AIを使えば「女性エンジニア」がいなくなる――その不都合な現実女性進出を阻むAI【前編】

AI技術の進歩によって、さまざまな業務の自動化が進んでいる。その中で浮上するのが、エンジニアを含めて女性の仕事が奪われていく懸念だ。なぜ女性ばかりが仕事を失う結果になりかねないのか。

2024年10月19日 08時00分 公開
[Clare McDonaldTechTarget]

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 AI(人工知能)技術が女性の職を奪いかねない――。これは女性向けのプログラミング教育を提供する社会的企業(社会問題の解決を目的に活動する組織)Code First Girlsがまとめたレポートから浮上した懸念だ。社会のさまざまな場面でAI技術が使われるようになる中で、男性ではなく女性の仕事が奪われていく背景には、不合理とも言える問題がある。

AIを使えば「女性エンジニア」がいなくなる

 世界経済フォーラム(World Economic Forum)のレポート「The Future of Jobs Report 2023」は、世界各地にある803件の組織を対象として、2022年11月〜2023年2月にアンケート調査を実施した結果をまとめている。それによると、2027年までに仕事が自動化されると回答した組織は、全業種で約42%だった。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)とその後の動きは、社会的偏見が一部の女性とその仕事に影響を与えたことを示す例となった。パンデミック中に人々が仕事や学校を休んで家にとどまることを余儀なくされたとき、一部の女性は一時休業を求められ、家事を担わされることになった。

 「昇進とはあまり縁のない」仕事、具体的には定型的な管理業務、ドキュメントの執筆、チームの業務改善、コーディング標準の確立などの補助業務は、AI技術に置き換わる可能性がある。Code First Girlsのコミュニティーメンバーのうち一定数が、将来自分の仕事がAI技術に奪われることを懸念している。

 企業や消費者はさまざまな方法でAI技術を活用している。Code First Girlsのコミュニティーメンバーが活用例として挙げたのは、単調な作業を含むタスクの自動化や業務のスピードアップなどだ。そうした使用例の一部は、現在作業を担当している女性の処理能力やコストパフォーマンスを上回る可能性があることをレポートは指摘する。

 Code First Girlsは、AI技術の導入過程で人の偏見が持ち込まれる恐れがあることを強調する。同社は、IT分野における多様性(ダイバーシティー)を推進する非営利団体Tech Talent Charterと共に発行したレポート「Building tomorrow’s workforce: Inclusive skills development in the age of AI」の中でそれを指摘した。

 現状、ソフトウェアエンジニアは男性が大半を占めている。そうした状況下でAI技術の開発が進むと、AI技術に偏見(バイアス)が持ち込まれ、男性よりも女性の方が自動化によって職を失う恐れがあるというのだ。例えばAIモデルの開発に使われるアルゴリズムや教師データは、開発者の偏見の影響を受ける可能性がある。そして今のところ、そうした開発者の中心は男性だ。

 「AI技術は有望である一方、人の偏見と無縁ではない」。Code First GirlsのCEO兼共同創設者であるアンナ・ブレイルスフォード氏はそう指摘する。「インクルーシブ(包摂的)なリスキリングは、人の知性と創造力を偏見から解放する力を秘めている。今回のレポートは、IT企業がインクルーシブなプログラムを推進するための指針になる」とブレイルスフォード氏は述べる。

 この問題の解決策として、レポートは継続的なトレーニングを挙げる。Code First Girlsのコミュニティーメンバーの意見では、女性技術者の才能発揮を支援する最善の方法は「スキルアップ」と「リスキリング」だというものが目立った。

スキルアップの機会を得たい労働者、与えない企業

 コンサルティング企業Boston Consulting Groupが、世界各地の就労者20万8807人に対して2020年10〜12月に実施したアンケート調査では、回答者の68%が継続雇用を目的として自身のスキル育成に意欲を見せた。その一方で同社は2023年、経済誌『Fortune』が選んだ「働きがいのある企業」50社と米国の大手50社のうち88社の年次報告書やESG(環境、社会、ガバナンス)報告書を分析して、レポートをまとめた。それによると、スキル育成を自組織の事業方針に組み込んでいる企業は24%にとどまった。

 2023年2月、Tech Talent Charterと調査ツールベンダーAttest Technologiesは、ITに携わる労働者500人を対象とした調査を実施した。それによると、業務をしながら業務関連のスキルを学ぼうとする意識は、男性よりも女性の方が強い傾向にあった。労働者は独学や勤務時間外の学習など、「これまでにはない方法」でスキルを習得しようとしていることも明らかになった。


 次回は、IT職におけるダイバーシティーの欠如の原因と、問題の解決策を探る。

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