取り立てて新しい分野というわけではないデスクトップ仮想化。だが、市場は着実に伸びているという。ベンダーによる地道な技術革新と業務端末の多様化が後押しする。
デスクトップ仮想化(Virtual Desktop Infrastructure:VDI)は新しい領域でもなければ急速に参入するベンダーが増加している分野でもない。しかし、着実に利用が伸びている分野である。そのきっかけとなっているのが、スマートフォンやタブレット端末といった、クライアントとなるデバイスの多様化だ。しかも、BYOD(Bring Your Own Device)といわれるように社員が自身の端末を持ち込むなど、セキュリティを含めた運用管理を行う側にとっては管理が複雑で難しい状況となっている。こうした動きに対し、デスクトップ仮想化技術/製品はどう変化しているのか。アイ・ティ・アールのシニア・アナリスト 三浦竜樹氏に動向を聞いた。
三浦氏はデスクトップ仮想化市場について次のように分析する。「具体的な数値は明らかに出来ないものの、デスクトップ仮想化は着実にベンダーの売り上げが伸びている分野となっている。最近はベンダー本社で日本市場向け施策予算を削る分野が多い中で、デスクトップ仮想化は日本市場向けにきちんと予算を確保し、展開しようとしている分野の1つ」
その要因は次の3点である。
さらにデスクトップ仮想化普及の追い風となっているのがタブレットおよびスマートフォンの浸透である。
「日本のビジネスパーソンの多くが、外出先での作業はメールの送受信、スケジュールのチェック程度で事足りる。それ以上の作業が必要な人は既にノートPCを持ち歩いている」(三浦氏)
スマートフォンを利用しても作業はメール送受信とスケジュールチェック程度というと、情報漏えいの危険は低いように思われる。だが、「メールで送られてきたファイルをEvernoteやDropboxのような情報共有サイトに置いたり、FacebookのようなSNSでファイルを共有したりしたことから情報が漏えいすることがある。こうした事態を防ぐために、企業はBYOD全面禁止か、システム的な管理を行うかのどちらかを選択せざるを得ない。現在、ベンダー側がチャンスと考えているのは、全面禁止が難しくシステム的な管理を行わざるを得ないケース」(三浦氏)。あらためてシステム的な管理を行う必要性がクローズアップされてきているという。
デバイスが多様化する際、問題となるのが企業の固有アプリケーションをどう動かすかという問題だ。新たにスマートフォン用に作り直したり、Webアプリケーション化するケースもあるが、「スマートフォン用アプリ開発にはコストが掛かる。Web化した場合、スマートフォンやタブレットに最適化されていないため、『操作ボタンが小さくて作業がしにくい』といった不満が挙がるケースもある。そうした作業を行うよりも、デスクトップ仮想化で一元的に多彩なデバイスへの対応を行った方がコストも手間も少なくて済むという認識を企業側が持つようになっている」と三浦氏は指摘する。
ベンダー側でも、スマートフォンを介して仮想デスクトップを利用する際、少ない作業でスマートフォンに適した画面操作ができるSDKを提供。デバイス多様化に対応する用意を調えている。
最初に紹介したように、日本ではクライアント端末を管理するシステムの導入が欧米に比べ遅れているとされてきた。しかし、自前のスマートフォンやノートPCを利用するBYODが台頭。さらにそれを認める企業が増えてきていることで、デスクトップ仮想化のようにシステム的に端末を管理する必要性が高まっている。こうした状況を見て、各ベンダーが日本市場で攻勢をかけようとしている。
三浦氏は、「デスクトップ仮想化が市場拡大するもう1つの要因がある。各製品の機能が着実に進化していること」だと指摘する。
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