラクルも2011年にクラウドERPに本格参入する可能性があります。同社はERPパッケージ「Oracle E-Business Suite」を持っていますが、新しいERPパッケージ「Oracle Fusion Applications」を2011年以降に提供開始予定です。Fusion Applicationsは顧客が持つベストプラクティスを基にオラクルが一から開発したERPで、財務管理、購買調達、人材管理など7つの製品ファミリーに合計で100以上のモジュールを用意します。特徴は従来の社内設置型だけでなく、プライベートクラウド、パブリッククラウドでの利用が可能なこと。これらの利用形態を組み合わせるハイブリッドな運用も可能で、ユーザー企業にとっては選択肢が広がります。
さらに国産系のERPではエス・エス・ジェイの「SuperStream」や住商情報システムの「ProActive E2」、インフォコムの「GRANDIT」など、主要な中堅・中小企業向けERPで自社、もしくはパートナーによるクラウド展開が始まっています。外資系のクラウドERP「NetSuite」も拡販を続けています。
フルメニューをそろえるSIer
システムインテグレーター(SIer)もクラウド関連のサービス提供を始めました。NTTデータは「BizXaaS」の名称で、プライベートクラウドの構築サービスと、アプリケーションやプラットフォームを提供するパブリッククラウド型サービスの2つを提供しています。後者の「クラウドプラットフォームサービス」では、NTTデータ ビズインテグラルのERP「Biz∫」をラインアップにそろえています。
また、NTTデータは中堅・中小企業向けERPパッケージ「SAP Business All-in-One」を月額料金で提供する新サービス「INERPIA」(イナーピア)の提供も予定しています(参考記事:SAPをSaaSで、NTTデータが中堅・中小企業向けに月額料金で提供)。INERPIAの月額料金は1ユーザーライセンスで1万9800円(税別、150ユーザーで利用の場合)。初期費用は、会計、生産、購買・在庫、販売の標準テンプレートを利用する場合で1460万円(税別)です。従来の導入と比較して、初期費用で半減、運用保守費用は20~30%の削減ができるとしています。
NECは自社の基幹システムをSAP ERPで再構築していて、その基盤としてクラウドコンピューティングを採用しています。自社クラウドの構築で蓄積したノウハウを顧客にも提供する考えで、ERP関連では既に同社のERPパッケージ「EXPLANNER」のパブリッククラウドでの提供を始めています。富士通もクラウド関連のサービスに力を入れていて、プライベートクラウドの構築サービスや、パブリッククラウドのサービスをラインアップしています。パブリッククラウドでは中堅・中小向けに会計機能をサービスとして提供する「GLOVIA smart きらら」を用意しています。大手のSIerはプライベートクラウドからパブリッククラウドまでフルラインアップでサービスをそろえているのが特徴です。
コスト削減策としてのクラウドERP
ユーザー企業が考えるERPの最大の課題はコストです(参考記事:不満を持ちながらERPを使うユーザー企業にどう応えるか)。ユーザー企業はERPコストを下げるために、より小さな規模を対象にしたERPを選択する傾向も見られます(参考記事:より小規模向けERPへと向かう中堅・中小企業、その先を解説する)。
コスト削減を求める企業は2011年、クラウドERPを真剣に検討し始めるでしょう。クラウドERPは上記のように製品ラインアップがそろってきましたし、SIerのサポートメニューも拡充してきました。従来、導入や運用に数千万円から数億円のコストが掛かっていたERPが、パブリッククラウドを使ったクラウドERPでは場合によっては月額数万円で利用できてしまいます。企業は大きなコスト削減効果を期待できます。一方、ERPベンダーやSIerにとってクラウドERPへの参入は収入の減少を招く可能性がありますが、クラウドERPの流れを止めることは難しいでしょう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社うるる] 「入札市場」攻略ガイド:効率的に落札するためのポイントを徹底解説 -
製品資料
[株式会社うるる] 入札情報に特化した「販路拡大」「効率化」のためのサポートツールとは? -
市場調査・トレンド
[株式会社うるる] 公共入札に成功する企業と失敗する企業の「5つの違い」 -
製品資料
[日本ビジネスシステムズ株式会社] 専門家が教える、Microsoft 365の「テナント統合/分離」を成功に導く秘訣 -
製品資料
[rakumo株式会社] Microsoft 365での情報埋没を防ぐ、社内ナレッジを資産化する情報ポータル活用
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
2
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
3
「Windows」の不要なファイルを安全に消して容量を空ける方法
-
4
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
5
「Microsoft 365」が乗っ取られる MFAを破る“本物の画面”の恐怖
-
6
生成AIが普及しても「技術書」を手放せないエンジニアの本音
-
7
OpenAIやAnthropicでさえ制御不能 2026年夏「3大サイバー攻撃」の衝撃
-
8
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
9
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
-
10
「IT運用・情報システム業務」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
3
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
4
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
5
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
6
SASE選定は「見極め力」で大きな差――本当に必要な製品を選ぶための6つの視点
-
7
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
8
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
-
9
AI駆動開発のスピードと安全性を両立 「品質・セキュリティ管理」の実践ガイド
-
10
「標的型攻撃メール」事例・サンプル集
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー