英国家統計局の統計によると、英国IT業界全体の就労者数および女性の就労者数に変動が見られた。この動きを専門家は不安視している。どのような動きがあり、何が原因なのか。
IT業界における女性の活躍推進は積年の課題だ。英国家統計局(ONS:Office for National Statistics)の統計によると、英国のIT業界で働く女性の数が減少し、“憂慮すべき変化”が生じている。どのような動きがIT業界で生じており、その背景に何があるのか。統計から見えてきた、IT業界における人材の現状と課題を見ていこう。
ONSの統計によれば、2023年第1四半期(1〜3月)から第2四半期(4〜6月)にかけて、約4000人の女性数が減少した。これは、2022年第4四半期(10〜12月)から2023年第1四半期にかけて約2万2000人が減少したことに続く動きとなる。
これを「残念で憂慮すべき数字だ」と説明するのは、IT人材紹介企業Harvey Nashのアンディー・ヘイズ氏(英国、アイルランド、中央ヨーロッパ担当マネージングディレクター)だ。
「IT業界は、女性を採用し、仕事を続けてもらうための取り組みを継続する必要がある」とヘイズ氏は主張する。「ただでさえ少な過ぎるIT系の女性の数を増やすために、IT業界は引き続き尽力しなければならない。今回報告された減少は、女性推進の改革を定着させることの難しさを物語っている」(同氏)
英国におけるIT業界の女性の数は2013年以降上昇傾向にあり、2023年6月時点でIT業界に勤める人のおよそ29%を占めるのが女性だ。ただしIT業界でキャリアを追求する女性にとっては、手本となる身近な存在(ロールモデル)が豊富ではないことに加え、採用者にある無意識の偏見、業界としての包括性の欠如といった障壁が複数あり、改革は進んでいない。
女性の活躍が妨げられている一方、英国IT業界全体では、2023年第2四半期の就業者数は第1四半期比で約7万8000人増えておよそ173万人となった。この増加についてヘイズ氏は、「経済情勢の悪化で企業が出費に慎重になり、IT業界の女性の就労に影響があった可能性がある」との見方を示す。
経済情勢の悪化が女性の雇用に影響を与えるパターンは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行影響下でも見られた。育児や介護の負担が増した女性は、効率的に仕事をすることが難しくなったばかりか、パートタイムでの勤務に切り替えたり、休みを取ったりする必要に迫られることがあった。
ヘイズ氏はこうした2023年前半の動きについて、「厳しい経済情勢の中で財政面のプレッシャーにさらされた企業が、出勤する従業員を増やして業務体系を画一化しようとしている」と解説する。そうした動きが、IT業界の女性の減少と関係がある可能性を同氏は指摘する。「企業は先進的な変化を支える取り組みにいっそう力を入れ、有能な女性の採用や定着を妨げないポリシーを徹底させなければならない」と同氏は言い添える。
2022年から2023年にかけての英国IT業界には、就業者数に浮き沈みがあった。英国IT業界における就業者数は、2022年第2四半期から同年第3四半期(7〜9月)にかけて約8万9000人増加した。その後同年第4四半期にかけて約7万1000人が減少し、2023年第1四半期にも約3万1000人が減少した。
Harvey Nashによると、IT業界における就業者数の変動はあっても、ITに関するスキルは多様な職種で必要とされている。特に開発者、サイバーセキュリティ専門家、プロジェクト管理者、ビジネスアナリストといった職種の需要が大きいという。変革をもたらすCIO(最高情報責任者)のニーズもある。「正社員の採用や予算確保に苦慮している企業では、臨時従業員に対する需要が高まっている」とヘイズ氏は話す。
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