2018年07月03日 08時00分 公開
特集/連載

顧客ファーストのデジタルサービスを実現する方法Computer Weekly製品ガイド

密接につながった世界の中で、企業が顧客のニーズについてきめ細かい理解を深めるための手段を紹介する。

[Christian Annesley,Computer Weekly]

 ビジネスにおいて、顧客は常に正しいのかもしれない。だがその顧客とは一体誰なのか――。それは事の核心を突く疑問だ。あまりに多くの企業が長年の間、自分たちのことばかり考えるあまり、顧客のニーズやカスタマーエクスペリエンスについてほとんど考えてこなかった罪に問われるとしても。例えばKodakやBlockbusterに尋ねるといい(両社ともNetflixを買収して顧客の潮流の変化に乗るチャンスが十分にありながら、それを全て突っぱねた)。

 企業が競争で優位に立ち続けるためにはさまざまな手段がある。だがその中でも、顧客のニーズに応えるために顧客についてきめ細かく理解することは、最も価値が大きい。顧客は誰か。何を購入するのか。どのチャネルを好むのか。価格や宣伝の変化にどう反応するのか。そうした基本的な疑問は、ほとんどの人が難なく挙げられるだろう。たとえ答えを出すことは難しいとしても。

 次の課題として、現在の多くの分野において、顧客に製品をどう届けるべきかを理解することが、かつてなく重要性を増している。その一因として、画面をタップするだけで価格の比較やレビューなどを参照できるようになり、常連客をつなぎ留めることが難しくなったことが挙げられる。

顧客中心の開始

 顧客中心(customer-centric)ビジネスにまつわる理論に肩入れするのはたやすい。だが、顧客中心主義を実現するのはほとんどの場合、簡単ではない。

 グローバルコンサルティング会社EYのパートナーでカスタマーインサイト・セグメンテーション専門家のイアニス・メラス氏によると、企業が真のデジタルトランスフォーメーションに由来する潜在的な可能性を受け入れ始める中で、一部の企業が顧客に話題にしてもらうためにここ数年取ってきた行動が、より完全性の高い交流モデルに取って代わられつつある状況が目覚ましい。

 「長年、CRMやERP企業がデジタルトランスフォーメーションを過大に売り込み、理想的には企業が飛躍する手段としての潜在的可能性があると説いてきたことを考えると、これは誇張に聞こえるかもしれない。だがそれは、もはや当てはまらない」(メラス氏)

 同氏によると、現在最も有力な企業は、意思決定権者(消費者個人であれ、世帯であれ、大企業であれ)と交流する方法を確立し、働き掛け、収益につなげようとする段階にある。

 「言い換えれば、それで全てが解決できるものとしてのセルフサービスの概念から離れつつある。企業は顧客エクスペリエンスや顧客との関係を考え、顧客のライフサイクルを横断する取り組みを行っている」と同氏は言う。

 「デジタルがチャネルを変革する存在と見なされ、接点をコンタクトセンターからオンラインポータルへと切り替えたのは、それほど昔ではない。だが、発見段階において、そして獲得した顧客が購入などのさまざまな段階を経る中での適切な関係こそが、進むべき道だという理解が深まっている」

 顧客中心の思考がどこよりも早く進展したのが小売業界であることは間違いない。この業界の動向に目を向けて教訓を学ぶことは役に立つはずだ。

 コンシューマー製品を専門小売業者のJMLは、店頭とインターネットの両方で革新的なフィルムマーケティングを展開した。現在の年商は1億ポンド(約153億円)を超え、70カ国以上で製品を販売する。その全てで、テレビCMと店内のスクリーンに映し出す宣伝の組み合わせを通じて新しい概念の製品を宣伝するビジネスモデルを採用している。

 JMLのデジタル・電子商取引責任者、ジェイ・ホワイティング氏は言う。「われわれの業務は極めて複雑だ。だが顧客は、企業としてのわれわれが、製品を提供するためにさまざまな部門やサービスを運営しているかどうかなど気に留めない」

 「だが顧客にも期待はある。もし誰かが実店舗のどこかで商品を買ったとして、その後インターネットで買い物をする際には、われわれが点と点を結んでそれに関する情報を持っていることを恐らく期待する」

 だが、それが期待されたとしても、実現するのは難しい。商品販売システムはそうした複数チャネルのアプローチに対応しているかもしれないが、JMLのような企業、そして他の多くの企業にとっても、現実はもっと混乱に満ちている。

 同社はAsdaなど大手の実店舗内にある販売所を通じて商品を販売している。このためデータ収集は思うよりも難しい。最近では赤字が続いた多数の海外事業の打ち切りを強いられ、海外の子会社経営ではなく英国からの輸出に力を入れることにした。「これは大きな変化であり課題だが、小売業界では珍しくない。方向転換して順応するのが小売業者のやり方だ」とホワイティング氏は言う。

 その目的でJMLは2017年、「Microsoft Dynamics 365」を使った野心的なCRMプロジェクトに乗り出した。その目的は、新しいインサイトを掘り起こし、顧客についての理解を深めることにある。「これはリードを開拓し、接点を育み、販売状況を把握して、行動に結び付くデータを引き出すためのパワフルなツールだ。しかし、当面の課題は自分たちのニーズに合わせて調整することにある」とホワイティング氏。「われわれは今、そこへ近づいている」

 ホワイティング氏が自身の職務を通じて実現しなければならないと明言する同社の大きな野心は、国際業務を再編した2017年にあっても、2019年末までに売り上げを倍増させることにある。「われわれは小売り、オンライン、デジタル業務を発展させながら、業務の重点を国際流通モデルへとシフトさせている。CRMプロジェクトはそのプロジェクトの中心にある」

 「確かに野心的だが、もしうまくやれば、学んで行動できることはたくさんある。われわれにとってそれは、異なる活動が売り上げに与える影響を追跡することだったり、何がうまくいくかを学習することだったりする。例えば、テレビ活動は定期的にわれわれのインターネットトラフィック、特にモバイルのトラフィックを増大させる」

 「トラフィックが増大しても、顧客になってくれるかもしれない相手の関心を引いたからには、会話を発展させる方法を理解しているかどうかが問われる」

 JMLの状況は特に課題が多いとホワイティング氏は言う。同社の顧客は年齢層が高く、他の層に比べ携帯電話経由で買い物をする気になりにくい。

 「だがそれも全て購入サイクルの一部だ。デスクトップPCやタブレットに比べて携帯電話での会話が少ないというだけの理由で、売り上げに、そして関係に近づいていないということにはならない。もちろん、コミュニケーションを完結させて買い物を済ませてもらいたいとは思うが、関係を向上させて関心を高めてもらうためにできることは何であれ、一歩前進だ。われわれの仕事の一部はそこに重点を置いている」

 インターネット業務を展開しているどんな小売業者にとっても、顧客が購入前にオプションを選んで比較できる点は課題だ。ホワイティング氏は言う。「もちろんそれはチャンスでもあるが、われわれは常に、参戦しているのは自分たちだけではないと理解している。顧客が店頭で商品を見て立ち去り、インターネットで探すこともある。例えば、翌日配送が保証されるAmazon Primeのアカウントを持っていれば、Amazonで買おうとするかもしれない。顧客が取り得る行動はたくさんある」

 JMLのCRMプロジェクトでは、顧客と交流するあらゆる接点を通じて広い視点で顧客を見ることに重点を置く。「コンセプトは単純だが、多くの小売業者にとって実現は難しい。多くの企業は社内で個々に孤立して損益を計上しており、その枠は簡単には破れない。われわれも個別の業務を運営しているが、どうすれば連携できるかを理解しようと努めている」(ホワイティング氏)

 「これは大人になることだともいえる。自分たちの売り込み方は分かっていると主張するよりも、思考においては顧客を中心としなければならず、従来型の販売モデルが変化していることを認めなければならない。BHSのように、方向性を変えないところはバランスを失って失敗する危険を冒す。われわれはそのことを認識している」

 では、JMLのような企業にとってデータは何を物語るのか。同社は何を学び、どう行動に結び付けようとしているのか。「昔ながらの現象が、ビッグデータによって理解できることもある」とホワイティング氏は言う。

 「データをよく調べると、購買パターンが目に見える。例えば国内の特定地域では、他の地域に比べて特定の種類の製品がよく売れることもある。気象データに応じて適切な商品をテレビのショッピングチャネルで取り上げたり、店頭に陳列したりすることもできるかもしれない。そうした種類のチャンスがあるということだ。電子メールの宣伝キャペーンでガーデニング製品を売り込もうとしたときに雨が降っていれば、失敗は目に見えている」

 同社の行動の中には試行錯誤的な要素もあるが、要点は自分たちの実績に照らし合わせて評価を行い、改善を促すことにあるとホワイティング氏は言う。「われわれは完璧になろうとはしていない。ただ、向上のため、そして向上し続けるために努力する。成長のチャンスは常にある。われわれは世界中に顧客を持ち、そして今や世界中にオーディエンスがいるのだから」

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