事例で学ぶBI活用のアイデア【第1回】
現場のBI利用で経営スピードを加速した外食産業事例
個別システムからのデータ取得の迅速化を目的に導入したBIツール。現場利用が進むにつれ、当初の目的以上の効果を生み出した。現場から生まれたBI利用のアイデアとは?
多様化するBIの利用用途、事例からアイデアをもらおう
「BI(Business Intelligence)ツールは高価で難しい」「なかなか使いこなせない」という話をよく聞く。そもそも「Business Intelligence」という言葉自体の意味も難解だ。また、他の業務パッケージとは異なり、機能と業務とを関連付けてイメージすることが難しいため、「何ができるのかが分かりにくい」というのもその理由の1つだろう。
一方で、アイデア次第でさまざまな使い方ができるのもBIの特徴だ。薬で表現するなら万能薬であり、それはまさに「ビジネスのための道具」である。どのように使うかは、使う人次第ということだ。
BIツールの使い方を知るには、道具をよく知るという方法もあるが、他の企業がどのように使っているのか、どのような効果を上げているのかという具体的な事例から学ぶ方法がある。事例を通じて、自社、あるいは自分の業務に置き換えてイメージできれば、BIツールの具体的な活用方法が明確になり、導入しただけで利用されないということは起きないはずだ。後は導入するBIツールを道具として本当に自分が使いこなせるか、あるいは他の社員も使いこなせるようにできるかが重要だ。これらのポイントをクリアできれば、成功しにくいといわれているBIツールの導入は絶対に成功すると筆者は断言できる。
その一歩として、本連載ではBIツールの導入事例を1つずつ紹介する。「BIツールを導入してデータ活用がうまくいっている」というようなしゃくし定規な事例ではなく、まさに「ビジネスの道具」としてBIツールが使われている業務現場での活用事例をできる限り具体的に紹介していく。現場ではわれわれBIベンダーが想像もできないような使い方が実際にされている。筆者自身もユーザーから生の声を聞くたびにその使い方に驚かされる。現場のアイデア満載の事例を紹介する本連載を通じて、業務担当者や情報システム部門担当者が自社におけるBI活用のアイデアを生み出すことができれば幸いである。
スピード経営を実現するためのデータ活用事例
事例企業プロファイル
業種
- 飲食店舗を展開する外食産業
企業規模・業種内容の参考データ
- 社員数約550人
- 直営・フランチャイズチェーン合わせて1200店舗を運営
- 注文明細単位で月間1900万件の売り上げデータを蓄積している
スピード経営をモットーとして日々オペレーションの進化を図るとともに、現場に権限を持たせることで、アルバイト店員までもが経営者視点で店舗運営に当たっている点がこの企業の大きな特徴だ。そうした中、経営戦略本部や商品開発部、企画推進部といった本部の事業部門には、直営店、フランチャイズチェーン店の経営指導や店舗のさらなる活性化、また新しい業態開発を進めるための、現場の売り上げ・発注データ、勤怠データを基にしたデータ分析が大きな役割となっている。
データ取得の高速化と新規帳票導入の効率化を目指す
同社は、外食産業向けASPサービスの業務システムを積極的に採用してきた。しかし、売り上げ管理システム、発注管理システム、勤怠管理システムがそれぞれ独立して存在しており、データ分析を行うにはそれぞれのシステムから詳細データをCSV形式で手元のPCへダウンロードする必要があった。
売り上げデータだけで月間1900万件(注文明細単位)にも上ったため、ダウンロードに時間がかかる。また、システムごとにデータの取得手法が異なるため、肝心のデータ分析に入る以前に相当の時間を費やしていた。実際、多大な残業を余儀なくされることもあったという。
一方、店舗の実績データは既存システムの定型帳票で用意していたが、別の分析軸でデータを見たい場合は、情報システム部門にデータの抽出依頼を出さなければならない。そうして作成した帳票を新しい定型帳票として導入するには、別途開発コストが掛かっていた。ここで手間取っていたのでは、アクションを起こすための時間が削られてしまう。
そこで、情報システム部門が陣頭指揮を取り、データソース側のデータベースを刷新するのを機に、データ分析環境の全面見直しを行うことになった。
過去の失敗を生かして考えたBIツールの要件
早くからデータ分析を行う重要性、それも自由分析の重要性に気づいていた同社は、過去に外資系ベンダーのOLAPシステムを導入した経験がある。市場での実績と機能の豊富さで選択したのだが、結果的にはうまく定着しなかった。今回は過去の反省を加味して、以下の6点をデータ分析環境構築の必須要件として掲げた。
- 高速性:月間1900万件のデータをストレスなく処理、加工できること
- 簡単さ:データ分析担当者が“これなら使えそう” という印象を持て、自由分析を直観的に行える操作性
- インストール不要:将来、店舗に展開することになっても負荷が掛からないシステム構成
- コスト:導入コストのみならず、システムインテグレーションや運用コストも含めたトータルコストが安価に収まること
- 設計:汎用的なデータベースでさまざまなデータ抽出が可能であること
- 運用管理:日々の運用管理に大きな負荷が掛からないこと
新環境が本部全体のデータ分析を促進
新しいデータ分析環境では、店舗側で登録した売り上げ・発注・勤怠データは分析専用のデータベースに格納され、ここで月単位のテーブルで一元管理している。本部の一般的なユーザー約200人は新しいBIツールを利用した定型リポートを使い、経営幹部を含む自由分析を行うパワーユーザー約20人はOLAPツールでというように、詳細データを統一のアプリケーションで閲覧・加工できるようになった。また、データビューに関しても、担当者が自らの発想で自由に選択できるよう多彩な項目を用意するなど、汎用的に使える工夫が施されている。
新システムは当初、既存の定型帳票システムの補完という位置付けだったが、利用が定着するにつれ、定型帳票の作成もBIツールで行うユーザーが増えた。また、定型帳票に現場の担当者が自分なりの味付けを加えて、それを自分の定型帳票として利用する場面も多いようだ。
当初の目的以上に広がったBIツールの利用用途
データ分析が容易になり迅速にアクションを起こせる体制が確立し、同社の本部部門におけるデータ分析業務は大きく変わった。
まず、自由分析担当者のために用意される月間1900万件の店舗別粗利集計が非常に速く表示できるようになり、すぐさま詳細な分析に取り掛かれるようになった。また、一般的なユーザーに関しても、各部門のキーパーソン1人に1時間程度の説明を行うだけで利用をスタートでき、情報システム部門に質問や問い合わせが来なくなった。
システム的にも順調に安定稼働を続けており、エンドユーザーに対して必要なデータを遅滞なく提供できる環境が整備されたと同時に、個別のデータ抽出依頼が激減、運用管理に掛かる人的コストはほぼゼロになった。
筆者が驚いたのは、もともとデータ取得の高速化を目的に導入されたBIツールの用途が、同社独自のアイデアで広がりを見せていることだ。例えば、新メニュー開発のための実績調査や、投入した新メニューの売れ行き把握、促物配布やキャンペーン展開と売り上げとの相関関係、また顧客が最初に注文した時間で見る店舗のピーク時把握などに利用されている。これらは本部の現場ユーザーが利用しているからこそ、生まれたアイデアといえるだろう。
さらにはまったく新しい業態ブランドを開発する際にも、詳細データは大きなヒントになる。新システム導入によって、データ分析にかけられる時間は従来の2倍になり、アクションを起こすまでの時間を大幅に短縮できた。このようなデータ分析環境の進化が、各部門の日々のアクションを迅速化させているのだ。
これまでは現場の生データの提供に注力してきたが、今後は要望の高い年間売り上げデータなどサマリーデータの提供も検討している。本部での利用が完全に定着して評価が高ければ、将来的には店舗に対してこのデータ分析環境を提供する可能性もあるという。
今回は、積極的なデータ活用を現場が行うことにより、本当のスピード経営を実践できるようになった外食産業企業の事例を紹介した。BIツールは使いようによって万能の効果を企業にもたらす。「データからさらなる発展の種を探し出すこと」を可能にした典型的な事例といえるのではないだろうか。
小島 薫
ウイングアーク テクノロジーズ株式会社
営業本部 製品戦略部 部長
石川県出身 1959年生まれ。製造業でのシステム構築、経営企画などに従事した後に、独立系パッケージベンダーに入社。汎用機からオープンシステムまでの基幹系データベースを中心に、データウェアハウス(DWH)、XML関連のサポート、プリセールス、コンサルティング、マーケティングを経験。2005年にウイングアーク テクノロジーズに入社し、技術本部長を経て、現在製品戦略部 部長。
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