増える“脱クラウド”、企業がオンプレミスに戻ることを決断した理由は?自動化と構成管理ツールで迅速に移行

クラウド利用が成熟化するにつれ、利用規模の縮小や、クラウドからオンプレミスへの回帰を考える企業が増えている。あるIT担当役員が経験した“脱クラウド化”の事例を紹介する。

2017年04月14日 12時00分 公開
[Esther SheinTechTarget]

 イジャズ・ウッラ氏は、クラウドベースの医療記録サービスでカナダ最大手のNightingale InformatixでIT担当副社長兼プライバシー責任者を務めていたとき、2つのシステムに責任を持っていた。1つは、プライベートクラウドで運用していた「Nightingale On Demand」(以下、NOD)。もう1つは、パブリッククラウドで運用テストを行っていた「Nightingale v10」(以下、v10)だ。

 パブリッククラウドシステムのNightingale v10は、同社のデータセンターで構築されたもので、北米の110の外来診療所でβ運用されていた。ところが突然、正式公開へのロードマップは一変した。

 2016年秋に(v10が6月にクラウドで提供開始されてからわずか数カ月後)、Nightingale Informatixはカナダの通信会社TELUSに買収された。TELUSはv10の商用化を取りやめた。ただし、買収手続きが進められていた3カ月間、v10の開発はオンプレミスで継続された。「TELUSが、v10は売却できると考えたからだ」とウッラ氏は説明する。

 「v10ソフトウェアの販売が取りやめになったと聞いてがっかりしてしまった。われわれは高度な自動化システムの開発に膨大な時間を費やしていたからだ。われわれにとってこのシステムは大きな誇りだった。もっとも、この製品の開発とデプロイでは貴重な教訓を得た。それらの過程で学んだ知識は移転可能なものだ」とウッラ氏は振り返る。同氏は現在、TELUS Healthの技術戦略およびデリバリー担当ディレクターを務めている。

 ウッラ氏のチームは3年がかりでv10を開発し、クラウドインフラの構築や自動化関連の統合も行っていた。パブリッククラウドで提供していたβ版は、見本市で売り込みが行われ、多くの外来診療所をユーザーとして獲得していたが、その後の位置付けや扱いについては、明確な新方針が決定された。

 それは、「TELUSによるNightingaleの買収完了後、この医療記録システムのパブリッククラウド版を提供する取り組みは全て終了し、ウッラ氏とそのチームは、v10の“脱クラウド化”に当たる」というものだった。

“脱クラウド化”のトレンド

 ワークロードの脱クラウド化に取り組むことになったのは、ウッラ氏とそのチームだけではない。

 オンプレミスでのワークロード実行と比べたクラウドコンピューティングのコストとメリットに関する企業の理解が深まるとともに、オンプレミスに回帰する企業も出てきている。DatalinkとIDGが最近発表したIT担当者に対する調査(回答者:100人超)によると、パブリッククラウドの利用経験がある企業の40%近くが、パブリッククラウドに移行したシステムを自社のデータセンターに戻していることが分かった。多くの回答者がその理由として挙げているのは、セキュリティ(55%)、コストや料金の問題(52%)、管理性(45%)だ。

 CompTIAが2016年9月、ビジネス担当役員とIT担当役員を対象に行った調査(回答者:約500人)でも、システムをオンプレミスに戻す決定を行った理由について、ほぼ同様の回答傾向がみられる。すなわち、回答が多い項目はセキュリティ(58%)、コスト目標の未達(30%)、統合の失敗(24%)、信頼性に関する不満(22%)だ。セキュリティは、永続的な問題ではないとしても、現時点では最大の問題となっている。

 「企業が特定のアプリケーションについて、クラウドプロバイダーが提供できる以上に強力なセキュリティを自社が求めていることに気付くことがある。その場合、そのアプリケーションをオンプレミスに戻して、管理を強化することを選ぶのかもしれない」と、CompTIAの技術分析担当シニアディレクター、セス・ロビンソン氏は語る。

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