仮想化市場のVMware優位を揺るがす同盟軍が急成長「Microsoft以外なら何でも」の二の舞?

KVMの普及を促すOpen Virtualization Alliance(OVA)が急成長している。その視野に仮想化大手のVMwareが入っていることは明らかだ。

2011年08月03日 09時00分 公開
[Beth Pariseau,TechTarget]

 Open Virtualization Alliance(OVA)が急成長している。しかしVMware ESXを抑えてKVM(Kernel-based Virtual Machine)の普及を促すためには、マーケティング業界団体だけでは不十分だとLinuxユーザーは言う(参考:VMware、仮想化の機能競争でMicrosoft、Citrix、Red Hatを依然リード)。

 5月に発足したOVAの目標は、KVMの普及を促すことであって、米VMwareを追い落とすことではないというのが公の立場だ。しかし仮想化大手のVMwareがOVAの視野に入っていることは明らかだ。

 「VMwareが提供する現行の仮想化技術はよく知られており、満足度も高い」と解説するのは、米Red Hatのクラウド事業部ゼネラルマネジャーでOVAの代表委員を務めるスコット・クレンショウ氏。「OVAの目的は、VMware ESXと同じレベルの周知を図り、オープンソースコミュニティーが提供する仮想化技術を理解してもらうことにある」と話す。

 OVAは米BMC Software、米Eucalyptus Systems、米Hewlett-Packard(HP)、米IBM、米Intel、Red Hat、米Novellの面々が創設メンバーとなり、過去数週間で65社以上がOVAに新規加盟した。

 KVMはこの支援体制を利用できるかもしれない。米IDCの最新市場調査によると、VMwareは過去2年の間、売り上げベースで市場シェアの80%前後、販売数ベースでほぼ50%を確保していた。一方、KVMの市場シェアは小さ過ぎてIDCのリポートには出てこない。クレンショウ氏も、Red HatのKVMにおける現時点での採用状況について数値を公表することは避けたが、OVAの成長は需要増大を物語るものだとの見方を示した。

 OVAが説くKVMのメリットには、SPECvirtのベンチマークテスト結果、サービス品質機能の搭載、SELinux(Security-Enhanced Linux)をベースとしたsVirtセキュリティユーティリティなどがある。クレンショウ氏によると、同ユーティリティでは悪意のあるプロセスを封じ込め、1つの仮想マシン(VM)に対する攻撃の拡大を難しくするという。

 業界関係者の間では、同アライアンスによる宣伝は役に立つとの見方もある。

 IDCのアナリスト、ギャリー・チェン氏は言う。「KVMの市場シェアは実際に上昇の一途だ。同アライアンスは真にそれを支えている様子であり、確実にKVMの助けとなるだろう。さらに、現代の仮想化にとって欠かせないエコシステムを構築する一助ともなる」

 過去1年の間に、企業のIT部門でマルチハイパーバイザーの導入が増えていることもさまざまな形で実証されている。

 ただし、2011年のRed Hat Summitに参加したKVMの推進者でさえも、KVMを実際の環境に導入するのは、特に組織が別のハイパーバイザーで既に標準化している場合、依然として難しいと指摘した。Linuxを運用するユーザーからは、OVAがハイパーバイザーの移行を促す意思があるのかどうか疑問視する声が出ている。

本流に逆らうことをためらうユーザー

 インターネットサービスプロバイダーEATELの上級IP管理者、デュアン・ワイリー氏によると、同社のIT部門では推定70のVMのうち約75%でLinuxディストリビューションのCentOSを利用しているが、ハイパーバーザーはVMware vSphere 4.1を使い続けているという。その一因として、VMwareが市場首位の座にあること、市場での寿命が長いことを挙げた。

 過去の経験も判断材料になったとワイリー氏は言う。「われわれはSPARCハードウェアを使って全てをSolarisで運用していたが、業界がLinuxまたはWindowsを搭載したx86ハードウェアへと移行する中、追い詰められる状況に陥った。Solarisで実行できるアプリケーションはどんどん減っていった」

 そこで同社はx86とLinuxに切り替えることを決め、「IT企業の大多数が特定の方向に向かうと見れば、より多くの選択肢を確保するため、われわれもその領域にとどまるという立場を保とうと努めてきた」と同氏は話す。

 Peak Web Hostingの創設者、ジェフリー・パーペン氏はオープンソースのXenを支持するが、ミッションクリティカルな仮想化アプリケーションを運用する顧客はVMwareにこだわる傾向があると指摘する。「問題は、一種の意識にある。業界団体を作ったからといって、いきなりユーザーに企業向けだと感じさせたり、『自分の職をここに賭けよう』と思わせたりすることはできない」

 パーペン氏の考えでは、オープンでかつアライアンスとしてのスタンスを取れば「独占的リーダーとしてのVMwareの地位を固めさせる」ことになる。例えばクレジットカード詐欺の検出を専門とするある顧客の場合、コスト削減は望んでも、VMwareの仮想化を見限ることは問題外だという。「(顧客は)企業を必要としている。(事を誤れば)失職し、株価が地に落ちる相手であってほしいと思っており、それでこそ『これはわれわれが支援した組織であり、その理由はここにある』といえる。(OVAが)『アライアンス』『オープン』の姿勢を取ることにより、VMwareは確実に恩恵を受けている」(パーペン氏)

VMware以外なら何でも?

 IT業界で市場首位の企業を狙い撃ちにする団体の立ち上げは、今に始まったことではない。90年代には電子メール市場における米Microsoftの独占状態に対抗するため、Novell、米Lotus、IBMの後押しでできた「Vendor Independent Messaging」など、「Microsoft以外なら何でも」という取り組みが幾つもあった。同じような顔ぶれの各社は、Microsoft Object Linking and Embeddingに対抗するため、複合文書規格のOpenDocを推進していた。

 Red Hat自身も初期のころには「UnitedLinux」というベンダーの業界団体と対峙していた。こうした組織はいずれも、Microsoftの技術の普及を妨げたり、Linux業界におけるRed Hatの独占状態を揺るがすことはほとんどできなかった。こうした前例から、OVAの前途を悲観する向きもある。

 Server and StorageIO Groupの創設者で上級アドバイザーのグレッグ・シュルツ氏は、「(OVAは)UnitedLinuxなど、過去にあった同様のテーマのデジャブを見ているようだ」と話す。

 Wikibon.orgのアナリスト、ステュ・ミニマン氏は電子メールで次のような意見を寄せた。「私は一般的に、アライアンス組織に対しては懐疑的だ。大抵が大した実態もなく、『より大きな善』よりも政治目標の方を重視する宣伝騒ぎの団体にすぎない。同団体には新しい規格もAPIもないところを見ると、VMwareとMicrosoft(Hyper-V)の代替としてKVMソリューションを宣伝することが主眼のようだ。もちろん、大手(特にHP、IBM、Intel)の大部分はVMwareおよびMicrosoftの両社との関係も深く、(この団体が)どれだけのことを達成できるかは疑問だ」

 一方でミニマン氏は、OVAはある程度の善をなすこともできるかもしれないとも見る。オープンソース技術が活気づく中(その証として同氏はHadoopの成長を挙げている)、同アライアンスが資金と注目およびマーケティング力を得て、KVMソリューションの成熟を後押しすることになれば望ましいという。

 Red Hatのクレンショウ氏は、OVAがUnitedLinuxと同じような色彩を帯びているという見方を否定する。

 「OVAは(オープンソースの)開発プロセスを変えようとしているわけではない。従って(OVAの)アプローチは、過去にLinuxのさまざまな標準化を試みたアプローチとは完全に異なる」(クレンショウ氏)

 「Microsoft以外なら何でも」のアプローチとの比較については、Microsoft製品は今でもユビキタスな存在ではあるが、Linuxもエンタープライズに確固たる足場を築いたと同氏。IDCの統計によれば、現在、物理サーバの約22%はLinuxベースのOSを搭載しているという。Linuxはミッションクリティカルなアプリケーションのためのサーバ運用に使われる傾向がある。

 「それを目標とするのも悪くない。KVMの普及率がLinuxの普及率よりも大幅に高くてはいけないという理由はない」と同氏は話している。

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