企業は自社のIT戦略により適したシステムを構築するために、マルチクラウドなど複数ベンダーの製品・サービスの利用を重視するようになりました。マルチクラウドを採用する上での注意点を紹介します。
企業は自社の戦略により適したITシステムを構築するために、単一のベンダーではなく、複数のベンダーとの協力を重視するようになりました。昨今の動きとして顕著なのは、複数のクラウドサービスを組み合わせて使う「マルチクラウド」の採用です。マルチクラウドは企業の戦略に欠かせなくなりつつある一方で、新たな課題を生む要因になっていることも忘れてはいけません。
マルチクラウドの戦略を採用するとき、企業はどのような点に注意が必要なのでしょうか。まず3つの注意点をまとめます。
利用した機能やリソース量に応じて料金が発生するクラウドサービスのコスト(クラウドコスト)は、ますます重要なトピックになっています。クラウドコストを最適化し、抑制するための戦略は、数日で実行できる局所的なものから、より継続的な性質を持ち、最終的に組織の収益を支えるものまで多岐にわたります。
クラウドサービスの利用においては、アプリケーションを問題なく実行できるかどうかだけではなく、コスト効率を高めてプラスの影響が得られるかどうかを考慮する必要があります。それは1回ですぐに答えが出るものではないため、継続的に検討を重ねることが欠かせません。
クラウドコストの最適化戦略では、それにふさわしい技術とインフラを選択することが重要になります。既存のシステムの継続性やセキュリティ、回復力に影響を出すことなく、インフラやエンジニアリングに掛かるコストを含む総所有コスト(TCO)を効果的に削減できなければなりません。それに成功すれば、市場が不安定な時期に、エンジニアのリソースやシステムの可用性などを犠牲にすることなく、新規事業の促進やより良い顧客サービスの提供といった企業価値を高める分野に重要なリソースを割り当てることが可能になります。サービス品質や将来の拡張性を犠牲にすることなく、事業の効率性と収益性を維持できるようになるということです。
システム同士を連携させたり、新しい技術を採用したりすることができないクラウドサービスに依存してしまうと、企業はそのクラウドサービスにロックイン(閉じ込められること)された状態になり、意思決定の自由さを失うことになります。そうなると、現状のシステムで妥協せざるを得なくなり、クラウドコストが膨らむ可能性がある他、運用モデルや開発方式、システム移行、ビジネスモデルなどの自由度を失ってしまう可能性があります。
複数ベンダーの製品やサービスを採用する傾向が強まる結果として、ITシステムの管理が難しくなる可能性があります。実際、監視ツールベンダーSolarWindsの調査レポート「2023 IT Trends: Lessons From Observability Leaders Survey」(注)では、回答者の58%が「アプリケーションの複雑さが増していること」を課題として挙げています。
※注:北米のグローバル企業に所属するIT分野の管理職・幹部クラスの300人を対象に調査。
マルチクラウドを採用する企業のCIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)が担うべき重要な仕事の一つは、自社が使用しているさまざまな技術やシステムがうまく連携して機能するよう標準化し、管理することです。本稿ではこれを統合作業と呼びます。特にITの現場においては、新製品の開発やインシデント管理、顧客への技術サポートといった、その他の仕事を優先しなければならないこともあり、統合作業から注意がそれがちです。
複数ベンダーの製品やサービスを使っていたり、利用する技術やシステムが複数の事業部門や地域に散在したりする結果、CIOやCTOは「その全てを効果的に管理する余裕がない」と捉え、結果として、IT部門の手によらず事業部門による独自システム導入が進む傾向にあります。マルチクラウドを採用してITシステムの複雑化が進む現状において、イノベーションや顧客満足の推進のバランスを考慮しながら取り組みを進めることは決して簡単な仕事ではありません。一方で、統合作業を実施しないことで、セキュリティのリスクや将来のさらなる運用コスト、サービスインまでの時間の増加といったリスクが生じます。
本稿で触れた課題を解消する方法の一つになるのが、オープンソースソフトウェア(OSS)の活用です。OSSの活用は、個々のクラウドサービスの制約を超えて標準化を実現することで、複雑化し過ぎたITシステムをシンプルに管理できるようにします。OSSのコミュニティーを通じてノウハウを蓄積したり、問題解決のヒントを得たりすることで、意思決定のロックインのリスクから抜け出すことも可能になります。
第3回は、OSSを使ってITシステムの複雑化を回避する具体的な方法を紹介します。
ITインフラやクラウドサービスの分野で、エンジニアリングやビジネス企画・開発を中心に20年近くの経験を持つ。2022年4月に、オープンソースのデータプラットフォームを提供するAivenが日本法人を設立する際に同社カントリーマネジャーに就任した。
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