接続端末の増加や用途の変化により、無線ネットワークにはさまざまな課題が生じている。これらを解決しつつ高速な通信を実現すると期待されているのが次世代規格「IEEE 802.11ax」だ。
家庭でも職場でも、アプリケーションの多くの側面がオンラインストリーミングモデルに変わってきている。無線ネットワーク技術も高解像度4Kストリーミングやクラウドサービスの使用量の増加に合わせて進化する必要がある。
IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)は「IEEE 802.11ax」規格を公開し、インターネットサービスの需要増がもたらす課題に対処している。
802.11axは、将来を見据えて以前の無線規格「802.11ac」を更新するものだ。無線LANは今後10年のうちに2つの大きな課題に直面するだろう。
一つは無線ネットワーク環境の密度が次第に高くなることだ。これはネットワークの対応範囲が拡大し、転送速度を上げるためにアクセスポイントが増えることで生じる。もう一つは今後数年でスループットの高速化がさらに求められることだ。これはオーディオや動画コンテンツの高精細化に向けたインターネットの進化やクラウドベースのサービスによって起きる。
多くの人々が既にスマートフォン、スマートウォッチ、タブレットなどのインターネット接続型の機器を複数持ち歩くようになっている。この数は今後も増加すると予想される。ネットワーク接続型機器の数は、2020年には世界中で310億台、2025年にはその倍以上になると予測されている。
ネットワークに接続する機器が大幅に増えれば混雑が起きる。その結果、企業は十分なサービスを確保するためにアクセスポイントを増やす必要が出てくる。こうしてアクセスポイントの密度が高くなる。
このような高密度の環境では、干渉の問題が起こる可能性がある。するとパケットのエラー率(データ転送中に発生するエラーの程度)が上がる。隣接する無線LANチャネルへのアクセスが妨げられることで、特定の領域における同時転送数が減る。
こうしたシナリオでは、大量のアクセスポイントの導入、最適化、調整が困難になる可能性がある。インターネットサービスプロバイダー(ISP)が比較的狭い領域で大勢にインターネットアクセスを提供する場合、特にこれが顕著になる。「802.11axの機能によって家庭、マルチテナントのアパート、企業や公共の場で使用するアプリケーションのパフォーマンスが向上するだろう」と話すのは、IEEE 802.11ワーキンググループ長のドロシー・スタンレー氏だ。
これらのケースでは、アクセスポイントの調整をインテリジェントに行うことで空間の再利用率が向上する。効率の高い媒体アクセスプロトコルを使用すれば同時接続を多数サポートできる。モノのインターネット(IoT)が機能を続けるためには、複数の機器による定期的なインターネットアクセスが必要になる。802.11axはIoT向けに設計されているといえるかもしれない。
「低レイテンシという特性は、IoTや制御システムなど、新しいユースケースを可能にするだろう」(スタンレー氏)
802.11axは、既存の2.4GHzと5GHz帯で機能するよう設計されており、使える場合は1G〜7GHzの帯域を追加で組み込むという、新たなタイプの無線LANだ。
802.11ax端末のデータ速度は802.11acよりも37%高く、この新しい改正により平均ユーザースループットレートは4倍に向上すると見込まれている。これを可能にするのが、スペクトルのさらなる有効活用と、MU-OFDMA(マルチユーザー直交周波数分割多元接続)技術だ。
802.11axの開発者が予想する今後のインターネットの主な用途は、複数グループによるビデオ会議や仮想現実(VR)など、インタラクティブで高精細な動画だ。ビデオ会議もVRも、数Gbitのスループットレートを必要とする。
オーディオや動画のコンテンツによって、インターネットの用途のマルチメディア化が進んでいる。さらに、クラウドでのファイル保存、管理、同期がコンテンツ管理システムや生成システムの標準になりつつある。
予想される今後のシナリオや想定されるユースケースに基づき、802.11axは次の3つの修正を盛り込んでいる。
無線LANは、同じ環境で同時に稼働している別の無線ネットワークやライセンスを保有する機器と共存する必要がある。
システムとユーザーのスループットの両方を強化するには、チャネルリソースの使用効率を向上させる必要がある。
アクセスポイントの需要が増えているため、省電力のハードウェアアーキテクチャと省電力機能の強化が必要になる。
802.11axには、旧バージョンの規格で認証された端末との下位互換性がある。規格が違う端末同士の接続では効率や機能が失われることがあっても、主要機能である接続を維持するために下位互換性は確保しなければならない。
こうした目的を実現するため、802.11axは次の新機能を無線機器に導入する。
CSMA/CA(搬送波感知多重アクセス/衝突回避方式)、伝統的なCCA(クリアチャネル評価)、高い転送レートを組み合わせることで、特定のシナリオにおける空間の再利用がある程度可能になる。
CSMA/CAの機能は、ノードがチャネルにアクセスするたびにデータ転送にかかる時間を短縮する可能性がある。802.11axにはこの短縮を軽減するための解決策が複数含まれている。
無線LANを無計画に導入すると、スペクトルが断片的に占有され、効率が悪化したり隣接する無線LANからの干渉を受けたりすることになるため、ダイナミッククラウドとMU-OFDMAが導入されている。
ダウンリンクMU-MIMO(Multi-User Multiple Input, Multiple Output)があるように、アップリンクMU-MIMOも登場する。その名の通り、複数のユーザーがデータのダウンロードとアップロードを同時に行える。
これら全てが組み合わさることで空間の再利用率向上とスペクトルの利用範囲拡大が実現し、パフォーマンス強化につながる。「802.11axは、スペクトルの効率的な使い方であり、チャネルの中の副搬送波域によってさらに多くのデータを通すことができる」と説明するのは、無線ネットワークのグローバルアグリゲーターiPassでCTOを務めるブラジュ・バフペティック氏だ。
後編(Computer Weekly日本語版 2月20日号掲載予定)では、5Gとの関係、802.11axにアップグレードすべき時期などについて解説する。
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