英国ではIT業界の女性比率が下がる傾向にある。出産や介護などのライフイベントで業界を離れざるを得なかった女性が復職して働き続けられるように、企業はどのような施策に力を入れる必要があるのか。
英国のIT業界では「女性離れ」が静かに進行している。経済活動の冷え込み、男女の賃金格差、育児支援の不足など、障壁は幾つもある。女性がIT業界で長く働けるように、企業はどのような改善策に重点を置く必要があるのか。
「DEI」(ダイバーシティー、エクイティー、インクルージョン:多様性、公平性、包摂性)を意識することは重要だが、単に多種多様なグループからの採用に重点を置くだけでは不十分だ。恵まれない生い立ちの若者に教育、トレーニング、メンタリングを提供している慈善団体SEO Londonの最高責任者を務めるナタリー・リチャーズ氏はそう指摘し、「企業文化の醸成」に取り組むことの重要性を説く。例えば企業の支援施策としてコーチングやメンタリングの活動をする場合は、「共感できるロールモデルを用意するのが望ましい」という。
従業員の査定プロセスに、DEIに基づく主要業績評価指標(KPI)を組み込むことも重要だ。こうした査定プロセスは従業員にとって心理的な安心度が高く、協力的な職場環境を実現するのに役立つ。
業績評価にDEIのコンセプトを組み込むことは、企業がDEIに真剣に取り込んでいるアピールになる。しかし査定プロセスに金銭的インセンティブを加えることは「厳格になりがちで、望ましくない結果をもたらす可能性があるため、お勧めしない」とリチャーズ氏は話す。
従業員エンゲージメント(組織との信頼関係)や帰属意識、定着率を高めるためのアプローチとして、目立たないが有用なのは職場復帰支援とアプレンティスシップ(徒弟制度)だ。コンサルティング会社PricewaterhouseCoopers(PwC)が2016年11月に公開したレポート「Women returners」によると、キャリアが中断した後に復職する女性の5人に3人は、要求スキルの低い仕事や賃金の低い仕事に就いていて、収入は最大3分の1減少している。
一方で、職業相談サイト「womenintech.co.uk」(Free-Work Groupが運営)が2023年度に公開した調査レポート「Women In Tech Survey 2023」には次の記述がある。「IT業界で職場復帰支援に取り組む企業が増えれば、業界に支えられていると感じ、業界にとどまる女性が増える可能性がある」
人材コンサルティング企業Nash Squaredでテクノロジーとデジタルの管理職スカウト部門の責任者を務めるリリー・ハーケ氏は、女性が何を望み、何を大切にしたいかをシンプルに問い掛けることも大事だと説く。同氏は女性から「メンタリングも素晴らしいが、現実に対する支援が必要だ」と言われた経験を振り返る。「社内に託児施設を設けたり、家事に対する有給休暇を与えたりするのはどうだろうか。こうしたメリットこそが、大きな違いを生み出す可能性がある」(ハーケ氏)
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