知ってるつもり? IP電話AtoZ(4)
IP電話の“生命線”、呼制御とQoSとは?
データと同じIPネットワークを利用するIP電話間の通話には、音声を正しく伝え、品質を一定に保つための仕組みが必要になる。今回はIP電話のキモとなるSIPなどの呼制御プロトコルとQoSを説明する。
今回は、通話の手順を決める「呼制御プロトコル」と、音声品質を保つための技術「QoS」について解説する。
キーワード解説(1) 呼制御プロトコル
呼制御プロトコルとは、電話をかけたり通話の終了後に電話を切ったりといったIP電話端末の制御や、IP-PBX間の接続をするためのプロトコル(通信規約)である。一般的には、SIP(Session Initiation Protocol)やH.323が使用される。さらに、ゲートウェイを制御するプロトコルとしてMGCP(Media Gateway Control Protocol)が使われる場合もある。
また、音声をIP化する場合には、符号化方式としてG.711・G.722・G.729などの音声プロトコルが使われ、それぞれ帯域、音質、品質保持の面で特徴を持っている。ビデオにも同様にさまざまな符号化方式があり、H.261・H.263・H.264などが利用される。
技術トレンド
従来、呼制御によく使われるプロトコルはH.323である。サーバを必要としない構成が可能なため、ビデオ端末やゲートウェイなどで採用された。しかしH.323は、プロトコルの構造が複雑で実装が難しいため、現在はビデオも含めて実装が容易なSIPが使われるようになっている。ただしSIPは、H.323と違いサーバを必要とし、またゲートウェイ用にはMGCPが呼制御装置間で使われていることもある。SIP・H.323共にメーカーで独自に拡張している場合があるので、複数メーカー間を接続する際は事前の動作確認が必要になる。
一方、音声プロトコルについては、構内・外線通話において音質に優れるG.711が使われている。また、音声データをWAN経由で伝送する場合は、音質は落ちるが低帯域で済むG.729が使われることが多い。しかし最近では、IP電話端末の高機能化により複雑なプロトコルが扱えるようになり、G.711・G.729以外のプロトコルも使われるようになった。
例えばG.722は、G.711と同じ帯域で広い周波数をサポートしている。G.711は8kHzの周波数を利用しているが、G.722はより広い周波数の16kHzまで扱えるため、端末側で高音から低音まで広い音域を再現することが可能だ。その他、高品質のビデオ会議に使用されるAAC-LD(低遅延AAC)のようなプロトコル(音声コーデック)もある。さらに昨今では、新興国のネットワーク、インターネット、無線などの損失や遅延を前提としたネットワークでIP電話が使用される機会も増えてきたため、損失や遅延に強いiLBCやiSACをサポートする端末が増えてきている。ちなみにiLBCとiSACはSkypeにも採用されている。
| プロトコル | 音質 | 帯域 | 特徴 | |
|---|---|---|---|---|
| スーパーワイドバンド | AAC-LD | 48kHz | 64kbps | CD並みの音質 |
| ワイドバンド | G.722 | 16kHz | 64kbps | 音質が良い |
| G.722.1 | 16kHz | 32kbps | ||
| iSAC | 16kHz | 10-32kbps | 損失、遅延に強い | |
| ナローバンド | G.711 | 8kHz | 64kbps | 標準的に使用される |
| G.729 | 8kHz | 8kbps | 帯域が狭い | |
| iLBC | 8kHz | 16kbps | 損失、遅延に強い |
ビデオプロトコルは、画像の符号化方式として、H.261・H.263・H.264が使われている。その他ビデオ接続の場合には、画素数を表すQCIF・CIF・4CIFがあり、帯域も音声のように固定ではなく複数から選択される。ビデオプロトコルはH.261→H.263→H.264の順に開発されたため、数字が増えるほど低帯域で高画質の提供が可能になっているが、同時に、端末に求められる能力も高くなっている。H.264については、H.264/AVC(Advanced Video Coding)が標準となっているが、H.264/SVC(Scalable Video Coding)やH.264/AVC High Profileなどの新しいプロトコルも出てきた。
このようにビデオは音声と違って、符号化方式に加えて画素数と帯域が重要な要素となる。昨今ではテレビと同様にHD品質の画像が主流となっているため、ビデオプロトコルでは、少ない帯域で高品質の画像を伝送可能なH.264が主に使用されている。また、一部の端末ではH.264/SVC、H.264/AVC High Profileのサポートが開始されており、より少ない帯域で高品質なビデオ通話が可能となった。今後端末の高機能化に伴って、さらに高品質な画像を低帯域で伝送することが可能なプロトコルが開発されていくとみられる。
キーワード解説(2) QoS・CAC
音声品質を保つための仕組みとして、QoSとCACがある。QoSはネットワーク上で音声/ビデオを優先制御する仕組みだ。また、CACはIP電話側で通話数を絞ることで音声品質を確保する仕組みである。QoSは「Quality of Service」、CACは「Call Admission Control」の略であり、ネットワーク機器での音声品質の確保についてはQoS、電話機側での音質確保についてはCAC、ということになる。
技術トレンド
通常、ネットワークは階層構造で成り立っており、上位に行くほど機器が集約されていく。その集約ポイントでは必ず帯域が狭められている。例えば100Mbps×24ポートのスイッチが上位スイッチに1Gbpsのアップリンクで接続される場合、全てのポートを100Mbpsで利用した場合の総帯域は24×100M=2400M=2.4Gbps必要となるが、実際の接続スピードは1Gbpsとなる。このギャップを埋めるために、ネットワーク機器は待ち行列で遅延を入れてパケットを順番に送出し、一定量以上に達するとランダムに破棄する仕組みなどが実装されている。しかしながら、この仕組みに音声が引っ掛かると、音声パケットの破棄や遅延が生じてしまう。これを防ぐための仕組みがQoSだ。
IP電話端末は、一定期間ごとに音声パケットを相手に向けてネットワークに送出している。このとき、ネットワーク機器が音声データを認識して、最優先で上位に向けて送出すれば、遅延や破棄の問題は生じない。そのため、IP電話が接続されたネットワーク機器は、音声パケットを受け取ると、まずそこに含まれるパケットの優先処理に関わる識別情報を読み取る。そして、この情報を基にして、上位スイッチへ排出するパケットの優先順位を決めるのだ。こうして音質が保たれるわけだが、優先的に送出したとしても1Mbpsの回線に10Mbpsの音声トラフィックを通すことはできない。そのため、音声の呼量を絞る必要がある。このための仕組みがCACとなる。CACで拠点間の呼量を制限することにより、必要以上の呼が確立されるのを防げるようになる。
導入と運用
社内の無線ネットワークで音声を通す場合は、注意が必要だ。無線LANではフロア全体に電波を行き渡らせるため、「複数のアンテナ=アクセスポイント(AP)」を設置する。APの配下に複数の端末が接続されるため、配下の端末数が多いと音質に影響が出る。そこで、何台の端末が配下に置かれるかを考えながらシステムを設計する必要がある。また、隣り合うAP同士もチャンネルが重なると干渉してしまう。このため、隣り合うAPは別々のチャンネルを使用する必要がある。
さらに、社内の無線環境を整えたとしても、外来波による干渉が起こる可能性がある。同一ビル内の他社からも思いがけない電波が来るし、ビルの外から入るトラック無線に影響を受ける場合もある。この他、電波がビルの壁の素材に吸収されるなどの環境依存があるため、事前の調査が重要だ。また、いくら事前調査をしていても、同一ビルで別会社がAPを突然設置するような環境変化の可能性もあるので、定期的な調査も欠かせない。このように、音質の品質を保つためにはさまざまな考慮事項がある。
荒牧大樹
ネットワンシステムズ 営業推進本部
2001年よりIP電話機構築にかかわる。国内の大手金融や製造系の大規模なUCネットワーク構築において、先端UC技術をいち早く取り入れてきた。メーカー以外の企業のエンジニアとして、UC技術の最高資格である「CCIE Voice」を国内で初めて取得。現在はネットワンシステムズにてUC製品の先端技術サポートを行っている。
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