クラウドサービスの価格上昇の背景にあるのは、単なる物価の上昇だけではない。クラウドサービスベンダーがこぞって導入した生成AIのコストが無視できないためだ。
クラウドサービスの値上げが2023年夏ごろから起きている。業界関係者によれば値上げの要因は2つある。1つ目は人件費の高騰だ。2つ目は、クラウドサービスにテキストや画像などを自動生成するAI(人工知能)技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)を導入したことで、値上げが避けられなくなったことだ。
調査会社Gartnerのバイスプレジデントアナリストであるシド・ナグ氏によれば、生成AIの運用にはコストがかかるため、このような価格上昇は予測されていたという。なぜ生成AIにはコストがかかるのか。
ナグ氏によると、OpenAIが開発したチャットbot型AIサービス「ChatGPT」のような、生成AIアプリケーションとの対話は、標準的なキーワード検索と比べて約10倍のコストがかかるという推定がある。
生成AIによるチャットbotは、ユーザーからの質問を理解するための自然言語処理による解析や、シーケンス変換(データを別の形式に変換すること)などの処理を必要とする。これには一定の性能が確保されたサーバが必要になるため、その調達必要が必要になる。電力もキーワード検索より消費する。
加えて、サーバの冷却が必要になり、これにもコストがかかる。クラウドベンダーが大規模なDPU(データ処理装置)やGPU(グラフィックス処理装置)のクラスタで構成されたデータセンターを冷却する場合、エネルギーが必要となる。「こうした技術の運用にかかるコストがエンドユーザーのコストに転嫁されるのは、避けられない」とナグ氏は語る。
生成AIを企業向けにカスタマイズする際、クラウドベンダーはプライバシー、権限、持続可能性、倫理、法律などのさまざまな要件を満たさなくてはならない。「その結果、運用コストも上昇してしまう」とナグ氏は説明する。
SaaS管理ツールベンダーZyloのCEOであるエリック・クリストファー氏は「値上げはSaaSベンダーの間で広がりつつある」と語る。企業のIT部門は、非常に慎重に予算を検討する必要がある。クリストファー氏によれば、一部の企業の最高情報責任者(CIO)は、現在のITシステムの状況を精査し、適宜統合して、コストを節約する方法を模索している。
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