全業種の中でもIT投資意欲や利益変動が低い中小の建設業。とはいえ、その業務の特殊性から複雑、高度なシステム処理が求められるため、潜在的なIT活用の促進が見込めるのだ。
本連載では中堅・中小企業のIT活用を業種という観点からふかんしている。第2回は建設業について取り上げる。まずは、建設業という業種の概要とITとの関係を眺めてみることにしよう。
【第1回】攻めの中小製造業が「ハイブリッド生産管理システム」に積極投資する理由
【第2回】見積/原価管理の効率化に向かう中小建設業のIT事情
【第3回】小売業の取り組みに学ぶスマートフォン/タブレット端末の活用法
本稿での建設業とは「建築や土木といった建設工事を外部発注や自己作業によって実施し、その完成を請け負う事業所」を指す。建設業の業務について第一に挙げられる特徴は、かかわる企業が多種多様である点だ。施工作業を発注する工務店や資材提供会社はもちろん、ある程度の規模を持った工事であれば、複数の建設業者が「共同企業体」を形成して受注するということもある。そのため、受発注処理はもちろん、会計処理においても複数企業にまたがった処理が必要となる(いわゆる「JV会計」)。また、家屋を一軒建てる際に必要となる資材も実にさまざまだ。それだけに見積作成作業の負担は大きくなる。さらに、作業進ちょくは天候などによって左右される。原価管理ではこうした外的要因も考慮に入れる必要がある。
このように、建設業の業務には複雑で高度な情報システム処理が要求される。一方、建設業には作業現場で施工を実施する「現場部門」と各種管理業務を実施する「管理部門」がある(一般にはこれに加えて「営業部門」を持つケースが多い)。インターネットが手軽に扱えるようになるまでは、作業現場とオフィスとの間の情報共有が難しかった。ほかの業種では有効であったLAN内に閉じたソリューションも、建設業にはそのまま適用することができないケースが少なくない。こうした過去の経緯もあり、中堅・中小企業の中で、建設業は比較的IT活用の普及が緩やかに進んでいる業種の1つとなっている。
モバイル環境でのインターネット利用が手軽になり、携帯性・操作性の良いノートPCなどの端末が普及したこともあって、昨今では上記のような過去の課題も解消されている。また、国土交通省が公共事業の入札/納品において定めているCALS/EC(Continuous Acquisition and Life-cycle Support/Electronic Commerce)への対応も事実上必須であるため、電子入札/電子納品への取り組みも進んできた。このように他業種と比べて若干遅れていた経緯はあるものの、今後も潜在的に新規IT活用の促進を見込める業種が建設業なのである。
では、そうした建設業の業績やIT投資の状況はどうなっているのだろうか? 以下のグラフは、年商500億円未満の建設業に対して「IT投資DI」「経常利益DI」(※)を尋ねた結果の遷移をプロットしたものである。
※IT投資DIは、今四半期以降のIT投資予算額が前四半期と比べてどれだけ増減するかを尋ね、「増える」と「減る」の差によって算出した「IT投資意欲指数」。経常利益DIは、四半期ごとに前回調査時点と今回調査時点を比較した場合の経常利益変化を尋ね、「増えた」と「減った」の差によって算出した「経常利益増減指数」。
いずれのDI値も2009年からマイナスの状態が続いており、マイナス20前後を推移しつつ、時折落ち込みを見せるという厳しい状態が続いている。2010年11月時点では建設業の経常利益DIは全業種中で最も低く、IT投資DIも小売業に次いで2番目に低い。企業規模や業種によっては業績改善を見込むものもあるが、中堅・中小の建設業に関しては改善の兆しはまだ見えていないと言わざるを得ないだろう。
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