デジタルカスタマーエクスペリエンスの強化に向け、いかに小売り業務を転換すべきか。Forresterの「Digital Store Playbook」から抜粋して紹介する。
現代の消費者は、単なる「製品」ではなく「エクスペリエンス」を買い求める。自分の会社がエクスペリエンスよりも製品の販売を重視していると思うようでは不安だ。だが幸いなことに、デジタル技術を活用すれば新しい方法で消費者と交流しながら、同時に店舗運営を改善できる。
デジタルを活用した店舗の販売スタッフ用と消費者用のセルフサービスツールは、ショッピングのプロセスに応じて個々の消費者に合わせた支援を行うアシスタントを提供する。デジタル技術は店舗運営にも利用できる。人員配置やタスク管理、オムニチャネル実現、紛失防止などを自動化する一助にもなる。その全ては効率と柔軟性の大幅な向上につながる。
消費者は買い物についてどんなことを考えているのか。Forrester Researchの予想では、2022年までに欧州の小売り販売の半数以上にスマートフォンやタブレットを中心とするデジタルタッチポイントが介在するようになる見通しだ。
消費者は製品について調べたり購入したりするためにさまざまなタッチポイントを使いながら、相手にするのは一つのブランドや組織であってほしいと考える。つまり、消費者が小売り製品を発見し、調べ、購入する過程で、デジタルプレゼンスは欠かせない。画像、評価やレビュー、製品のサイズやフィッティング情報は、オンラインと実店舗の両方で売り上げを大きく左右する。
究極的には、過酷な競争や薄利、こだわりの強い消費者の中で生き抜くことができるのは、変わり続ける消費者の行動と期待にオンラインと実店舗の両方で順応できる業者だ。
では、今の消費者は昔の消費者とどう違うのか。第一に、消費者は常にネットに接続している。欧州でインターネットを利用する成人の約64%はモバイルフレンドリーなWebサイトを求め、51%はそうでなければいら立ちや不満を感じる。モバイルフレンドリーなWebサイトであれば、61%は再度利用する公算が大きい。
Argosのモバイルアプリのようなセルフサービスツールは、在庫をチェックして物理店舗にある在庫から購入できるようにすることで、チャネルにこだわらない消費者に付加価値を提供する。
第二に、デジタル技術は消費者の期待を根本から変化させた。あるファッション小売業者のデジタルビジネス担当幹部は、「消費者は最初から小売業者より先を行っていた。小売業者はある意味で、消費者を追い掛けている」と語る。
何が起きているのか。消費者は店内で買い物をしながらモバイル端末を信頼できるアドバイザーと見なし、店内で見た値段や情報を確認するにしても、競合他社のWebサイトで購入するにしても、自分が求める情報やサービスが店内で得られることを想定している。店内にいる消費者は、オンラインと同じ品ぞろえと迅速な配達、製品情報を期待する。
Marks & SpencerやTOPSHOP、ZARAなど欧州の小売業者の多くは、消費者が店の在庫をオンラインで確認できるようにしている。ただ、ArgosやFnac、Saturnのように、消費者がその店の在庫をオンラインで購入できる業者は数少ない。
デジタル事業担当役員が指摘するように、ショップ販売員の効率が高いほど、その販売員が顧客対応に費やせる時間は増える。
店内デジタル技術の可能性を検討するに当たっては、その投資が消費者の期待に応えられるか、業務の効率を高めてリアルタイムの行動とインサイトを引き出すことができるかを検討しなければならない。
小売り組織のデジタル担当役員の45%は、個々の消費者に合わせ、その場面に応じたエクスペリエンスを販売員が提供できるよう、スタッフ支援のためのエンゲージメントデバイスに対する新規の投資を行ったり、投資の拡大やアップグレードを行ったりしている。
現代の販売員は、消費者が自分のスマートフォンや店内の双方向タッチ画面を通じて得られる以上のサービスと価値を提供する必要がある。例えば消費者のそばを離れることなく在庫切れの商品を注文したり、在庫を確認したりしなければならない。
一例として、英国でホームセンターを展開するB&Qは、仮想現実ハンドセットを使って客の台所のデザインを支援している。百貨店のJohn Lewisが提供するタッチスクリーンサービス「Interactive Sofa Studio」は、客がさまざまな色やスタイルの組み合わせを可視化できる。
デジタルでつながる試着室は、売り上げを増やし、買う気にさせるための技術とデジタルサイネージを変革させた。客は値段の確認や製品カタログの閲覧ができる他、店によっては拡張現実に対応した鏡によって、試着室を出ることなく衣類を「試着」できる。
小売業者は新しい店内技術を本格導入する前に、実験やテスト、分析を行い、客と販売員、そしてビジネス全体にとって何が役に立ち、何が役に立たないのかを迅速に見極める必要がある。
デジタル技術は在庫やタスク管理、紛失防止を含めた全般的な店の運営を最適化する。店内ソリューションを利用すれば、小売業者はデジタルタッチポイントのための分析に匹敵する方法で、商品や不動産の実績を分析できる。
リアルタイムのデジタルストア分析は、全般的な店舗経営や労働の最適化、店の効率性、販売員の効率性、在庫管理を含め、目に見える運営の改善と成長を約束する。例えばlululemonは、何百万もの商品にタグ付けするRFID(Radio Frequency Identification)トラッキングシステムを導入し、欠品ゼロと精度98%の在庫可視化を実現した。
小売業者はリアルタイム分析と顧客データを活用し、そうした情報を位置情報や時間、天気、物理的活動などの高度なセンサーデータと組み合わせることによって、場面に応じた適切なエクスペリエンスを顧客や販売員が必要とする瞬間に提供できる。
小売店を真に変革させるためには、デジタル業務と物理業務の全てを横断する顧客主導主義へと組織全体を変革させる必要がある。これは難しい課題だが、どこから着手すればいいのか。
第一に、デジタルストア構築には単純なロボットや仮想現実、あるいはスタートレック的な技術の導入以上のものが求められる。真の価値を引き出すためには、従来のようなサイロ型の組織構造や旧式の技術、時代遅れのインセンティブがもたらす障壁を打ち崩し、デジタルストア技術を全社的なシステムやデータおよびプロセスと接続しなければならない。
第二に、そうしたつながる技術はデジタルストアトランスフォーメーションの原動力となり、単なるカスタマーエクスペリエンスの向上にとどまらず、小売業者にとっての価値と効率を創出する。デジタルストアプラットフォームは、小売業者の人員配置、在庫の可視化、紛失防止といった分野において、行動に結び付くインテリジェンスを生成できる。
第三に、どんな店にもフィットする万能デジタル技術は存在しない。小売業者は客の満足度や店のプロセスに与える影響を測りながら、継続的なテストや実験を行って段階的にデジタル技術を導入しなければならない。
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