ハイパーバイザーでVMwareへ対抗姿勢を鮮明にするRed Hat。RHEV 3.0次期アップデート版では、ストレージ機能の強化とスケーラビリティ向上でVMwareを追撃する。
米Microsoftが仮想化管理ソフトウェアのライセンス体系変更を発表した翌日の2012年1月18日、米Red Hatも仮想化基盤ソフトウェア新製品の一般提供開始を発表した(関連記事:ライセンスが簡素化された「System Center 2012」、VMwareに対する優位性は?)。両社はライバルである米VMwareへの対抗姿勢を鮮明にしている。こうしたベンダー間競争の激化は、サーバ仮想化の有力な選択肢の増加につながり、IT担当者に恩恵をもたらしそうだ(関連記事:仮想化管理、2012年のキーワードはマルチハイパーバイザー対応)。
Red Hatは、仮想化基盤ソフトウェアの新版「Red Hat Enterprise Virtualization(RHEV)3.0」の一般提供開始を発表した。RHEV 3.0はスケーラビリティが向上しているものの、その度合いは期待されたほどではなかった(参考:比較表で徹底解明! 各サーバ仮想化製品の特徴と違い)。だが同社は、2012年に開発を進めるRHEVの次期アップデート版の詳細も明らかにした。このアップデート版ではストレージサポートが強化される見込みだ。
RHEVは、管理ソフトウェアの「Red Hat Enterprise Virtualization Manager」(RHEV-M)と、ハイパーバイザーの「Red Hat Enterprise Virtualization Hypervisor」(RHEV-H)で構成されている。
RHEV-Mの次期アップデート版で計画されている機能は、Red Hatが最大のライバルのVMware追撃に本腰を入れていることを示している。
例えば、次期アップデート版ではストレージに重点が置かれている。ディスクのホットプラグおよびホットアンプラグや、ファイルシステムを静止できるゲストエージェントから仮想マシン(VM)のライブスナップショットを作成する機能など、基本的な機能が提供される他、ゲストおよびホストのストレージサイズを動的に変更する機能や、ストレージのライブマイグレーション機能の提供も予定されている。
さらに、次期アップデート版では、VMが複数のストレージドメインやストレージプールのディスクを使用することも可能になる。「この機能は、階層型ストレージを持っている場合には特に重要だ」と、Red Hatのプロダクトマネジャー、アンドルー・キャスロー氏は語る。
これに対し、米Ganart Technologiesのインフラディレクターを務めるライアン・マレー氏は、この機能はどのようなストレージを使っていても重要だと語る。「今のところ、1つの仮想システムは1つのストレージドメインにしか接続できない。このため、あるストレージドメインの容量を使い切ったら、別のストレージドメインに移行しなければならない。接続している以外のドメインのディスクを追加することはできないからだ」
次期アップデート版では、特定のVMと関連付けられていない“フローティング”ディスクを利用できる機能に加え、オープンソースのGlusterFSや、米IBMのGPFSといった代替共有ファイルシステムのサポートといった新しいストレージ機能も追加される。
一方、次期アップデート版には、新しいネットワーキング機能も搭載される。例えば、管理、ストレージ、VMのトラフィックごとに異なるネットワークを指定できる機能や、Cisco UCS(Unified Commputing System)のUIサポート、NICのホットプラグとホットアンプラグなどだ。
また、次期アップデート版では、Windowsが完全に不要になる。Internet Explorer(IE)を使わなくてもアクセスできる純粋にWebベースの管理者ポータル「Web Admin」がフルにサポートされるからだ。
RHEV-Hの次期アップデート版は、「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)6.3」ベースとなり、パフォーマンスとスケーラビリティが向上する他、新機能も提供する。
2012年1月18日にリリースされたRHEV 3.0では、スケーラビリティが以前の情報とは異なっていた。2011年8月のβ版リリース時点では、Red Hatはゲスト当たり最大64個の仮想CPUと2TバイトのRAMをサポートするとしていた。だが正式版では、RAMの上限は512Gバイトとなっている。
2Tバイトをサポートしていれば、RHEVがサポートするRAMの量は「VMware vSphere 5」の2倍だったことになる。だが結局、RHEV 3.0の正式版がサポートするRAMの量は、vVMware Sphere 5の半分にとどまっている。
Red Hatによると、β段階でRHEV 3.0がサポートするとされていた「ゲスト当たり2Tバイト」という数字は、理論上の上限だったという。
「当時、RHEL 6.2はまだ出ていなかった。RHEL 6.2がリリースされても、動作保証されるホストの搭載RAMは2Tバイト以下だった」とキャスロー氏は語った。「RHELはもっと強力であり、われわれは最大3.5TバイトのRAMを割り当てたVMをテストしてきた。だが、実際に出荷されているハードウェアが搭載するRAMの最大量は2Tバイトだ」
Red Hatは、ホストがRHEL 6.3ベースになれば、2Tバイトを超えるRAMがホストに搭載されるようになると見ている。
だが、結局のところ、こうした数字の追求は、ユーザーにとっての意義よりもマーケティング効果に主眼を置いたものだ。「企業には、仮想化に適さないタイプのサーバもある」と、Ganart Technologiesのマレー氏は語った。「そうした大量のRAMを使うシステムは、物理マシンで動かしたいはずだ」
顧客は次期アップデート版を待望しているが、RHEV 3.0は既に利用できる。
Red HatはRHEV 3.0で、Windowsをほとんど不要にした。従来のRHEV-Mは、Microsoft .NETとSQLバックエンドをベースとしていた。だがRHEV 3.0では、これらはJavaコードベースとPostgreSQLに取って代わられている。
Ganartのマレー氏によると、ユーザーはこの措置を望んでいたが、それは党派心からではないという。「これまでのバージョンで私がぶつかった問題の多くは、Windowsノードに関連していた。アンチWindowsの色眼鏡で見て言っているわけではない」
これまでは、WindowsベースのRHEV-MシステムからLinuxベースのハイパーバイザーKVM(参考:Linux標準のオープンソースハイパーバイザ「KVM」。注目のベンチマークを公開)にコマンドを発行するには、変換のためのカスタムコードを用意する必要があった。だが、RHEV-MがLinuxシステムになったため、コマンドの発行は「リクエストの送信と同じくらい簡単になった」とマレー氏は語った。
「RHEV 3.0では、KVMの管理と成熟が新たな段階に進んでいる」と、米調査会社IDCのエンタープライズ仮想化ソフトウェアを担当するアナリスト、ゲーリー・チェン氏は語った。「この製品を土台に、ドットリリース(バージョン番号の小数点以下の数字が変更された新製品)が作られていくだろう」
こうしたドットリリースは、積極的なペースで投入されるだろうと、同氏は付け加えた。
Red Hatの課題は、RHEVをサポートするベンダーとのパートナーシップ構築を継続していくことだと、チェン氏は指摘した。「ベンダーは現在、サポートするプラットフォームに優先順位を付けようとしている。Red Hatとしては、その優先順位リストの上位に入ることが重要だろう。
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