OpenSSLへの寄付は年間わずか20万円
「OpenSSL」は見殺しにされた? Heartbleed事件を招いた“真の戦犯”
OpenSSLの脆弱性「Heartbleed」の影響が広がったのはなぜか。その背景をひも解くと、OSSの開発やサポートには、人的・資金的なリソースが圧倒的に不足している現状が垣間見える。
「Heartbleed」事件を機に、多くの企業がオープンソースソフトウェア(OSS)のセキュリティを見直している。読者もこの機会に、自社のセキュリティの現状を再確認してはいかがだろうか。
最近の調査によると、企業が業務にOSSを利用する大きな理由が、セキュリティと品質だ。だがHeartbleed事件の後、多くの企業がOSSに懐疑の目を向け始めている。Heartbleedという脆弱性の発見は、OSS、クローズドソースソフトウェア(CSS)、プロプライエタリソフトウェアでは、どれがセキュリティに優れているかという感情的な議論を再燃させた。
OSSは本当にセキュアなのか?
OSSの支持者たちは「『リーナスの法則』に従うのが、よりセキュアなアプローチだ」と主張する。リーナスの法則とは、「十分な数の目玉があれば、全てのバグは洗い出される」というもの。言い換えれば、開発者基盤が大きければ大きいほど、ほとんど全ての問題とその対策が明らかになる、ということだ。例えば、OSSの「Linux」は、全世界の開発者が1時間当たり9件の貢献をしており、それが改良と修正の原動力になっている。
だがHeartbleed脆弱性の中心にあるOSSである「OpenSSL」の問題は、OpenSSLが広く利用されているにもかかわらず、広範なサポートが提供されていないということだ。
OSSのセキュリティの現実や安全性に関して、企業はHeartbleed脆弱性からどんな教訓が得られるのか。そして自社にOSSをセキュアに導入する際に留意すべき事柄とは何なのだろうか。
OSSのセキュリティリスクとは
プログラムのソースコードが公開されているからといって、そのプログラムを正しく理解し、定期的にその評価とテストをしている専門家がたくさんいるわけではない。OpenSSLは、推定で全世界のWebサーバの約3分の2で使われているにもかかわらず、そのコードを検証したり、現在でも安全であるのかどうかを(つい最近まで)誰も確認しようとしかった。2年にもわたってHeartbleed脆弱性が気付かれることなく放置されていたのは、そのためだ。
とはいえ「欠陥が発見されて修正されたのだから、OSSモデルはうまく機能した。ソースコードが公開されていなければ、こうした検証や修正は不可能だ」と主張する人も多いだろう。
サポートされていないソフトウェアの使用を社内規定で禁じている企業は多い。だが現実には、何千社もの大企業がOpenSSLプロジェクトで開発された重要なセキュリティソフトウェアを何の疑問も抱かずに配備してきた。同プロジェクトは年間わずか2000ドル(約20万円)程度の寄付を受けているにすぎず、フルタイムのスタッフは1人しかいない。OpenSSLのような複雑なソフトウェア製品をサポートするのに必要なマンパワーを維持するには、リソースが決定的に不足しているのが実情だ。
Linuxや「OpenStack」などのOSSプロジェクトは一般に、そのソフトウェアを利用する企業から専従スタッフの提供を受けている。これらのスタッフは、プロジェクトに協力するとともに、コミュニティー全体でコードを共有している。
注意しなければならないのは、OpenSSLがOSSであることがHeartbleed脆弱性の原因ではない、ということだ。OpenSSLプロジェクトが必要なサポートを得ることができなかったことが原因なのである。このため、OpenSSL Software Foundationは現在、コードの定期的な検証と変更記録の作成、複雑さの軽減、コミュニティーとの意思疎通の改善などの取り組みに必要な資金援助を求めている。
OpenSSL Software Foundationが特に求めているのは、重要なセキュリティライブラリを広範に利用しながらも、長い間それを当然のように思ってきた民間企業と政府組織からの支援だ。Heartbleed脆弱性を修正するには数百万ドルの費用が掛かる見込みだが、わずか数千ドルの開発援助資金が提供されていれば、この問題を避けることができたかもしれないのである。
幸いにも、米Facebook、米Google、米IBM、米Microsoftなどの業界大手は、Linux Foundationと共同で「Core Infrastructure Initiative」というプロジェクトを立ち上げた。このプロジェクトの狙いは、OpenSSLなどのOSSのコア技術をめぐる資金調達と開発環境を改善することにある。
この資金援助がOSSに追い風となるのは間違いない。ただし企業は、OSSを社内で利用する際に検証を怠ってはならない。これはソースがオープンであるかクローズドであるかにかかわらず、どんなタイプのソフトウェアについてもいえることだ。
OSSのセキュリティに関するベストプラクティス
企業がHeartbleed事件から学ぶべき最大の教訓は、ソフトウェアのセキュリティに関しては、誰かが「このソフトウェアは安全だ」と言ったとしても、それを当てにしてはならないということだ。企業のセキュリティチームは独自にリスク評価を行い、自社のインフラに影響する可能性が高い脅威に対して、ソフトウェアのコードやコンポーネントのセキュリティが確保されているか検証しなければならない。また、全ての前提条件を文書化して第三者による検証を可能にする必要もある。
リスク評価には、「脆弱性が発見されたら、すぐにパッチが配布されるのかどうか」「パッチはどのような形で提供されるのか」といった問題の分析も含めるべきだ。特にOSSの場合、コントリビューション(寄贈コード)の評価と採用に関する明確な基準を持った成熟したコミュニティーが存在し、エラーや問題に対処するための体制が整っている必要がある。さらにいえば、ソフトウェアのダウンロード件数よりも、配備の成功例を検証したケーススタディの方が価値があるということだ。
ソフトウェアの問題は、OSSに限ったことではない。クローズドソースの商用ソフトウェアに関していえば、企業はセキュアな開発ライフサイクルフレームワークが何らかの形で運用されていることを確認する必要がある。ベンダーにソフトウェア開発ライフサイクルについて問い合わせ、資料を請求すればいいのだ。セキュリティを重視した健全な開発プロセスを採用しているベンダーであれば、情報提供をいとわないはずである。あるいは少なくとも、開発責任者に製品のセキュリティに関する説明をさせるだろう。
企業がオープンソースとクローズドソースのどちらのソフトウェアを採用するにせよ、コンポーネントに突然、障害が起きたり、それが弱点になったりすることがあるという前提でインフラを構築することが肝要だ。コンポーネント間の依存関係を理解し、必要があればそれらを交換できるようにしておく必要がある。
オープンソースかクローズドソースかにかかわらず、ソフトウェアの障害に耐えられるインフラを構築することが、将来のソフトウェアの脆弱性が企業とそのデータにもたらすリスクを最小限に抑えることにつながるのだ。
本稿筆者のマイケル・コッブ氏は、セキュリティを専門とする著名なライターで、IT業界において20年以上の経歴を持つ。現在は理解と実践が容易なITセキュリティのベストプラクティスの作成に力を注いでいる。共著書に『IIS Security』があり、大手IT出版社に多くの技術記事を寄稿している。Microsoft認定データベースアドミニストレータ(MCDBA)、Microsoft認定プロフェッショナル(MCP)の資格を持ち、CESG(英国の情報保証国家機関)認定のアドバイザー(CLAS)に登録されているコンサルタントでもある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
技術文書・技術解説
[アトラシアン株式会社] IT運用や従業員サポートは生成AIでどう変わる? 使い方や導入の流れは? -
製品資料
[株式会社みらい翻訳] 音声翻訳活用の課題を解決、“本当に使える”ツールの特徴とは? -
製品レビュー
[Wrike Japan 株式会社] 400店舗を支えるWalmart Canada、散在する情報やアナログな管理をどう変えた? -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 年間100件超のDXプロジェクトを統合管理、JERAはどのように実現した? -
事例
[Wrike Japan 株式会社] グローバルなクリエイティブ業務を合理化、エスティーローダーに学ぶ実践のコツ
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
全社標準Copilotに絶望? MS Copilotで問い合わせ6割減できた企業は何が違った
-
2
身代金支払いは逆効果 情シスのためのランサムウェア対策ガイド2026
-
3
自社を守る「SCS評価制度」活用法 7割の企業が取引先起点の情報漏えいに直面
-
4
ランサムウェア、暗号化の89%は深夜 情シスが備える「夜間の空白」対策
-
5
多要素認証導入済みでもランサムウェア被害に 復旧費用は平均2億7000万円
-
6
「技術屋」で終わるか、部長へ昇格するか 今取りたい「IT×ビジネスの認定資格」5選
-
7
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
-
8
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
9
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
-
10
AIエージェントを暴走させない設定、済んでますか? 対策5選を専門家が紹介
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
2
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
3
生成AIで文書活用を進めるには? 効率化と安全性をどう両立する
-
4
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
5
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
6
国税庁の次世代基幹システム「KSK2」稼働開始に向けて、対応すべき変更点とは?
-
7
「スクラム」と「カンバン」の違いとは? アジャイル型開発手法を徹底比較
-
8
AI時代に成功するための「ナレッジマネジメント」ベストプラクティス
-
9
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
10
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー