IT企業による人員削減の波は、多様性を重視した雇用にも影を落としている。女性人材の確保と定着が困難になりつつある現状に警鐘を鳴らす業界団体のレポートから、女性を取り巻くIT業界の問題と解決策に迫る。
IT業界での女性活躍を支援するWomen in Tech Northと、IT業界への復職支援をするTech Returnersは、どちらもIT業界における人材の支援と雇用促進を目指す団体だ。両団体は2024年9月、IT業界における女性の動向についてのレポート「What Women in Tech Want」を公開した。レポートから見えてきたのは、IT業界に訪れた“冬”と、進まない「DEI」(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン:多様性、公平性、包摂性)推進の現状だ。女性はなぜIT職に就くことをためらっているのか。女性エンジニアが活躍できるIT業界を実現するために、必要なものは何か。
What Women in Tech Wantは、Tech Returnersとその親団体レポート「Breaking Barriers 2023」の追加調査を実施し、IT業界に勤めた経験について尋ねた結果をWhat Women in Tech Wantにまとめた。追加調査の対象になったのは、両団体が2024年2月に開催したカンファレンス「Reframe Women in Tech」の参加者や、技術系コミュニティーに所属する女性だ。
Tech Returnersの共同創設者であるベッキー・テイラー氏は、消費者のニーズを反映した製品やサービスを創出する鍵になるのは「多様性のあるチーム」だと考える。だが最近のIT業界は、雇用を控えたり予算を削減したりする傾向にある。こうした現象を、テイラー氏は「技術の冬」と表現する。
技術の冬を受けて、企業はDEI関連の取り組みを後回しにするようになりつつあるというのがテイラー氏の主張だ。人材やDEI関連の役職が削減されたことによって、IT業界の採用活動は鈍化したというのだ。同氏は「企業にとってDEIは『あれば便利なもの』であり、真のイノベーションに不可欠なものという認識ではない」と話す。
DEI関連の取り組みを後回しにすることが、長期的には企業の成長を阻害する可能性があるとテイラー氏はみる。従来の新卒採用や転職にとらわれない、多様な入職経路を支持する人は、その価値と影響を理解している。一方で、企業にそうした採用を優先させるのは難しい。「この状況が、包括的なITチームの構築を制限している」と同氏は述べる。
「技術の冬の間、復職プログラムや見習い制度、ブートキャンプ、メンターシッププログラムへの投資を進めた企業は一握りだった。だが、そのような取り組みを進めた企業は一定の成果を上げており、最終的には業界をリードすることが期待される」(テイラー氏)
IT業界の多様性の問題は、教育から定着まで全体にわたって存在する。女性がIT業界でのキャリアを選ばない理由が、以下をはじめ多岐にわたることからも明らかだ。
これらの問題は、女性と企業双方の意識改革によって解決できる見込みがある。調査では、「企業は女性がIT業界で直面している障壁についての理解を深め、全社的に共有すべきだ」との意見が目立った。「今よりも多くの女性にIT職への就職を検討してもらうためには、企業が多様な採用の仕組みを整備したり、就職を支援したりする必要がある」という声も上がった。
IT業界でのキャリアに対する女性の関心を高めるには、教育の初期段階から取り組みを始めるべきだ。企業と教育機関が提携して、IT業界でのキャリアについて女子に教育する必要がある。マイノリティーグループと関わり、IT職への応募を促進し、IT業界でのキャリアについての認識を改善することも欠かせない。
参考にしやすいロールモデルの存在は非常に重要だ。特に女性やマイノリティーグループにとって、同じ背景を持つ成功した人を見ることは、IT業界への参入を促す効果が期待できる。
「企業は、女性がIT業界でトップに到達するためのリーダーシッププログラムに注力すべきだ」との考えを示す調査対象者もいた。こうしたプログラムは、IT業界外の女性にとってのロールモデルとしての役割を果たすだけではなく、意思決定権を持ち、ビジネスの運営方法について決定を下せる人材の育成につながる。
一部の回答者は、企業が多様なロールモデルを公開することの重要性を説いた。ただしその際は形式的な取り組みではなく、本人の実績と意思に基づく、企業の真摯な姿勢を反映することが重要だ。
次回は、IT業界で働く女性を増やすためにはどのような施策が有効なのかを考える。
米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。
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